ど-83. たま蹴り…それ以外は敢えて言うまい
おそろしや、おそろしや
「世間には『たま蹴り』という遊びがございまして…」
「いや待てお前は勘違いをしている」
「…何がでしょうか?」
「色々とあるが、敢えて一言で言うなら全てを取り間違えている。だから落ち着こう、落ち着こうぜ、な?」
「私は常日頃より落ち着いておりますが。それよりも旦那様の方こそ少々落ち着かれてはいかがでしょうか?」
「おおお俺は落ち着いている。落ち着いているともさ」
「…それで旦那様が落ち着いていると仰られるのならば、確かに落ち着いておられるのでしょうが」
「そんな落ち着く着かないの話は今はどうでもいいんだ。それよりも重要な事がある」
「重要な事、でございますか?」
「ああそうだ。重要な事だ」
「それはどのような事で?」
「お前が今行っているのは決して遊びなんてものじゃないっ」
「そうでしょうか?」
「そうに決まってる!!それは遊びじゃなくて単なる虐殺一歩手前の行為だ!!」
「そんな、虐殺などと。……それはそうと旦那様、避けるのがお上手で御座いますね?」
「避けるわっ!!避けなきゃ死ぬじゃねぇか」
「そんな大げさな」
「全っっっっ然、大袈裟じゃねぇよ!!女のお前にゃ分かるまいっ!!!!」
「そう言えばご存じでしょうか?遠方では魂の事を“たま”と呼ぶ事があるとかないとか」
「いや待てそこで手まで使ってくるのはさすがに反則だろっ!?」
「…そうで御座いますね。一瞬で勝負がつくと言うのも面白くない」
「そもそも全く面白くねぇよ。俺の全生命がかかってるんだぞ!?」
「ですから、それが大げさというのです。私どもは単に『たま蹴り』という遊びを行っているだけに過ぎません」
「くっ」
「む?」
「ふ、ふふ。ここで俺を本気にさせて、ただで済むと思っているのか?」
「――遂に旦那様の本気が?」
「ああそうさ、そうともさ。ここでやらずにいつやるって言うんだ」
「で、あるのならば私も本気を出さないわけにはいかないですね」
「ふっ、いいだろう。相手にとって不足なし、だ」
「本気の旦那様――こちらこそ相手にとって不足は御座いません。ではいざ尋常に………、しかし旦那様、セリフは勇ましいのですが、その腰の引けた態勢はどうにかならないのでしょうか?」
「ならないな。そう言いつ常に隙を窺って蹴りかかってこようとするお前が怖い」
「そうですか。しかし流石本気の旦那様。隙がございませんね?」
「あってたまるかっ」
「…ならば私の方から攻め込み、隙を作るまで」
「――ふっ、甘々だなっ!!」
「な!!」
「先手必勝!逃げるが勝ちだっ!!!!!…じゃあな〜」
「――逃がしませんっ」
本日の一口メモ〜
たま…玉、魂、霊、頭などなど。ロクなのがねぇ
旦那様の今日の格言
「生きているって素晴らしいっ!」
メイドさんの今日の戯言
「負けてしまいました」