KI
除きは犯罪です?
◇◇◇
「……あの、さ」
「はい、いかがなさいましたか旦那様――と、さあお見逃し無きよう。今はちょうどキリル様辺りが見頃で御座います」
「いや、見頃です、とかじゃなくて、」
「ご自分もあの輪の中に混ざりたいと仰るお気持ちは微塵も理解するつもりはございませんが重々お察しだけ申し上げますが、そこは旦那様の類稀ない程に低い忍耐力で何とか我慢していただく他御座いません」
「ゃ、だから、さ」
「まだ何か仰りたいことがあるのですか? 皆様方の裸体と水着姿に対する品評会を唐突に始められても正直引くだけなのですが、ここは旦那様の心身を切り刻む思いで黙して聞きたいと思います。――どうぞ」
「いや刻むなよ、つか刻むならせめて自分のにしろ、な?」
「そこまで刻まれることを御所望で御座いましたか、旦那様は」
「いやいやいや、そんな事はひとっっっ言も言ってないからっ!」
「――旦那様、あまり大声を出されると皆様方にばれてしまいますよ?」
「っと。そうだった。やばいやばい」
「まあ旦那様がそれで良いと仰れるのでしたら敢えてお止め致しませんが。いえ、むしろ旦那様ならばはじめからそれを期待、」
「は、してないからな?」
「そうなのですかっ?」
「今の流れで驚く要素は一つとないといっておこう。……じゃ、なくてだなぁ」
「はい、如何なさいましたか、旦那様?」
「あのさぁ、もう本当にどうしようもないほど根本的な問題として……――コレ、何か違くね? 絶望的に違ってね?」
「違う、とはどのようなことで御座いましょう? 私は旦那様が望まれるままに、皆様方の着替え姿を覗くという実に三流の小悪党染みた重犯罪の片棒を担がせていただいているまで出御座いますが、それに何かご不満でも御座いましたか?」
「いや、満足……というかこの光景に関しては言うことなし、いやまぁある意味望みどおりの光景であることは間違いじゃないわけだが、」
「旦那様、覗くだけならば未だしも流石に手を出されるとなると私もこのまま黙っているわけには、一向に構わないのですが愉快という感情のみで旦那様の障害となることを誓いましょう」
「ただ性質悪いだけだよな、それっっ」
「……、くすり」
「いや、笑えてない、まったく笑えてないから、それ」
「笑ったつもりも御座いませんが?」
「……」
「……」
「何か冷たいよ。空気というか、あれ、視線?」
「……」
「……ま、まぁいいや。それよりも、だ」
「はい、旦那様」
「――やっぱりこれ、なんか違うだろ」
「何か、とは一体全体旦那様が望まれているものと何が異なっていると仰られるのでしょうか? 具体的に例を挙げていただければ直ちに改善して見せましょう」
「……ゃ、つかそもそもお前が同伴って時点でもう何か、あれコレ色々と終わってね? とか思うのは俺だけじゃないはずだ」
「私がいることに一体どのような――は、まさか旦那様が私の裸体および水着姿をご覧になりたいと仰られ、」
「黙れ♪」
「……終いには卸しましょうか、旦那様?」
「……止めれ」
「旦那様、偶には私にも飴という名の甘い褒美をくださいませ」
「あー、……気が向いたらな」
「それはつまりだんな様のご寵愛をいただけないというのと同義でございますね?」
「そうとも言う」
「……そこは否定していただきたかったです」
「まあ、まあ」
「……ふぅ。――では、気を取り直しまして。現状、私が傍にいることの何処に不都合があると旦那様は仰れるのでしょうか?」
「むしろなぜ不都合がないと言い切れる?」
「私がいれば見つかることはまず皆無となり安全性も格段にあがること間違い御座いませんが、それに不満がおありなのでしょうか?」
「確かに、お前がいれば安全性はあがるかもしれない、でもある意味お前の気まぐれに全てが委ねられてる状況なわけで、そんな状況の中でどうやって俺に落ち着いて覗きと楽しめと?」
「さあ、遠慮は一切必要御座いません?」
「いや、つか遠慮も何もないから、それ」
「左様でございますか。……では、旦那様にお一つ朗報がございます」
