Act XX. アレクセ
アレクセ・・・護衛部副長。奴隷の女の子。館の中でもかなり強い女の子?ややボケ、大雑把。
シャチュー・・・清掃部の奴隷の女の子。レムの花壇の傍を担当している。
…何故でしょう?
目的の場所に向かう途中、給仕服を着た子を見かけた。えっと、あれは確か…
「シャチュー?」
「はい?…あぁ、アレクセさん、どうかしたんですか?」
やっぱり、シャチューだった。清掃部の…あぁ、そう言えばシャチューってこのたあたりが清掃範囲だったかな?
「私は今からレム様の花壇に行くところ。シャチューは?」
「あ、はい。私もそうです」
「なら一緒に行く?」
「はい、そうしましょう」
と、言う訳でシャチューと一緒に目的地へ向かう事になった。
「…楽しそうですね、レム様」
「こ、これのどこが楽しそうに見える!?」
そう言われても、飛竜の親たちと戯れているようにしか見えないし。
…何か半分ほど本気で食べられかけている気がしないでもないけど、たぶん気のせいだと思う。いくらレム様だって食べられかけてたらちゃんと抵抗するだろうし。
「えっと」
ルトフ様に『お願い』されたのは確か飛竜の子供だったよね?
「きゅるるぅ〜」
「ん〜?」
周りを見回しても親たちはいるけど、子供の姿は見つからない。卵の殻はあるのに…おかしいな?
声はすれども姿は見えず。不思議だね。
「だからっ、俺は別にお前たちの子供を奪おうってわけじゃなくて!むしろこいつがっ…!」
「きゅぅぅ…?」
あ、いた。
レム様の背中に隠れていたみたい、飛竜の子供。こっちもこっちでレム様の背中で楽しそうだ。
「……」
「いや待て!アレクセ、お前何モノ欲しそうな目でこっちを見る!?」
「…いいなぁ」
「にじり寄ってくるなっ、事態が余計にややこしく…シャチュー、お前もボケっとしてないで俺を助けろ!!」
「ぇ、あ!……だ、駄目ですよ、イブ!アダム!ご主人さまをいじめちゃ!!」
『きゅうう?』
イブとアダム、飛竜の親の名前らしい。
「ほら、カリブの実も持ってきましたから、大人しくして、ご主人さまを離して。ほら、ね?いい子たちだから」
『きゅうぅ』
シャチューの一言でパタンと大人しくなった。心なし、飛竜達の目がシャチューが持ってきた赤いカリブの実に向いてる気もする。
…きっと彼らにとってシャチュー>>カリブの実>>(見えない壁)>>レム様なんだろうね。
「ほら、イブ、アダム、こっちですよ〜」
『きゅうう〜!!』
飛竜達がシャチューに連れられて遠くに行っちゃった。
そう言えば、昔猛獣使いのお話で似たような物語を読んだ事がある気がする。
「ひ、酷い目にあった。…って、お前はあっちに行かないのか?」
「きゅるぅ〜?」
「ぅ、お、重っ…つぁ!?」
おっと。いけないいけない。もう少しでルトフ様にお願いされた事を忘れるところだった。
この子の面倒をみるようにって、頼まれたんだった。
「…レム様、凄く懐かれてますね?」
「きゅる〜!!」
元気に答える飛竜の子供。…いつの間にかレム様は潰されていた。うん、飛竜は子供でも大きいからね。
「ほら、レム様が潰れてるよ?どいてあげなきゃ可哀想」
「きゅるるぅぅ〜」
ちょっと落ち込んだようにレム様の上から退く、飛竜の子。うん、この子、頭のいい子だね。それに、ふわ――だし。
「…レム様、大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるか」
「うん」
「…そうか。っと!」
起き上がるレム様。うん、やっぱり大丈夫そうだ。
レム様はいつもルトフ様にどつかれてるから。こう言うのを『えむ』って言うらしい。ルトフ様が言いふらしてた。
「きゅる〜」
また飛竜に抱きつかれてる。ほんとに懐かれてるみたい。
「レム様、この子、本当にレム様に懐いてますね」
