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 REVERSAL-09

実はこの世界に獣人とかいないという驚愕の事実。

妖精いるのに、ケモノ耳っ娘いないんすよ? 間違ってね、これ!?

黒いケモノ共が地を埋め尽くし、その躯が大地を黒く染め上げる中。


男は空を見上げ、ようとしても洞窟の中だったので見えたのはただの土くれの天井だった。


哀愁にも似た息を吐き出す男。そしてそれに対するは宙に浮かぶ漆黒の大鎌。




「……ふぅ」


『ダンナァ、ため息なんてついてどうしたんで? 肉を斬りたくなったンすか』


「誰が。お前じゃあるまいし」


『そういわれても、オレッチのアイデンティティーは夜な夜な命を刈り取り肉を切り裂くことだからなぁ』


「なに、怖い。その物騒なアイデンティティー」


『オレッチの何倍も怖いダンナに言われる筋合いはねえぜ』


「てか、ダンナって何だ」


『ダンナはダンナ、ニィちゃん、あんたのことだよ』


「……ふむ。よし、俺がお前に最初で最後の忠告をしてやろう。俺のことを『だんな』とか『だんなさま』とか言う言い方をするのだけはお前の儚い命のために止めとけ」


『命のためとは、呼び方一つで大げさだなぁ、ダンナ』


「……ヤツが来る。ヤツが来るんだ。こう、いつの間にか背後に立ってて、さっくりと。うぅぅ」


『……良くは分からねえが、その忠告はありがたく受け取っておくことにしやしょう。ニィちゃんほどの腕前の猛者がそこまで恐れるってぇんだ。尋常じゃないってのは確かだろう』


「尋常……ふっ、その程度の言葉であいつを語れると思うなよ。むしろ言葉なんかであいつのすごさを語れると思うなよっ!」


『ダンナァ、そんな全身震えてまで主張しなくても――っと、いけねぇ、いけねぇ。この言い方は駄目なんでしたね、そういえば』


「ああ。……――ん?」


『? ダンナ?』


「えらいこっちゃ。“鬼”が二匹開放された」


『鬼? 鬼族がどかしたんですか、ダンナ』


「いや、そっちの鬼じゃなくて悪鬼羅刹、“バケモノ”の方の事で。……んー、俺が抑えにいかなきゃ駄目かなぁ?」


『ダンナ?』


「おい、だからその『だんな』って呼び方は止せって。俺の忠告を無駄にする気か」


『おっと。……いやいや、つい呼びやすいもんで、いけねぇなぁ』


「ずばり予言してやろう。お前、絶対いつかそのうっかりでひどい目見るぞ、そうだな、多分女関係とかで」


『いや、鎌のオレッチに女も男も関係ないんっすが』


「って、そうだよ思い出したよ、おい、コレはどうにかならないのか!!」


『これ?』


「そうだよっ! ここ、女っ気がなさ過ぎだろ! 獣臭しかしねえし!!」


『まあ、魔王軍の大半が畜生の類だからなぁ。当たり前じゃね?』


「お前は! 俺を女の子成分不足で憤死させる気かっ!!」


『そんな大げさな……』


「全然大げさでもなんでもないよ! 俺は至極真面目に言ってるんだ!!」


『そう言われても、』


「女の子、女の子、女の子っ、女の子の成分が足りねえ!! 圧倒的に、まったく微塵もこれっぽっちもたりてねぇ!!!!」


『……』


「何だ、その目はっ!! おらっ、文句あるならかかって来いや!」


『だから鎌のオレッチに目なんて無えのよ。それにダンナに切り掛かっても無駄ってのはもう分かったからお断りだぜぃ』


「ちっ、へたれめ」


『……おぉう、何か生まれてこの方感じたことのない感情が湧き上がって来るのを感じるなぁ。なんだ、これ?』


「間違っても恋とかじゃないな。俺はカマの類に好かれる趣味はない。相棒探してんなら他の奴に当たれ」


『おぉう、オレッチとしてもダンナァにオレッチのこと使ってもらおうとか考えねえよ』


「無機物の愛などいらん。俺はただひたすらに女の子とちゅっちゅと戯れたい!!」


『な、なんだかよく分からないけど、凄い気迫だな、ダンナ』


「……くそっ、何で俺はこんな畜生どもしかいない、獣臭あふれる穴倉にいるんだよぉ!?」


『そりゃ、ダンナが『ケモノ耳万歳! 半獣万歳!! さあ、掛かって来いてめぇら!!!』とか言って魔王軍から逃げ回って、オレッチらの本拠地まで吶喊してきたからじゃねえかい』


「だからここのどこに女の子がいるんだよ!?」


『オレッチに怒鳴られてもなぁ』


「くそっ、まだ見ぬ伝説のケモノ耳とか、期待した俺がバカだった! 所詮は魔王軍だな! ボッチで魔王軍とか名乗ってた俺と大差ないじゃねえか!!」


『いや、ダンナ? 一人だと“軍”じゃないんじゃないのか?』


「ふっ、お前もまだまだだな。ヒトの想像力ってのは、それはもう逞しいんだぞ? たとえばほら、俺が百倍の速さで百人分の働きをすれば他の奴らは俺が百人いる、とか勘違いするわけだ」