「それは間違いなく朗報じゃないな」
「ではお聞きになられませんか? 私はそれでも構いませんが」
「……が、一応聞いておこう」
「はい、わざわざ回りくどいことを仰らずに初めから素直に聞かせてください愛していますと目の前に這い蹲って土下座して懇願すればよろしいのです、旦那様」
「……」
「……」
「いや、しないからな?」
「はて? しない、とは何のことで御座いましょう、旦那様」
「いや、別に」
「左様で御座いますか」
「ああ。んで、その朗報とやらは何なんだよ?」
「先ほどシャルア様と視線が合ってしまいましたが幸運なことにお顔を真っ赤にされたのみで済みました」
「おぉうい!? それって朗報違うよな? 思いっきり覗いてるのがばれたってことだよな!?」
「失礼なことを申されないでくださいませ。ばれた、ではなく私が進んでばらしたので御座います」
「そっちの方が余計に性質悪いよね!?」
「心配は要りません。シャルア様はすでにオチました」
「オチたって何が!?」
「まあ、非常にこちらを気にして入るようですが周囲に私たちのことを漏らす気はなさそうだ、ということでございます、旦那様」
「? 何で?」
「お答えは致しかねますが、シャルア様がすでに着替え終わっていることも要因のひとつであることは間違い御座いません」
「なるほど。つまり自分はもう着替え終わってるから俺に覗かれても自分だけは大丈夫だ、と? ……シャルアもああ見えて結構あくどいんだなぁ」
「はい、旦那様。一度死んできますか?」
「なんでだよ!?」
「旦那様があまりにも酷いお答えをされたのものですので、怒るに怒れないシャルア様の変わりに怒ってみました」
「……わけわからん」
「――……旦那様がそう仰るのならばそうなのでしょう」
「いや、何その『実は分かってて分かってない振りしてるんだろ、お前』的な感じは」
「十二分に分かっておられるでは御座いませんか」
「いや、そういうことじゃなくて、」
「もし、本当に分かっておられないと仰るのでしたら、」
「や、だからさっきからわけ分からんと言って……」
「あまり深くお考えなさらぬよう、お勧めいたします。物事とは常に単純なもので御座いますよ、旦那様」
「……ふむ、つまりシャルアは俺になら着替えを見られても良いと、」
「はい、旦那さ――」
「つまりは露出狂って奴だったのかっっ!!」
「……――で、本気で一度死に掛けてみますか、旦那様?」
「ゃ、ごめん、イヤごめんなさい、マジご免なさいっス!!」
「今のは流石にご冗談で御座いますね?」
「ふっ、まさか俺がシャルアにそこまで愛されているとは。ご主人様冥利に尽きるぜっ!」
「そうで御座いま、――とこのまま認めるのも若干癪に御座いますので……あぁ、そういえば旦那様?」
「あん? 何だ?」
「また一つ朗報が――といいましょうか、旦那様。敢えてお尋ねいたしますがあれだけ叫んでおいてまさか見つかっていないと思いますか?」
「……、結論を」
「すでに取り囲まれております。満面の笑みを湛えて拳を握り締めておられる方々多数。――それと一応申し上げておきますが私は同姓ですので問題は御座いません」
「……逃げるの手伝えや、てめっ」
「はい。では趣向を凝らしてこのような――」
「――転移? おぉ、助かっ……いや、待て、少し冷静になれ、俺。お前のことだかららこれって、」
「よかったですね、旦那様。まさに渦中の中の中。これで旦那様も皆様方の裸体を公然と除き放題でございます! いい仕事しました、私」
「って、てめぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
「お姉様、ご助力感謝します! さあ、皆。ぐずぐずしてるとマスターが逃げます。一気に取り押さえなさい」
『はい、サカラ部長!!』
「では皆様方……および旦那様、――ご賢答を」
「ゃ、ちょいと待っ」
『待つのはご主人様 (レム様・マスター・主様)じゃないですか?』
「……そうっすね」
◇◇◇