ど-626.働かざるもの、ヒモと言う
ひも=レム・・・ではない。
レム君はちゃんと働いて・・・強制的にこき使われてます。
「ご夕食を狩ってまいりました」
「お、ありがとな」
「はい。あの推定勇者であるユウ様と、ユウ様のみで分けてお食べください」
「おう、……って、あれ?」
「旦那様の分はございませんのでくれぐれもお間違えのないよう、お願いいたします」
「何で俺の分がないんだよっ!?」
「調理の方は旦那様がお願いいたします。ユウ様はおそらく慣れておられないでしょうから」
「あ、ああ、別に調理くらい……つか、俺の分は!?」
「旦那様ならばそう仰られると思いこちらをご用意いたしました」
「ゃ、俺ならば、つーか誰でもそういうと思うんだが……――んで、これはナンダ?」
「木の皮でございます。煮て解せば、まぁ食べられます。私としては決して、進んで食べたいとは思いませんが」
「んなものを俺に食わせようとするなよ!?」
「ではそのあたりに生息していたキノコの方が宜しかったでしょうか?」
「……それはそれで、何か中りそうな気がするので遠慮したい」
「私がああ提案すればこういうのですね。旦那様は文句以外仰ることができないのでしょうか」
「そもそもお前の提案に問題があるんだと俺は主張させてもらおう!」
「では旦那様は私の提案のどこに問題があると仰られるのですか?」
「なら逆にお前に聞こう。俺が目の前でクゥガの実食ってるとき、お前はこれでも食ってなとか言って雑草分け与えたらお前はどうする?」
「旦那様のお言葉とあらば喜んで食しますが?」
「……」
「そしてその後、旦那様にはデザートとしてファイ様作の料理の数々をおなかの中が溶けるくらいに食していただきます」
「怒ってる! やっぱり怒ってる!!」
「そのような事は少々しか御座いません。…………実際旦那様がそのような仕打ちをなされたなら、つい作為的に旦那様の口の中に雑草を捻り込んだ上で楽しい空の旅行を体験していただくことになるかもしれませんが、そのときはどうかその狭いお心でお許しください、旦那様」
「誰が許すかっ! ……じゃ、なくて、だ。つまり俺が言いたいのは、お前が今しようとしてる仕打ちは今言ったのと同じようなものだと、そう言いたいんだ」
「残念ですが旦那様、私とだんな様では趣味趣向、性癖の特異性がまったく異なります」
「何それ、俺が異常みたいに言うなよ!?」
「特に私は、私と旦那様どちらが異常であるとは申し上げておりませんが?」
「……ぁ」
「ですが旦那様はどうやらご自身の異常性を正しく理解しておられたようで御座いますね。ほんのわずかでは御座いますが、安心いたしました」
「や、いや、違う、今のは違うんだ!! 異常なのは俺じゃなくてお前の方で……!」
「確かに、私も敢えて自身の事を正常とは申し上げませんが、それは旦那様が異常ではないという証明にはなりません」
「っ、……」
「と、態々一見小難しいように見せた旦那さまの文句の数々などはどうでもよいのです。重要なのはユウ様にはこちらの食材を、旦那様は木の皮でも食べていればよいのでは御座いませんか? ということです」
「何か対応違くね!? 圧倒的に俺の対応悪くね!?」
「そうですか? 用意してきただけマシと、普段の様々な苦行を体験してこられた旦那様ならばご納得していただけるはずで御座います」
「……それは、まぁ、確かに。用意されてるだけマシ、というかそうなるとこの一見ただの木の皮に見えるモノも、何か変な効果がないかとかを疑いたくなってくるわけだが」
「精々が重度の幻覚を見る程度ですので旦那様ならば問題御座いません」
「いや問題あるだろ、それは大いにあるよな!?」
「いいえ。常に幻想を追いかけていると言って良い旦那様ならば、今更幻覚の一つや二つ増えたところでどうということは御座いません」
「いやだから問題ないとかお前が言い切るなよ!? つか問題あるって!!」
「この効果を有する木の皮を探すのは苦労いたしました。具体的には、現在位置から世界を半周ほどしてしまいました」
「何無駄すぎる労力使ってやがんの、てめぇ!?」
「旦那様のためを思えばこそ、苦労などでは御座いません」
「むしろ俺のためを思えばこそ、もっと普通の食材を持ってきてほしいんだけど!?」
「甘やかされつけあがった旦那様は見るに耐えません。まあ私はどのような旦那様であれ、当然黙って付いて行く所存に御座いますが」
「……分かった。取り敢えずお前は、俺にろくなもの食わせる気がないのは理解した。ならもういい」
「おや? 旦那様、どちらに向かわれるのですか?」
「お前が持ってきてくれないつーんなら自分で狩ってくるまでだ!! くはははっ、あまり俺を舐めるなよっ!!」
「別に舐めてはおりませんが……旦那様、調子に乗りすぎてユウ様のことをお忘れでないか、少々心配です」
ユウ・・・推定勇者の女の子。
世界によって異世界に拉致られた、かわいそうな子。




