ど-617.そうだ、勇者を凹りに行こう!
「で、だ」
「はい、旦那様。そのように面白おかしい顔をされて如何なさいましたか?」
「誰が面白おかしい顔だっ」
「当然旦那様でございます。……ああ、これは申し訳ございませんでした。面白おかしい顔と思いましたが至って普段通りの旦那様の顔でございました」
「申し訳なくないからな? むしろその発言自体が申し訳なさの塊だからな?」
「それで普段通り面白可笑しな旦那様は如何なされたのでしょうか。今ならば特別に何でも一つ、質問にお答えいたしますが?」
「そうか、なら遠慮な――」
「旦那様以外にいるはずが御座いません」
「……」
「……」
「……何が?」
「いえ、私は旦那様のご質問にお答えしたまでで御座います」
「……、……、ふぅ。んで、俺がいつ、どんな質問をお前にしたと?」
「流石は旦那様。好きモノで御座いますね」
「悪い。たぶん、俺きっとどこかでお前の言葉を聞き逃してるんだと思う。何故か面と向かって話してたはずなのに会話がすれ違ってしかいない気がする」
「そのようなことは御座いません。旦那様が『つー』と言えば私は『旦那様、愛しております』で返し、私が『旦那様、殴ってよろしいでしょうか?』と言えば旦那様が『おっしゃ、ばっちこぉぉい!!』とお答えする中では御座いませんか」
「違うからな? いや、そもそも途中から何か訳分からないことになってたし、俺がお前の『今から殴るからそこ土下座』発言に対して黙って殴られるわけがないだろうがっ!」
「いえ、土下座まではさすがに要求いたしません」
「でもそれって既に殴る宣言はするって認めてるのと同じだよなっ!!」
「愛情の、表現の一つかと……ぽっ」
「くそっ、その無駄にスペック高く照れてやがる表情が余計にむかつくッ」
「それはそれとして旦那様、」
「いや殴らせないからなっ!?」
「……誰もそのようなことは申し上げておりませんが。旦那様がそのようなことをお望みとあらば仕方ありません。私としては全く、これっぽっちも! 本意ではないのですが……」
「ノーモア、暴力! 暴力、痛い! 格好悪い!」
「――そもそも私は旦那様を殴るなど、そのように恐れ多いこと、ごく日常的にしか行っておりません」
「いや、お前日ごろから俺のこと、……って、めっちゃ正直っすねっ!?」
「私が段様に対して嘘を申し上げるはずが御座いません」
「……まぁ、たしかに“それ”だけは確かか」
「はい」
「……あー、んで、なんだっけ?」
「何、とはどのようなことでしょうか、旦那様」
「いや、確かお前に言いたいことがあったようななかったような……何かもうどうでもよくなってきてるけどさ」
「ああ。つまりはこういうことですね。……旦那様、つい先ほど意気込んで『勇者? そんな無条件でモテそうな奴は爆発しろ、むしろ俺が凹る!!』と宣言しておいてなぜこのようにのんびりと街道を二人で歩いているのでしょうか?」
「ああ、そう、それそれ。ってか違うだろ。勇者凹ろうぜっ、とか言い出したのはお前であって、俺はそんな七面倒面白愉快そうなことは言ってない」
「旦那様もずいぶんと乗り気では御座いませんか」
「そりゃ当然。勇者ってーと古今東西、なんつーの? 酒池肉林? ――ザケんな、爆発しろッ!!!!」
「ご自身の発言で急に怒り出さないでくださいませ、旦那様」
「っと。悪い。ついつい世の不条理に俺の純情が抑えきれなかった」
「そのようなことを仰られていると不条理の塊である旦那様ご自身が爆発してしまいますよ?」
「いいんだよ。俺別に勇者とかじゃないし。……いや、別に羨ましがってないよ? 全然、悔しくなんかないからな?」
「旦那様ならば現有者を打ち倒し、大魔王としてこの世に降臨することも可能で御座います」
「やだよ。大魔王とか、思いっきり“悪”じゃねえか」
「旦那様は“微”悪党では?」
「そうそう。ま、俺には勇者とかそういうのは似合わないって話……――そんなに俺はモテないのかよっ!!??」
「ですから自身の言葉にご自身で応えないでくださいませ、旦那様」
「……まあいい。とにかく、勇者なんてモテるやつは撲滅されろって話だ。それにほら、肝心の問題となるはずの“魔王様”もお前が討伐済みだし?」
「討伐などしておりません。『魔王』こと、へたれちゃんは今日も護衛部の皆様方にたこ名栗にされる日常に明け暮れております」
「……奴も哀れな」
「殺さなければ本気で抵抗してもよい、と常々申し上げているのですがね。きっとへたれちゃんは皆様方に殴られるのがお好きなのでしょう」
「ゃ、あれは多分ガチで凹られてるはず。というか、館の総戦力でフルボッコとか、……あぁ、今もヤツの不憫な鳴き声が聞こえてくるようだ」
「旦那様にも聞こえるのですか? 本日の泣き言は中々張り切っておりますね。『貴様ら、我を誰だと思っ……こ、この屈じょ、……殺すっ、コロスコロスコロスッ、キサマラコロシテヤ……』などと。ふふっ、微笑ましいことです」
「……全然微笑ましくない。微笑ましさが微塵もねぇ」
「それはそうと旦那様、質問にお答えいたしましょう」
「あん? 質問? なんだそりゃ」
「旅と言えば徒歩、路銀を稼ぎながらの目的地へ向かう岐路、そして行き倒れ。これぞ、勇者討伐に限らず旅の醍醐味では御座いませんか」
「いや違う。最後の行き倒れとか、絶対違う。つかいつの間にかもはっきりと勇者討伐とか言っちゃってるよね、お前!?」
「ちなみに旦那様が行き倒れるのは決定事項です」
「決定じゃねえよ!? つか、俺行き倒れるの!?」
「はい」
「はい、じゃねえ!? ……つか、危うく聞き逃すところだったけど、つまり勇者のいるところまで、これから歩いていくわけか?」
「はい」
「ちなみにどのくらいの予定なんだ?」
「さて?」
「は? さてって、どういう意味だよ?」
「ランダム転移できましたので、現在地がどこであるのか私は把握しようとしていません。ですので、今代『勇者』のいる場所までどれほど時間がかかるのかも、当然存じ上げません」
「……なんだ、その行き当たりばったりなの葉は」
「旦那様は決められた旅路よりもこちらのほうがお好みで御座いましょう?」
「まぁ、そりゃ確かに……」
「それでは旦那様にもご納得いただけたところで、早速行き倒れ――」
「それだけはしねえよ、絶対!!」
あとは、まぁノリで。