ど-620. 作戦会議、とこれからの
勇者? なにそれ、おいしいの?
勇者とか魔王とか関係ないデスヨ?
「……風が、気持ち良いな」
「はい。旦那様。ただいま風は微風も吹いておりません」
「……」
「……」
「……くっ」
「……」
「そ、それは、ほら、あれだ。心の風だ。ぴゅーって吹き抜ける感じのヤツ」
「旦那様? 遠まわしに寂しいと仰られるのならば私が慰めて差し上げましょう、むしろ素直に慰められてくださいませ」
「だが、断る」
「……じー」
「や、ほら。今は何かと忙しいだろ? 勇者とか勇者とか勇者とか」
「そうで御座いますね。旦那様は訳有りの少女を拾ってきて、彼女の調教にお忙しいのでしたね」
「調教違うし」
「では教育という名の性的悪戯で御座いますか、最低ですね、旦那様」
「だから違うよ!? というよりもなんでそんな発想になる……欲求不満か?」
「はい」
「……」
「……」
「……、えーと、」
「と、私がお答えしましたら、旦那様が解消してくださいますか?」
「――ふむ、それは非常に哲学的な問いだな、うん。何かこう、あれがそれでどれがこうなってほら、色々と……まあそういうわけだ」
「……旦那様」
「な、なんだ?」
「冗談の類ですのでそこまであからさまに取り乱されないでくださいませ。少々、悲しくなります」
「は? 何言ってん? 俺別に取り乱したりとかしてないし? それお前の勘違いだし?」
「左様で御座いましたか。それは失礼いたしました」
「あ、あぁ、……いや、うん、わかればいい。分かればいいんだ、うん、そう」
「それで、いかがなさるおつもりなのですか、旦那様?」
「如何って……アレのことだよな?」
「はい。旦那様がその深い下心で拾われた(推定)勇者の少女の事で御座います」
「……なあ、でも『勇者』って確か、もう居るよな?」
「はい。私も遠見程度ですが見届けておりますので、確かかと」
「んで、今回の……つか、“やらせ”じゃない『魔王』とか『勇者』なんて俺も初めてなんだが、とにかく今回の『勇者』ってのはムカつきモテる野郎だよな?」
「はい。旦那様の醜いというよりは憐憫の情を感じさせる嫉妬の発言はおいておくとしまして、」
「いや憐憫って何だよ、憐憫って!?」
「旦那様はそのようなことも存じておられなかったのですか。良いですか、旦那様。憐憫というのはつまりもはや同情しか引かぬ旦那様を憐れみ、」
「って、それくらいは知ってる、つか俺が言ったのはそういうことじゃなくてだな、」
「旦那様に足りないのは魅力ではなくやる気です。そのあたりを履き違えているからこそ、無駄など六しかしない旦那様は見ていて実に愉快だと私は思います」
「やる気あるよ!? 俺、滅茶苦茶やる気あるよ? もう満ち溢れてるくらいだよ!?」
「そうですね。そして旦那様。そのような旦那様のことを世間では空回り、と言い表します。これでまたひとつ利口になることができましたね、旦那様?」
「いや、いやいやいやっ! そういうのじゃなく、てか俺は空回っても居ないし、」
「と、旦那様の自己便宜のためだけの愉快な一人漫才はこの際おいておくとして、です、旦那様」
「誰も一人漫才とかしてねえよ!?」
「旦那様、私はまじめな話をしております。あまりふざけないでくださいませ」
「俺もすっげぇまじめに話してるよ!? ふざけてんのはお前の方じゃね!?」
「何を失礼な。私は常に真面目も真面目、大真面目で御座います。もはや真面目の代名詞と言って過言ではないと主張できるほどで御座います。――私が旦那様で遊んでいるのは断じて不真面目では御座いません!」
「最後の!? 最後のそれ自体がすでに駄目じゃねえの!? つか、俺“で”遊ぶとかソレなに!?」
「……おや、申し訳御座いません。つい建前と本音を間違えてしまいました。ちなみに今のが建前ですので悪しからず」
「嘘だ! 絶対、嘘だ! 今のが本音のほうに決まってるだろうがっ!!」
「本当は私も心が痛いのです。旦那様で遊ぶなど、断じて私の本意では御座いません」
「それってほらさ、もう何から何までが嘘の塗り固めだからもうどれが本当でどれが嘘とかないよな、ソレ!!」
「他の誰よりも信じていただきたい旦那様に信じていただけないとは悲しい限りに御座います」
「いや、……うん、無理だから。つか、日ごろの行い?」
「私はこれほどまでに旦那様に尽くしております」
「でもそれ以上に俺のこと弄繰り回してるよな?」
「はい」
「――いい笑顔!! もはやにくく感じるほどいい笑顔で即答しやがったな、お前!!」
