ど-9. 料理は愛情2
佳境に入ってまいりました。
はい、嘘です。すみません。(でも主人公は死に掛けけます)
「おい」
「はい、何でしょうか旦那様」
「お前は俺にこの黒こげだか青紫だか実に珍妙な色と香ばしい毒香の物体を食べろと、そう言うのか?」
「訂正いたします、それは毒物ではなくれっきとした料理で御座います、旦那様」
「料理って…朝食まではこんなものじゃなくて普通にパンとかが出ていた気がするのは俺の気のせいか?」
「いいえ、旦那様の認識は実に儚い夢希望と違い全く以って正しいものです。ただ異なりますのは朝食を作りましたのが料理部のミーシャ様、そしてこの昼食を作りましたのが新人のファイ様と言う事でしょうか?」
「それかっ、それが凶元なのかっ!!」
「旦那様、ファイ様は苦戦しながらも旦那様の為にと立派にその職務を果たされました。料理部の方々がファイ様を除きまして全滅いたし台所が大破、処理部がただ今防毒マスクをしながら苦戦中と言うのはこの際細事にございましょう」
「…そ、それは細事というのか?つーかそこまでしておいて俺はこの目の前の物体を食べなきゃいけないのか?」
「はい、旦那様。真心の篭った料理と言うのはその人に食べられて初めて報われるというものです。それに旦那様に置かれましては何一つ心配する必要はございません」
「これで心配するなって方がむりだと思うぞ?」
「既に部屋の外には医療部ならびに緊急治療室の確保、処理部の解毒班、万が一を考えまして有志を募り仮設いたしました埋葬班を待機させてあります。準備は万全でござます」
「何の準備だよっ、何の!!」
「つべこべ逃げ口上となる言い訳がましい暴言を申される前に早々にお食べください。料理が冷めますと味が落ちる恐れがあります」
「や、これだけ煮立ってれば冷めないと思うよ、うん。てか今更味が落ちるどうこうは関係ないと思うんだけどな?」
「仕方ありません。旦那様がそこまでご所望であらせられるのならば私が手ずから旦那様のお口に料理を運ぶのも吝かではございません。はい、どうぞお口を開きになってくださいませ、旦那様。…あーん?」
「待て、早まるなっ。俺はそんな提案はしてないし命が惜しいんだ。そもそも何故そんな危険てか料理下手な奴を料理部なんかに入れたんだよ!?」
「ファイ様が料理部に入ったのは彼女のたっての希望だからでございます。味音痴を直したいと、そう申されておりましたので私が料理部に入るようにと進めました。旦那様ならどんな料理でも食べてくれるだろうと言うとファイ様はそれはお喜びになられました。…あーん?」
「なっ、そもそもの原因はてめえかよっ!?」
「原因、とは些か心外ではありますが確かに今旦那様の目の前にある料理は元を辿れば私がファイ様に料理を進めた結果と言えなくも御座いません。…あーん?」
「この無責任がっ。そこまで言うならお前が一口食べてみろ。そうすりゃその後で俺がお前の様子を見てから食べるかどうかを考えてやる」
「旦那様、そろそろ腕が疲れてまいりました。…あーん?」
「都合のいい時だけ俺の言葉を無視するんじゃねえよ!!」
「…致し方ありませんか、旦那様」
「はは、遂に諦めたか。……いや、待て。何か目の前の食器が煙を上げて溶けているのは俺の見間違いか?」
「いいえ、気のせいではございませんが然して気にする事でもないでしょう」
「いや、これは明らかに気にする事で――」
「…今ですっ」
「っっ!?」
「旦那様、お味はいかがでしょうか?」
「っ!!っ!?っ!!!!!」
「そうですか。それは大変ですね、旦那様」
「〜〜!!!っ!!?!?………」
「大丈夫です。旦那様ならばきっと生死の境から帰って来てくださるものと、私は心より深く信じております」
「………」
「医療部、処理部の方々、旦那様が予想通り一口目で意識を混濁なさいました。どうそ入って後処理をお願いいたします」
『失礼します…うっ。では早速……』
「ああ、料理の方は置いて行ってくださって結構です。処理部の方々は旦那様の体内の緩和を主に、この料理の処理は無用でお願いいたします」
『え、でも…』
「皆様、どうか覚えて置いて下さる様に。料理とは――愛情の詰まった存在は何物にも変え難いものです。全てにおいて捨てるものは何一つございません」
『は、はいっ!!』
「……では。………ふむ、成る程。この味では確かに料理部の方々や旦那様が倒れるのも無理は御座いませんか。しかし…ファイ様のお心は強く感じられます。ええ、彼女はきっと良い料理人になられる事でしょう。………それまで旦那様の身が持てばよろしいのですが」
本日の一口メモ〜
登場人物紹介
ファイ
料理部の奴隷の少女。
料理の(逆)天才。
『種族』
この世界には龍種、魔種、巨人族、妖精族、小人族、の大まかに分けて計4つの種族がいる。ちなみに龍“種”なのは龍種だけが唯一の“半神半人”的な存在だから。後は全部、ヒト。蛇足だがエルフは妖精族、通常の人間は小人族に入る。魔種はある種の突然変異の総称を言う。
ちなみにこの知識、物語の中ではほとんど関係ない。