「…あ〜、まぁ、こいつ、『灼耀』だしな」
「しゃくよう?」
「ほら、こいつの目を見てみろ。真っ赤だろ?」
「ほんとだ」
「きゅる?」
飛竜の子の目は本当に真っ赤だった。宝石みたいに、切れない深紅。こんな色見たことない。
「この真っ赤な瞳が『灼耀』?」
「あーうん、何を説明すればいいかな。なあ、お前『三神』って知ってるか?」
「『三神』?大昔にいた、でも滅ぼされたって言う三柱の神様の事ですか?」
「ああ、そう。でもな、実はカミってのは完全に滅ぼせるものじゃなくってなぁ、こうしてカミサマの記憶やら力の欠片が生き物に宿る事があるんだよ」
「はぁ??」
「んで、『灼耀』って言うのは三柱が一柱、女神シャトゥルヌーメの力とか記憶のほんの一欠片にも満たない程度を持って生まれた存在の事を指すんだ。んで、シャトゥルヌーメの象徴たる“赤”、この真紅の瞳が『灼耀』の証って訳だ」
「…一応、『灼耀』の事については分かりました、けど。それとレム様がこの子に懐かれているのにどんな関係があるんですか?」
「まあ、はっちゃけると俺ってば女神にも愛されてるような素晴らしい人格もっちゃってるからさ」
――。
「……なんだ、少しでもレム様の話を信じて存しました」
「――は?」
ちょっと、ほんの少しでもこの飛竜の子が太古にいたって言う神様の力を持ってる凄い存在だって信じて、損した。
凄いんだ、って少しだけ感動を覚えたのに。最後の最後で誰でも判る嘘を吐くなんて、
「やっぱりルトフ様の言うとおり、レム様を素直に信じちゃダメなんだ」
どうせこの飛竜の子供に懐かれてるのだって、きっとレム様の花壇の近くだから生まれる時に立ち会ったとか、餌付けをしたとか、そんな事なんだと思うし。
今聞いた女神様の事だって、どれだけ本当か分かったものじゃない。ちゃんと、後でルトフ様に聞いて確かめてみる。
…うん、今度からは絶対騙されないようにしよう。
「いやちょっと待てよアレクセ?何故にそうなる!?」
「レム様、往生際が悪い。レム様が女神様に愛されてるって、そんなの、誰だって嘘って判るもの。ルトフ様も往生際が悪い……レム様……は格好悪いっていつも言ってますよ?」
「いやちょい待て!?今、俺限定で格好悪いって言わなかったか!?つか俺は別に嘘は吐いてないぞ!?」
「はいはい、分かりましたー。そーですねー?」
「うわっ、めっちゃ適当!?俺お前のご主人さまだよな!!」
「ええー。でもー伊達にルトフ様の教えを乞うてませんからー」
「こんな所にもあいつの悪影響がっ!?」
レム様が何か騒いでるけど、真面目に相手をするのはもういいやー。
…それより、ずっと気になってたんだけどぉ。
「ふわふわの、もこもこ」
「きゅ、きゅうるぅ…?」
「あ、アレクセ?目が怖いぞ。ほら、こいつも怯えてるし、ってか何故にいきなり狩人の目!?」
「こわぁく、ないよぉ〜?」
「怖っ!十分すぎるほどに怖いわっ!!に、逃げるぞ!!」
「きゅる!!」
「あ、待って!」
…絶対、逃がさないから。
ふと。
そう言えばルトフ様はどうしてわざわざ『私』に飛竜の子の世話をするようにってお願いされたのかな?
飛竜の子供くらいなら、別に私――護衛部副長じゃなくてもいいのに。
「まあ、後でいいよね」
深く考えるのは。
今は、
「まって〜、ふわふわもこもこ〜」
「きゅぅぅ!!!!!」
あの子にすりすりするのが、先。
ふと気づけば、こんな話に。
…何故だ?少しは真面目にしようと思ったのに最後にうそつき呼ばわりされるレムくん。
きっと(メイドさんの)日頃の行いの成果ですね。
と、言う訳で『灼耀』に関する説明のお話でした―。
…地味にシャトゥさんの名前、本編で初登場。彼女の出番は『劇場版 【ハーレム】』でご覧ください。
…まだまだ未完ですが(汗)