REVERSAL-03
――めざせ、世界3位!
・・・ちなみに1位は『白面』(白龍?)、2位は『夜天』(黒龍?)
――俺は大間王様だよ、"元”な
……などという爆弾発言の後に続いた言葉は「なら次は水汲みにいって来い」だった。
状況自体理解し切れていない少女に反論できることはなく、結局どこか言いくるめられ、むしろ怒鳴られて水汲みに駆り出された。
◇◇◇
と、言う事情で水汲みに向かった少女だったが途方にくれていた。
歩いて数十歩の距離に、先ほど薪(?)を取りに来たときにはなかったものがあった、というより出来ていた。
あるいは見間違いかも――という考えを即座に否定する。やはりこんなもの、“湖”などほんの少し前にはなかったはずである。
「……」
ためしに指で触れて、少しだけ舐めて……どう考えても普通の水だった。
これは水汲みの意味事態がないのでは、と思わなくもなかったが、持ってきた桶の1/3ほどを水で満たして、たった十数歩という道のりを引き返すことにした。
「も、戻りました……」
「おう、思ったより早かったな、嬢ちゃん」
「は、はぁ。湖が近くにあったので」
「……湖?」
「?」
一瞬だけ老人が面白い表情を浮かべる。けれどすぐに納得したように、どこか気難しい表情に戻った。
大きな水瓶――つい先ほどまで存在していなかった気もするが――に汲んできた水を入れるが殆ど満たされた様子はなかった。
目算だが後十数度ほど往復する必要があるかもしれないと少女は考え、だがそれは無用の産物となった。
「ああ、まあいい。水汲みご苦労だった」
「あ、あのでもまだ一度しか行って、」
「あ? んなのは別にいいんだよ。水が欲しかったらいくらでも自力で出せるしな、――“水よ”」
老人のたった一言で、水瓶いっぱいまで水が満たされた。
この爺さん殺してやりたい、とかちらりとでも少女が思ったのは決して間違いではないはずである。
「……あの、おじいさん」
「爺さん言うな!!」
「っ、ご、ごめ……なさ、」
「って、そういえば自己紹介もまだだったか。おう、嬢ちゃん、お前さんの名前はなんつーんだ?」
「ぁ、わた、わたし……?」
「お前さん以外、どこに“お嬢さん”がい、ッッ!?」
「――ひっ!?」
何故か急に、老人が両目を見開いて気持ちの悪い表情を浮かべた。
老人の奇行に思わずといったように少女の身が強張り、それを見た老人が舌打ちを一つして、表情を元のしかめっ面に戻した。……無理やり感が非常に強かったが。
「……ぁ、あの、」
「ぃ、いやなんでもない。それよりもだ。嬢ちゃんの名前は何つーんだ?」
「あ、朝霞夕……です」
「アサカ・ユウ――な。成る程、やっぱり鬼名と響きが似てるんだなぁ」
「?」
「いや、こっちの話だ、気にするな」
「は、はい……」
「よし、それじゃあ、アサカユゥ」
「ぁ、あのっ!」
「あん?」
「その、わたしの名前、は、そのユウ……の方だけで、」
「あ? んな事知ってるよ。知ってて呼んでンだよ、アサカユゥ……いや、ユーアサカの方がしっくりくるか?」
「あ、えっと、その……っ」
「ま、別に呼び名なんてたいした意味はねえよ。これからは俺は嬢ちゃんのことは『弟子』と呼ぶ。嬢ちゃんは俺を『師匠』と呼ぶ。よし、決定だ」
「え、あ、そ……」
「何だ? 言いたいことがあるなら“言える内”に言って置いた方がいいぞ、弟子」
「あ、その……」
「応」
「な、なんでわたしがその、弟子、なんです、か……?」
「んなの俺が弟子を鍛えるからに決まってる。そして弟子の師匠は当然師匠だ。何を当たり前のことを言ってやがる」
「……ええと」
そういう事ではない、のだが。
少女――ユウは口を噤んだ、というより『何を当たり前な』的な事を言う目の前の老人に何も言えなかった、というのが正しい。
「弟子、お前がこの世界で生きていけるように俺が鍛える。……前にも言ったがな」
「ぁ、ぇと……」
「大丈夫だ、俺を信用しろ――とは言わねぇが、存分に俺を利用しろ。利用して、利用して、この世界の理不尽すらも理不尽と思わせるほどの力をつけて見せろ」
「……」
「お前なら、いや、“俺”なら出来る。感謝しろよ、弟子ぃ。俺が直弟子取るのなんて初めてだ、光栄に思え」
「……」
「ま、というのは俺の方の事情で、弟子ぃ、お前は難しいこと考えなくてもいいぞ。精々、振り落とされないようについ来るといい」
「――」
「ぉ、いい眼になったな、嬢ちゃん。強制的にやらせるのもいいけど、やっぱり協力的な方が身につくのが早いしな」
「……はい」
「いいぞ、ユーアサカ。『万化』や『金奴』、『姫神』“程度”には勝てるように仕立ててやる」
「……誰、そのヒトたち――?」
「ん? あぁ、そりゃ分からねえか。何、世界で五・六番目に強い程度だ。気に留めるほどでもない」
「……」
「さて、それじゃあ早速はじめるぞ、弟子ぃ」
「……――はい、師匠」