「私は嘘を申し上げませんので」
「まあ、それは……いや待て? 確かにこいつは嘘言ったことないような気もするが、だがだとするといや待てよ!? さっきの俺を殴ったりけったり虐待したりするのが本意じゃないだと?」
「はい。初めからそう申し上げております」
「――くっ、騙されるな、俺。考えろ、考えるんだ。きっと何か、どこかに抜け道があって、ソレが間違いなくこいつの本音だ。さっきの発言自体、嘘じゃないけど本当でもないはずだ!」
「ちなみに本意では御座いませんがやっているうちに気が乗ってきて楽しくなってくるということも御座いますよね?」
「それだッッ!!」
「と、冗談と戯れはこの程度にいたしまして。それよりも旦那様」
「あん? ……あぁ、いや、うん。分かってる。そういえば元は『勇者』をどうするかっていう話だったな」
「旦那様が話をわき道に逸らすのが駄目なのです」
「……あれ? 俺のせいだっけ?」
「はい」
「そ、そうだったか? それは悪――」
「そう思うのならそこで三回周ってワンとでも吼えてみてくださいませ」
「嫌だよ!? つかなんでそんなことしなくちゃ……いや、やっぱり話題それて他のお前のせいだよ、絶対!!」
「私のせいということは巡り巡ってそれはつまり旦那様の所為では御座いませんか。何かおかしいことが御座いましたか?」
「そもそもその論法おかしいとか言う発想はお前にはないのか」
「御座いません」
「……言い切った。きっぱりはっきりすっぱりと言い切りやがった、こいつ」
「私が旦那様のものであるという事はもはや疑いようのない事実――だというのにそれを態々確認してこられる旦那様の方が、私としては納得がいきませんが」
「いや、普通するだろ、そりゃ」
「旦那様が普通など、チャンチャラおかしいとは思いませんか?」
「うるさいよ!?」
「これは失礼いたしました、自称“普通”の旦那様」
「ぐっ……」
「それで、本当に真面目な話し如何なさるおつもりですか、旦那様。やはり一番妥当なところで旦那様好みに調教でしょうか」
「何が一番妥当なのか分からないんだが? というかそもそもお前は真面目に話をする気があるのかと問いたい」
「私は常に真面目です、と何度申し上げれば旦那様のゆるい頭は理解することができるのでしょうか、と愚痴をこぼしたいところではありますが、何度言っても無駄というのが一番濃厚な可能性ですね。ふう」
「いや、んなことは一度聞けば分かるから。というか、それでもなおお前は真面目ですか? って聞きたくなってくるんだよ、お前の態度見てると」
「旦那様の目は節穴に限りなく近いので御座いましょう。どこからどう見ようと、真面目そのものでは御座いませんか」
「一つ言っておくけどな? 表情ないのと真面目に見えるのとは違うからな?」
「そんなっ!?」
「あー、と。とにかく、いや取りあえず、だ。こんな下らないことばっかりしてないで……そうだな、『勇者』に関してはアレいってみようか」
「なるほど、アレで御座いますね」
「……成る程とかしたり顔で頷いてるが、アレが何なのかお前ちゃんと分かってるのか?」
「? 旦那様が『勇者』を鍛え上げてこの世界でも生き抜けるようにして差し上げるのではないのですか?」
「……」
「違っておりましたか?」
「……ゃ。と、いうか。俺はアレとしか言ってないのに何でそこまで俺のしようとしてたことが分かるのか聞きたい」
「旦那様を見ていれば誰でもわかります」
「……それは俺が分かりやすいって意味か、それとも」
「馬鹿丸出しと罵って欲しいのであれば初めからそう仰ってくださいませ、この馬鹿丸出しの旦那様」
「誰もそんなコト言ってくれなんて頼んでねえよ!?」
「これは大変失礼を致しました。当然ワザとです」
「だろうともよ!」
「はい、ご理解いただけているようで何よりで御座います」
「……もう、疲れた」
「では旦那様はお休みくださいますよう。何より“これから”大変になるのですから。英気を養っておくのがよろしいのではと、進言しておきます」
「はい? それどういう意味だ?」
「それでは。私は少々手回し、ではなく。準備をしてまいりますので、旦那様は残り少ない休める時間をごゆっくりとお過ごしくださいませ」
「いや、待って!? 本当に待って、つかそれどういう意味だよ、おぉい!!??」
何があっても平々凡々、おっしゃー、だと思うのです。
それでいて適度な刺激(注:メイドさんのアレは適度とはいいません)があればなお良いかと。