61. どれいとある一つの終着点
~コレまでのあらすじ~
大国同士の戦争止めたり(?)巫女姫様を浚ったり(?)アルーシアが可笑しくなったり(?)しながらのんびりと旅をしてきたレム一行。八割方はレムが牢屋に入れられた私刑されかかったり追い掛け回されたりしていた。
そんなこんなで、今はW.R.第八位の『情報士』マデューカスに追い掛け回されているところである。
アルーシア・・・愛称、アル。色々と沸けありなレムの奴隷(?)の女の子。喋れない、というわけではないらしく最近少し言葉を話すようになってきたようだ。
シンカ・・・リリシィ共和国の巫女姫とか言う立場だったのも今は昔の栄華である。レムに(おでこの)ファーストキスを奪われた責任をとれと迫っている最中。本人は非常に乗り気でない様子。
マデューカス・・・シンカの姉。そしてW.R.第八位の一応公称で世界で八番目に強いヒト、のはず。活躍の場はほぼない。
「ふははははは……――って、流石にW.R.(ワールドランク)保持者、特に『情報士』相手に逃げるのは無理!!」
「マデューカスお姉ちゃん、がんばって!」
「任せなさい、シンカ。このレム・ワ・ウジムシを今すぐ屠って……」
「――とか思ってたけど、何か動きがぎこちなく……というかさっきから微妙に手加減してくれてないか、マデューカス?」
「マ、マデューカスお姉ちゃ……?」
「そんなことはありません。第一私があなたに手加減をする理由がない」
「ふっ、皆まで言わずともわかってる。お前――実は俺に激ラヴュ、っっぉ!!!???」
「そ、そうなの、マデューカスお姉ちゃん!?」
「レム・めろめ~ろの戯言を真に受けないように、シンカ。それとそんな事実は一切ありませんから、レム・ウヌーボレ」
「ふっ、皆最初はそう言うんだよ! ……まぁ、最後まで同じこと言ってたりするけど」
「それって普通に好かれてないだけじゃ……?」
「もう言葉通りですね、それは」
「うるさいよ!? ちょっとくらい良いじゃない、俺が夢を見たって、良いじゃない!! そんなに悪いことなの!? 俺が夢を見るってそんなに悪いことなのかっっ」
「そ、そこまでは言ってな、」
「土に還れ?」
「ちょ、おま、――今回は本気で容赦ないな、マデューカス!?」
「って、マデューカスお姉ちゃ……さ、流石にちょっとやりすぎはどうかなってわたしも思」
「駄目ですよ、シンカ。レム・ぞくぞくを一匹見たら百匹はいると思えという、嘘か真か私すら判断しかねる噂を聞き及んだことがあります。つまりここで手を緩めては意味がない――せめて一匹だけでも確実に屠るべきだと私は判断しています」
「違ぇよ!? つかそもそも俺は俺一人しかいないし!? 誰だよ、そんなデマ流し、いやそんな心当たりが一人いますけどねッッ!!」
「そうなの!? レムがいっぱ……ヘンタイなレムがいっぱい、いっぱい……あ、悪夢だぁ」
「その通りです、シンカ。そうならないためにも、むしろこれは世界の為。やはりレム・みにゅーはこの場で狩っておくべきだと――!」
「だぁぁぁぁぁ!!! 何か知らんが逃げる、訳分からんがマデューカスが本気出してないうちに逃げる! 世界第八位とマジで遣り合ってられるかっ」
「……ぁ、マデューカスお姉ちゃん、本気出してないって、まさか神殿にばれるのが……」
「良く言います、レム・むにゅーすきー」
「――俺は無乳スキーじゃねえよ!?」
「わ!?」
「……今迄で一番の反応でしたね、レム・ロリ――」
「――それ以上口にすると本気で怒るよ、俺!?」
「わわ、わ……?」
「なるほど。コレが貴方にとっての禁句というわけですか。レム・ばしゃうみゃー。ですがそれならば、シンカに手を出したというのも納得がいきますね」
「何かっ、今何か途方もない侮辱を受けた気が!?」
「マデューカスお姉ちゃんっっ、それってどういう意味!?」
「そのままの意味ですが――大丈夫です、シンカ。私はあなたの姉ですから。今の体型を気にする必要はありません。それは時間が解決してくれます」
「……ふむ?」
「そ、そうかな……って、ゃぁっ、レムさん、変な目でこっち見ないでくださいっ!?」
「――その色情狂いな目で妹を見るのを即刻止めなさい、レム・ころっせうむ」
