REVERSAL-02
推定勇者の少女、名前はまだ未定。
なんとなく、説明な感じ。
・・・少し遅れました。
「うむ、薪を拾って来い」
「……」
「何だ、薪も知らねぇのか。薪ってのはだな、」
「あ、いえ。それは分かります」
「ちっ、分かってるならさっさと拾ってこねぇか。出来の悪い弟子だな」
「……あの、ごめんなさい」
「謝るくらいならさっさと行ってこねぇか!」
「は、はいっ……!」
◇◇◇
と、いう会話が気難しそうな老人と少女との間にあった後。
少女は困惑しながらも律儀に薪を拾っていた。
「わたし、何でこんなことしてるんだろ?」
答えはない。
そもそも彼女にとって、この世界での出来事は全てが理不尽そのものだった。
気がついたら、死に掛けていた。それがこの世界での始めての記憶。それから幾度死に掛けた、あるいは死にたいと思ったことか。
今までのことに比べればこの程度、『薪を拾って来い』などというさっぱり理由の分からない要求など些細なことだった。
(これくらいで良い、かな?)
取り合えずは少女が抱えきれる程度の木の枝を拾って、あの老人の元へ戻ることにした。
なぜか周囲に木の枝が散乱していたのは――おそらく嵐か何かあった後なのだろうと大して気にも留めなかった。
で。
「……おい、嬢ちゃん」
「っ」
僅かにどすの聞いた声に少女の体が強張る。
「俺ぁ、薪を拾って来いといったよな?」
「は、はい」
「それがこれは何だ?」
「……薪、です」
「薪? 薪ってのはこんな瑞々しい枝を言うんじゃねえ。もっと枯れてて水気のない枝のことを言うんだよ!」
「ご、ごめんなさ――」
「まあ薪が必要なわけでもないからかまわねぇか。――“炎よ”」
「……」
少女が拾ってきた薪(?)を当然のように部屋の隅に放り投げ、言葉を唱えて部屋の中央に置かれたかまど(?)に火をつけたのを見た瞬間。
――ほんの僅かだけ目の前の老人に対して芽生えた殺意を、少女は何事もなかったように飲み込んだ。
「よし、これでお前はひとつ課題をこなした。弟子よ」
「……あ、あの、すみません。ひとつ、いいでしょうか?」
「おう、俺は絶賛嫁さん募集中だ」
「……」
年を考えて発言してください、とは言えなかったので内心で留めるだけにした。
「ちなみに今のは笑うところだ。――笑え」
「は、はは……」
「何がおかしいンだよっ!!」
「……」
ある意味、少女がこの世界に来て以来受けてきた理不尽とはまったく別種の“理不尽”だった。
「で、何だ」
「……ぇ?」
「え、じゃねえだろう。え、じゃ。何か聞きたいことがあったんだろう? 何でも一つ答えてやるから言ってみな」
『何でも一つ』といわれて、直前まで問おうとしていた事、『さっきからその“弟子”って何なんですか?』という質問を少女は自然と飲み込んでいた。
その口から零れ落ちたのは、この世界に着てから今までずっと感じていた、聞けるものなら誰かに聞きたかったコト。
何故今、それもこの目の前の老人に、などと思うがそれでも一度口から毀れた言葉は元には戻らない。
「……ぅして」
「あん? もっと大きな声で言え。聞こえねえよ」
「――どうして、“わたし”なんですかっ……」
「――」
その答えが返ってくるはずはない。そんな当たり前のことは初めから分かっているのに、――と、言うのが本来なら当然のことだった。
「世界の理――システムと言ってもいい」
「……ぇ」
目の前の老人が“答え”を返した。
「昔、この世界は荒れていた。世界を統治していたはずの神が全員ぶっ殺されてなぁ。……その混乱が収まった理由が『勇者』と『魔王』だ。へぇ、統治者がいなくなったのは全て『魔王』が元凶。その魔王を黒白の『勇者』姉妹が打ち滅ぼして、世界は平和になりましたとさ、めでたしめでたし」
「……なに、を?」
「あん? 何って、嬢ちゃんの質問の答えだよ。いいから黙って聞いとけ」
「……」
「それで終われば、まぁ良しだったんだがなぁ。――そこでこの世界は考えた、いや、“学んだ”とでも言うべきか。まぁどっちでもいいやな、とにかくこの世界は知ったわけだ、『魔王』と『勇者』の存在があればこの世界の混乱を安穏に変えられる、ってな。そうして……過去の事実から一つのシステムが他ならぬこの世界そのものによって創られた。」
「――」
「クソ食らえ――『勇者と魔王の物語』の始まりってのはこんなもンだ。世界の混乱を収めるために粉々になった色々なものからさも昔から存在してたかのように『魔王』を創り出し、それを殺す『勇者』を他所から拉致って連れてくる。……最初の『魔王』も『勇者』もまさかこんなことになるとは考えてなかっただろうがなぁ」
「それ、は……」
「っと。つい興に乗って話しすぎたか。いや、まぁんな小難しいことは置いておくとして、嬢ちゃんの問いかけの答えは簡単だ。運が悪かった――それ以上でも以下でもねぇよ」
「……」
「どうだ? 怒りは沸いたか? 憎いか? それとも――もう諦めがついたか?」
「 」
唇を僅かに噛んで少女は俯き、その表情を隠す。
「で、だ。嬢ちゃん、嬢ちゃんが望むなら嬢ちゃんに“力”をやろうと、俺は考えている。ああ、特に理由はないぞ? しいて言うならそれが面白そうだから、だ。いや、むしろ押し付ける、嬢ちゃんに拒否はなしだ。ま、これもこの世の理不尽の一つと思って黙って押し付けられとけ」
ククッ、と目の前の老人が仄暗い笑みをこぼす。
その真紅の――いや、少女は気づかなかったがいつからか漆黒に染まっていたその老人の瞳は何らかの狂気を含んでいるように、少なくとも少女は思えた。
……狂気というか、何か昔の自分を振り返ってただ自己嫌悪していただけなのは老人しか――と、もう一人しか知ることのない事実ではあるが。
「……ぁな、」
「あん?」
「……あなたは、いったい何なんですか?」
「はっ、お嬢ちゃんが弟子になった記念に特別サービスで一つだけ質問には答えたが、それに答える義理は俺にはねぇよなぁ」
「……」
「けど、まぁ。良いかー」
「……」
「俺ぁ、ただのしがない『大魔王様』だよ――“元”な」
まじめとか、ないっス。
老人の中身は所詮、レム(笑)