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 REVERSAL-07.5

ある日の何気ない世界終焉の危機(笑)的な話。

「「……」」


寸分違わぬメイド服と呼ばれるエプロンドレスを身に纏い、寸分の狂いなく同じ容姿のままで“彼女”は互いに見つめ合ったまま、微動だにしていなかった。

まるで鏡写しのよう、その間に鏡があるといわれれば十人が十人信じてしまいかねないほどに瓜二つ、けれど――だからこそ“彼女”は姿形以外の全てが真逆だった。


浮かべているのは一方は誰もが見惚れる様な微笑、もう一方は全てを見下すような嘲笑。

彼女の髪は全てを拒絶するが如き見事なまでの銀糸の長髪で、彼女の髪は誰もが魅入るような漆黒の長髪。


最初に口を開いたのは“彼女”の方だった。


「目の前に姉様と瓜二つのゴミがありますね」

「目の前に愚妹そっくりの不快物があるな」


「「……」」


「地に還れ」

「死ね」


どちらが最初だったかは関係ない。

どちらも正しく同時に、“彼女”は“彼女”へ向けて害意を解き放った。


「「っ!!」」


白い斬撃が彼女を襲い、同時に黒い斬撃が彼女を狩ろうと迫る。

互いの斬撃が重なり合い――などということには決してならない。互いが互いの必殺のためだけに振るわれたその腕は何かを受けることなど想定していない。

薙いだ白刃は“彼女”の振り下ろした足に踏み潰され、振り下ろされた黒刃は真横から振るわれたもう一つの白刃に打ち砕かれる。


互いに片腕を潰して/潰されてなお“彼女”の動きは止まらない。


白刃を打ち砕いたその足で“彼女”は正面のゴミを破壊するために動く。

黒刃を打ち貫いたその腕で“彼女”は向かい来るカスを打ち砕くべく更に加速する。

“彼女”が振りぬいた腕が向かい来る足の軌道を僅かに変える。結果、足は彼女の顔を掠めるに留まった。が、余波だけで“彼女”は互いに吹き飛んでいく。


「痒いですよ、姉様如きが」

「図に乗るなよ、愚妹が」


互いを嫌悪しながら“彼女”は同時に再び距離を詰める。

繰り出すのは先ほどまでと同じ、どれもが互いの命を刈り取る為だけの、文字通り“必殺”の一撃のみ。


必死の舞踏の中、それでも至極当たり前のように“彼女”は互いに罵り合いを繰り返す。


「時に姉様は『潔い』という言葉をご存知ですか?」

「ああ、当然知っているぞ。薄汚い愚妹にはもっとも縁遠い言葉だがなっ!」

「大声を上げないでください、五月蝿いですね――ああ、申し訳ありません、そのようにしないと自分の威厳を保てないのでしたね、哀れ、憐れなな姉様」

「クッ、愚妹の低脳さが透けて見える安い挑発だな。それに口だけが相変わらず達者と見える」

「そう言う姉様も相もお変わりなく、口すらも達者ではない粗暴な立ち振る舞いだけの方ですね」

「はんっ、見た目の白さに反して中身真っ黒な愚妹よりはマシだな」

「己の欲望に素直なだけの姉様にとやかく言われる筋合いはありません。素直であればそれでよいと? 醜い独りよがりの考え方ですね、流石は姉様。心の底より軽蔑します」

「そう言う愚妹の方こそ、その気色悪い態度は反吐が出る。そうして周りに、いや雄共に媚を売って楽しいか? ああ、いや楽しいのだろうな、何せ生粋の“ヒメサマ”、だろう?」

