ど-82. 縁起もの?
カラオーヌ・・・服を作るの大好きな奴隷の女の子。
もう何も考えられない。
「望み望まれ飲み呑まれ…」
「いきなり何を仰られているのです、旦那様?」
「かくも世情は辛いうつし世なれど、無上無常――」
「…」
「いや待て無言で去ろうとするなッ」
「……」
「な、なんだよその目は?『あぁ、所詮いつもの旦那様ですね?』みたいな目はよぅ!?」
「……旦那様」
「何だよ」
「旦那様が突拍子もなくおかしな事をなされたり、お言いになられるのはいつもの事ですので、よしといたしましょう」
「そこに酷い誤解があると俺は思うのだが…まあ今はいいか。で?」
「ですが旦那様、その御姿は如何なされたのですか?」
「姿って…これ?」
「はい。その真っ白な服は如何なされたのですか?」
「いや、こっちの姿の方が雰囲気が出ると思ってさ、カラオーヌに頼んだら一晩待たずに作ってくれた」
「…カラオーヌ様ですか」
「おう、どうだ、似合ってるか?」
「……えぇ、はい。大変お似合いで御座いますね?」
「何だ?何か言葉に表しようのない危機を感じる気がするのだが?」
「気の所為で御座いましょう。それはそうといたしまして旦那様」
「な、なんだ?」
「そう、怯えぬ様。僭越ながら、私が介錯を務めさせていただきます」
「……、は?」
「辞世の句も既にお読みになられたと言う事で、後は腹部を切りはらうのみ、という事でよろしいですね?」
「宜しいもよろしくないも、…ナンノコトデスカ?」
「何の事、とはないですが。その白装束、旦那様はご存じの上でお着になられているのではないのですか?」
「いや全く。カラオーヌが作ってくれたからそのまま着てるんだが」
「…そうですか。旦那様、おひとつお尋ねいたしますが、カラオーヌ様に何かしら嫌われるようなことをしでかしてしまわれたのでしょうか?」
「未だに何を言われているのか理解できないのだが。……うん、別にそんな事はないと思うけどな」
「旦那様がそう仰られるのでしたら。…恐らくはカラオーヌ様も何も存じ上げなかった、という事なのでしょうね」
「…なぁ、さっきから非常にヤバい事態になってる気もするのだが…結局この服って何かまずいのか?」
「いえ、まずいと言う事もありませんが。私の記憶が確かであるならばただそれは、遥か東の方では俗に言われている死装束、というものであると、ただそれだけの事でございますよ。…旦那様?」
「滅茶、まずいじゃねぇかっ!??…俺何してるんだよ」
「いえ、ですから私がお手を拝借、と。旦那様の一代限りの誉れ高き舞台ですので、首切り役は私がいたしましょう」
「いらないいらないからっ。つかお前、何かまえてるの、それっ?無表情で、剣振り上げて迫ってくるなよ怖いよ怖いってばっ!!」
「私は上手ですよ?」
「何がだー!!!」
「ぇぃ」
「だぁぁぁぁぁぁ!!!今振ったな?お前ためらいも見せずに振り切りやがったな??当たったら死ぬぞおい!!」
「旦那様、健闘をお祈りいたします」
「すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「――隙ありっ」
「ひっ!?」
本日の一口メモ〜
真白い、奇麗な服です。
…介錯仕る?
旦那様の今日の格言
「刃物、怖い」
メイドさんの今日の戯言
「大丈夫ですよ、旦那様ー?」