ど-611.魔王、飼い始めました
・・・家に一匹、魔王はいかが?
「……なあ?」
「はい、如何なさいましたか、旦那様?」
「いや、ちょっと庭先に見慣れないワン公が居たんだが……」
「ああ、魔王ですね」
「あれ何――って、魔王!?」
「正確には今回発生した魔獣ノ王――『勇者』の対となって作られた世界を貶める形で御座います、とこれは旦那様に説明する必要は御座いませんでしたね」
「あ、ああ。そっち関連についてはお前より俺の方が知ってるし……じゃなくて!」
「はい、ちょっと発生していたので捕まえて下僕という名の仲間、もとい私の誠心誠意の“お願い”の元で仲間という名の下僕にしてみました」
「下僕? というよりお前何してんの!?」
「いえ、私のいつもの散策コースの上に魔王城などという風情のかけらもないものが製造されていたので、つい……」
「成るほど、ついかっとなってヤってしまった、と。分からないでもない、その気持ち」
「いえ。『勇者』には手出し無用とのことでしたので、ここで『魔王』でも捕まえておけば主に旦那様が愉快なことになるのではないかと、忍び笑いを洩らしなが企んでみました」
「お前最悪ですね!?」
「旦那様に褒めて頂くほどのことでは御座いません」
「褒めてねえよ!? ……と、言うかまた魔王とか厄介なものを持ち込んでくれて、ったく」
「ですが旦那様は以前より苦心されておられたでは御座いませんか。魔王を殺すべくして生まれる勇者、勇者に殺されるべくして生まれる魔王、――互いに“ただそれだけの”存在」
「まぁ、な。なんつーか? アレは外から見てるとむかつくしな」
「ですので……というわけでも御座いませんし何処かの創造者の真似事では御座いませんが、そろそろ世界に異を唱えてもよろしい頃合では御座いませんか?」
「いや、世界に異って、」
「旦那様にもご理解いただけるような言葉で表現いたしますと、こちらの戦力も揃ってきたのでそろそろ世界に喧嘩を売りませんか、ということで御座います」
「や、意味くらいは分かってるが」
「はい。ですのでその手始めとして魔王をこちらの陣営に手懐けてみました」
「何かそれぞれの陣営があるみたいな意味深っぽい言い方は止めて!?」
「では少々控えましょう、ですが既に手なずけてしまったことはいくら旦那様が泣こうが喚こうが叫ぼうが変わることは御座いませんのでどうかご理解のほどをよろしくお願いいたします」
「……手なずけたというか、何か世界中の生き物全部が怖いです、な勢いで怯えてたぞ、あれ」
「可笑しいですね、旦那様に楽しんでいただくのと同程度の“お願い”をしただけなのですが。あ、いえ、魔王がおかしいというのではなく、旦那様が可笑しいと申し上げているのですが」
「何が? ……というか俺でも耐えられることに耐えられないなんて、その魔王、ちょっと魔王として駄目じゃないか?」
「むしろそこは魔王の脆弱性を疑うより先に旦那様ご自身の理不尽さを疑ってみては如何ですか?」
「いや、俺はいたって普通の一般人だし? そんな俺の何を今更疑えと?」
「主として旦那様にかかっている疑惑の数々でしょうか」
「全部、冤罪、だ!」
「御心配なく、しっかりと真実は織り交ぜております」
「くっ、その所為で信憑性が増したり一概に俺が否定できないような内容になってやがるんだよっ!?」
「承知しております。どの情報を洩らしどの情報を捏造するのか考えるのは中々に楽しいですよ?」
「噂ばら撒かれる俺の方としては全く楽しくないけどなっ!?」
「ああ、それと旦那様、言い忘れておりましたが、」
「……なんだよ、あからさまに話題転換して、というよりもいつもどおり俺のツッコミは全スルーなのな」
「いえ、そのようなことは決して御座いません」
「……で、何だよ?」
「はい。魔王の名前はヘカトンケイル、略してへたれちゃんということにしましたので今後とも如何かよろしくお願いいたします」
「いや、全然略してないよ、それ!? つか“へ”の一文字しかあってないしっ! いや、そもそも“へたれちゃん”ってのは余りに酷すぎるんじゃないのかっ!?」
「成るほど、ご自身の立場を重ね合わせて同情しておられるのですね。流石は旦那様お優しいことで御座いますね、このキング」
「――なんだ、キング呼ばわりされただけで馬鹿にされた気になるのは俺の被害妄想か……?」
「いえ、それで旦那様は正しく認識されているものと思います」
「だよな? ……じゃ、ねえよ!? 今ので正しいてんならお前俺のことバカにしてるだろうがっ」
「客観的事実に基づいた発言に対して理不尽に腹を立てるのは止めていただけませんか、旦那様」
「全然客観的事実違うよ!?」
「そう仰られるのが旦那様お一人であれば、その言葉に価値は御座いませんね」
「ぅ、ぐ。か、数の暴力とくるかっ」
「そのようなことはいたしませんとも。あくまで旦那様が勝手にそのような被害妄想を持っておられるだけでは御座いませんか?」
「……」
「そのような熱いまなざしで見つめられても、私に出来るのは精精が旦那様を優しく抱きとめるか安眠代わりの枕や抱き枕代わりとなるくらいしか出来ませんが?」
「余計安眠できなくなるわっ!!」
「……ぽっ」
「え、なに? 何でそこで照れてるの? え、俺何か変なコトいった?」
「……いえ」
「え、え? え??」
「――では旦那様、へたれちゃんのお世話は旦那様ということでよろしいですね?」
「いや全然よろしくねえよ、つかその名前決定!? いやそもそもなんで俺が魔王の世話なんか!?」
「どうにもへたれちゃんの方が甚く旦那様に親しみを覚えているようで。親近感、というものなのでしょうか?」
「――認めたくない。絶対認めたくないっ」
「ということですので旦那様が一番適任かと」
「……まぁ、お前が言うくらいだから一応俺が適任ってのは間違ってないんだろうが、全く釈然としないぞ、おい」
「私と旦那様以外の方々に対してはへたれちゃんはまだ若干反抗気味ですので」
「……仮にも世界の怨敵として存在する魔王相手に若干反抗気味とか……お前のほうが魔王、いや大魔王かよ」
「それは旦那様の方では御座いませんか?」
「……まぁ?」
「では旦那様、へたれちゃんのことはよろしくお願いいたしますね? そしてこの調子で全てを旦那様に押し付けようと思いますので如何かそのつもりでお願いいたします」
「ああ、分かっ……て、いや、俺に押し付けるなよ?!」
「旦那様、私は旦那様を信じております」
「いや、ここで言う台詞としては間違ってるからな、それ?!」
「では旦那様、私は私でやることが御座いますので――主にあら不思議、急に消失した魔王城のフェイク作りですが、そういうことですので失礼させていただきます」
「ゃ、だからちょい待て――って、言って待つようなやつじゃぁ、ないか。もういないし。……はぁぁぁ、また厄介なものを持ち込みやがって。面倒くさっ」
魔王の叩き売り。
・・・安いよ、安いよ~?
二人はいつだって平和そのもの(?)}です。
のんびりまったり。