『ダンナが百人……何かイヤな光景だねぇ』


「ちなみに不可能ではないといっておこう。何か昔似たような事をした気がしないでもないしな! 分身とか」


『……ダンナ、今更ながらに聞くんだが、本当に小人族かい?』


「うん? 分類で言えば、多分そうなんじゃね? 龍種、魔種は当然違うとして、巨人じゃないのも見りゃ分かるだろ。んで、俺って妖精とかそんな柄だと思うか?」


『そっすね。消去法で言ってダンナは小人、か』


「そう、『消去法で言って』俺はしがないただの小人族だよ」


『……』


「何だよ?」


『いや、自分で言ってて何かオレッチ、自分の言葉が信じられなくなってきてなぁ』


「まあ、俺が小人だろうがそうじゃなかろうが別にどうだっていいじゃないか。重要なのはここにケモノ耳した女の子がいなかったことだ!」


『またそれかい』


「むしろそれしかないと胸を張って主張しよう!」


『へえ、へえ……じゃあ、そろそろみんなも元気になったみたいだから、続きやろうか、ダンナ――いや、ニィちゃん』


「えー」




男と大鎌を取り巻いていた無数の黒い獣たちの躯、ではなく。


もとより畜生たちは息絶えてなどいない。ただ息も絶え絶えだったに過ぎない。




そもそもの話、息も絶え絶えになるまで完璧に、擦り傷一つなく黒い獣たちの攻撃を避け切った男が凄いのか。それだけかけても男一人仕留められない黒い獣たちが情けないのか。




何はともあれ話題休閑、僅かな休憩時間はこれで終わりを告げる。




「何、まだやるの、お前ら。むしろもう無駄だって事理解してもいいんじゃね? お前らに俺は捉えられないよ」


『言うねぇ、ニィちゃん。でもヒトってのはいつかミスするものだろう? その一度のミスがあればオレッチらには十分だと思わないか?』


「いや、全く?」


『……』


「大体、俺がせっかく『大魔王様』とか衝撃の告白をしてやったって言うのに、何でお前たちそれを信じないんだよ? ほら、仮にも『魔王軍』なんだから大魔王様たる俺に従うのが当然とか、思わないわけ?」


『思わないねぇ。オレッチらの『魔王様』はこの世界でただのお一人、ヘカトンケイル様だけだ』


「ヘカトンケイル? ……あ、ああ! あのへたれちゃんかっ!」


『へ、へた……?』


「でも何か、そう思うとお前ら魔王軍も哀れに思えてくるよなぁ。へたれちゃん首魁の、へたれ軍……あぁ、こりゃだめだ」


『ニィちゃんが何言ってるのかよく分からないが、魔王様のことをバカにしてるのは分かるぜ?』


「ゃ、バカに、というか。むしろ同類相手に共感すら覚えるね、俺は」


『……さっきからの物言い、まるで魔王様を知っているみたいじゃねえかい』


「ああ、知ってるぞ?」


『……』


「ん?」


『……じゃあ、なんだ、あれかい? ニィちゃんはあの“銀のバケモノ”を知ってるのか?』


「よし分かった、お前たちの言いたいことは全て伝わった」


『……』


「おぉ、同類よ――って、どうした?」


『やっぱり気が変わった。しばらくニィちゃんと遊んでようと思ってたんだが、魔王様のことを知ってる、っていうのなら話は別だ』


「まあ、知ってはいるけど、」


『なら、ニィちゃん半殺しにしたうえで魔王様の居場所を聞き出すとしようかい』


「へたれちゃん? へたれちゃんなら『竹龍の地』にいるぞ?」


『……』


「ゃ、嘘とかじゃないって。今頃俺の女たちと戯れているころさっ――って何で主たる俺はこんな畜生どもに囲まれてて、その畜生の王様は女の子たちと戯れてんだよ、これって不公平じゃね!?」


『……分かった、ニィちゃんの言うことを信じよう』


「そか? というか異様にむかっ腹が立ってきたのでちょっくらへたれちゃんをとっちめてくることにする」


『オレッチらも、ニィちゃんを始末した上で魔王様の下へ駆けつけることにするよぃ』


「――へ?」


『だから、こんどははじめから本気で生かせてもらう。悪く思うなよ、ニィちゃん?』


「あ、」


『ん? ニィちゃん、どこを見て――、……』








「見つけたぞ、この……――“ごしゅじんさま”?」






決して目の錯覚ではなく。


真っ黒なオーラを全身から立ち上らせた、メイド服に身を包んだ漆黒の存在――【厄災】は微笑んで。


伸ばした親指を左から右へ、無言で首を切る動作をした。




悪鬼羅刹が現れた。どうしますか?


→逃げる


→全力で逃げる


→懸命に逃げる


→命乞いをする


→許しをこう


→諦める


→レムを生贄に出す




『こちらをお収めくさめくだせぇ』

「って、おぉい!?」


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