「それは一体いつの話ですか? 年を取ると昔をよく思い出すとは聞きますが、ついに姉様もその域に達してしまいましたか、おめでとうございます」

「私がそうならお前もだ、愚妹」

「いいえ? 老婆心満載の姉様とは違い私の心はまだまだ健全であると主張しましょう」

「もって回ったその言い方、それ自体が愚妹、お前の精神が疲弊しきっている証拠だ。もう休んで楽になれ、な?」

「私の精神が疲弊しているとすればそれは全て姉様の所為です。心ばかりの私への賠償に姉様の方こそもうお休みになられてはいかがですか――ええ、当然永遠に」


「「……」」


「断る」

「お断りです」


偶々――互いが必殺と握り締めた拳がお互いのソレに軽くぶつかり合い、“彼女”は同時に大きく後ろに吹き飛んだ。否、触れ合うのが嫌とばかりに大きく飛び退いた。


「激しく時間の無駄です。姉様、潔いという言葉を知っているというのなら今すぐ死んでください」

「断る。むしろ愚妹、今すぐ私が殺してやるからその場で大人しくしていろ」


言葉の応酬の裏では幾万、幾億の『潰し合い』があったが、どちらも互いに無傷。初手で潰しあったはずの片腕すら、今では染み一つない綺麗な肌へと戻っている。


「――埒が明きませんね」

「――埒が明かないな」


同時に飛び退き距離を取る。

“彼女”自身、絶対認めることはないが――互いが考えることは同じ。


「いい加減、姉様の顔も見飽きました」

「奇遇だな、愚妹。私もその顔は見るのも飽きた」

「“様子見”は終わりにしましょう」

「実に癪だが、これも同感だ。いい加減――終わりにしよう、愚妹」

「ええ、姉様」


場の空気が変わる。

まるで鏡合わせ――“彼女”が半身の構えから片手を軽く後ろに下げて、軽く拳を握る。弓でも射るようなその姿勢、射るのは矢ではなく、己が拳。

一息、“彼女”が息を吸い込んだのと同時に拳の先に小指ほどの大きさの白/黒の光がともる。

大きさは関係しない。“彼女”が“全力”を込めた、小指大の大きさのソレは間違いようもなく世界全てを滅ぼす/創り出すに足る【破滅/創世】の力の塊である。


ソレは――仮に誰か、第三者が見ていれば間違いなく見惚れていただろう幻想的な、いっそ現実味が一切無い光景だった。或いは場に満ちた力の本流に呆気なく気を失うか。


「では、」

「ああ、」

「見納めです、姉様」

「見納めだ、愚妹」


むしろ清々すると言わんばかりに“彼女”は実に呆気なくその“必滅”の一撃を放った。



◇◇◇


「「……」」


どちらも“健在”。互いの表情は険しく――どちらもが屈辱に満ちていた。

頭を手首から先“だけ”に押さえつけられ、地に付す“彼女”。そして彼女らの中間、ちょうど互いの“必滅”がぶつかり合うだろう位置には半透明のナニかがふよふよと浮いていた。


『ハロー、マイ、童貞むすめたち、あ違った☆ でも今のはちょ~~とおいたが過ぎるかなナナ?』

「「……ルーロン」」

『そうで~すっ、みんなの女王様、ルーロンちゃんだよ~☆』

「歳考えろババア」

「なんて無様な」

『お子ちゃまたち、いっぺん死んどく?』

「やれるものならやってみろ、この過去の遺物がッ」

「……姉様、地べたに押さえつけられたままでその台詞は実に滑稽ですね」

「そういう貴様も同様だ、愚妹」

「私は吼えていませんから、姉様ほど滑稽ではありません」

「はっ、臆病者めっ」

「姉様の姿のなんて無様な事か」

『ま、私に言わせればどっちもどっちだけどねー。で、あなたたちは何してるの? じゃれ合い……にしてはちょっとだけヒートアップしすぎだったみたいだけど?』

「お前には関係ない!」

「あなたには関係ありません」

『って、言われてもねぇ。姉妹喧嘩は別にいいんだけど、流石に世界を壊すレベルで暴れられると私も見逃せないのよねー。……で、ストッパー役っぽかったあの子はどうしたの?』

「お前には関係ない」

「あなたには関係ありません」

『関係ない、ね。よし、分かった。――ちょっと素直になる様に調教してあげる。可愛い可愛い、不貞の娘達』

「「――ッッ!?」」


残念思念体ルーロンが“彼女”を押さえつけていた腕を開放する。

同時に彼女らは大きく飛びのいて一旦様子を――などという回りくどいことを選択するはずもなかった。


煌く白刃と濡れる黒刃。

向けるは邪魔者ルーロン、向けるは邪魔者かのじょ。その目に映るどちらもが等しく“彼女”の敵である。


◇◇◇


『さて、じゃあ“おはなし”をしましょっか?』

「「……」」

『あのねー貴女達。少なくとも封印状態じゃ束になっても私に勝てないのは十分理解したでしょ?』

「「……」」

『大体、貴女たちは何してるのかね? 今世間じゃ魔王復活とか騒がれて大変なの知ってる?』

「「……」」

『そもそも『魔王』って何なのかなー? 少なくとも私の本体が生きてた時は聞かなかったし。ねー?』

「「……」」

『――ふぅん、その態度は“知ってる”ね、あんたら』

「何を根拠にッ――」

「……馬鹿姉様」

『って、事は。この『魔王』騒ぎとやらはあんたら――ゃ、あの子の企みってわけねー。に、しては人死にまでいくとちょっと過激すぎる印象があるけど……やれやれ、私も耄碌もうろくしたのかねぇ?』

「“れいむ”はそんなことしない!!!!」

「――この馬鹿姉様!!!!」


白と黒が世界を満たす。

“彼女”の叫びと、それを掻き消す勢いの“彼女”の一声。


『ゃ? っとと』


流石の残念思念ルーロンも抑えるのは無理と判断したのか、“彼女”から飛び退き、空中で眼下の光景を見下ろす。


「馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたがここまでで馬鹿とは、やはり思っていました、姉様」

「……」

「見るのも嫌、でも無いです。失望――は既にしていますし、落胆、するほどに姉様に期待値はありませんし……ですが敢えて言うならば失望しましたよ、姉様」

「……」

「たとえ頭に血が上って、周りにいるのが“身内だけ”だったとしても、ほとほと呆れます」

「……」


珍しく――否、初めて“彼女”は一切の反論をしない。どうしようもなく失言をしたこと自体、“彼女”自身が理解しているが故に。


「やはりあの時に消しておくべきでした、【厄災ねえさま】」

「……っ」



――隷、コード『白面』【崩壊ブレイク】、……『刻印』システム、復旧開始します、完了まで残りカウント10、9……



「――潰えろ、【厄災】」


“彼女”の片腕に白光が宿る。ソレは先ほどまでとは比較にならないレベルの、上空で様子を見守っていたルーロンさえも表情を引きつらせて介入を拒むほどの力の濁流。

創世の力の発露ゆえのその白光は純粋な生み出す力であるが故に『生み出された後の状態』を許容しない。事実、白光に包まれた瞬間、“彼女”の腕は消滅してしまっているのだから。

絶対不可避、必滅と呼ぶに相応しいその腕を、“彼女”は躊躇いなく振り下ろす。


「ッ、でもあんたに黙って殺されるほど達観してないんだよッ!!」


と、その瞬間になって漸くというべきか。“彼女”が慟哭と共に大きく動いた。

迫りくる必滅の一撃への迎撃、普通ならば接触などもっての他のその一撃は、ただし対とでも言うべき“彼女”に限り例外となる。



――コードブレイク『夜天』、



「この、愚妹が、調子乗ってんじゃないわよッッ!!!!」


迎え撃つ“彼女”の腕に宿るは全てを許容する漆黒の闇。周囲の光すら食い散らす破滅の黒は“真っ当な手段”では唯一“彼女”の白光に相対しうる手段であり、だが同時に最悪手でもある。

創世の光に破滅の闇が触れた結果は実にシンプルである。

新世界の創造、そして古い世界は淘汰される。軽く言って、それが接触した瞬間に世界は終わる。


『ぁ、やば……』


思わず漏れた声。

誰とも知れず、実に呆気なく世界が終わる瞬間、唯一の観客であったルーロンは『もっとおいしい物食べたかった』なんてくだらないことしか考えていなかったのだが、実際そうはならなかった。



――コード『白面』、コード『夜天』の同時崩壊を確認、強制執行モード『おしおき(笑)』の実行に移ります。



「「ゃんっ!?」」


白光、黒闇、創世と破滅の力が二人の艶声と同時に霧散する。

顔を真っ赤にさせたまま、どちらともなく膝から崩れ落ちる“彼女”たち。


ぷるぷると全身を震わせて、


「「あっっの、バカ――ひゃんっ」」


再度発した喘ぎ声と同時に“彼女”はどちらともなく、力尽きるようにその場に突っ伏した。



まじめな話、彼女らがマジバトルすると世界が滅びます。


『似た者姉妹』は世界最大の禁句。


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