「ほんと、酷い言いがかりだよな、姉妹揃って!!」
「……ぁ、でも今までレムさんがよくじょーしてきた女の人たちって小さな女の子だけじゃなくって。レムさんってもしかして両方いける口?」
「――ッッ、今、何か非常に強烈な、特定の意図の視線を感じました!」
「それは間違いなくお前の自意識過剰だ、マデューカス。そしてシンカ、敢えて言おうッ――俺は何処までいける口だ!!!!」
「「ッッ!!!!」」
「……とか言うとまあ誤解されるんだろうが。あ、今のは当然冗談だぞ、二人とも? いくら夢がハーレムを掲げている俺でも節操とかその辺りの常識はどこぞのメイドもどきよりも圧倒的に持ち合わせてるつもりだ」
「……レムさ、いえヘムさんってやっぱり――」
「レム・ザ・キング、あなたはやはり――」
「え、何この雰囲気? あれ、何か誤解されてる、って言うよりもさっきの冗談真に受けた? 真に受けました? や、やだなぁ、はは、二人とも――」
「ヘムさんの不潔っ!」
「最早私の事情を気にするよりも、先にレム・みどるりゅを確実に屠るために全力を出した方がよさそうですね……」
「チィ、何だか良く分からんがさっきよりも状況が悪くなってやがる、……何故こうなった!?」
「マデューカス姉さんっ、私も手伝うよっ」
「! そうですか、シンカ。ようやくレム・ひゃっほ~の悪意に気がついてくれましたかっ」
「ゃ、悪意って……俺は常に純粋そのもの、」
「うん、マデューカスお姉ちゃん! やっぱりヘムさんには一度徹底的な教育的調教が必要だよっ!!」
「よく言いました、それでこそ私の妹!」
「私の妹! ――じゃねえよ!? てかアレか、姉妹とか言うカテゴリは全員が全員こんなものなのか!? ろくでもないものばっかりなのか!?」
「ろくでもなくないですっ、マデューカスお姉ちゃんは最高のお姉ちゃんだものっ」
「シンカこそ最高の妹ですっ、――シンカ、ではいきますよっ!」
「ちょ、いや、待てお前ら、」
「うん、マデューカスお姉ちゃん! 1、2――」
「3! ――野に死に晒せ、レム・へたれキング」
「くはっ、ここですかさず、奴隷バリアー……へいっ、“召還”!」
――マスター権限より要求、承に、コード≪炎原≫による強制割り込み発生、エラー、エラー、……空間歪曲発生、衝撃に備えてください、警告、衝撃に備えてください
「――ふぇ?」
「「なっっ!!??」」
◇◆◇
「……?」
そこに一人、赤い少女が首を傾げて佇んでいて。
その刹那、マデューカスとシンカの放った魔法の攻撃はアルーシアの出現と同時に、空間の捩れに巻き込まれて消えていた。
「あ、れむだ」
「――なっっっ!!!???」
「アル、ちゃん……?」
「あれはいつかの子供、ですか? ですが今の現象は――」
「れむー」
「――はっ!? まさか俺は夢でも見ているのか? ちょっと奴隷的壁役としてレアリアを呼んだはずがアルが目の前に、しかも俺のことを『あ、れむだー』とかいってこっちに駆け寄ってくる姿といったらッッ!! ――駄目だ、呆けてる場合じゃない!!」
「れむー」
「おおうっ、アル!!」
「……!」
「……って、感動の再会でここは抱き合うところじゃないの? え、何で避けるの?」
「れむ、怖い」
「!!!!!! ぐふぅ……あ、アルよ、しばらく見ないうちに随分と立派になったな」
「……(こくこく)」
「そ、それはそうと……アル、これはどういうことだ? いや、俺に対する愛のなせる業とか、愛が起こした奇跡とかもう理由はそれしかないだろってコトは分かりきってるわけだが、それでも今のは一体なんだ? コード≪炎原≫? ……俺でも知らないぞ、そんなの」
「れむー」
「って、まあそんなことはどうでも良いかー。今一番重要なのはっ、アルが自ら俺に会いに来たというただその一点のみっっ!!」
「……(ふるふるふる)」
「何でそこで首横に振っちゃってるの、アルさんや!?」
「――いま、わたしのなかでそうぜつなけんりょくあらそいがおこなわれています」
「……はい?」
「……?」
「いや、不思議そうに見返されても……というか権力争い? 私の中? どういう意味だ、それ?」
「……(ふるふるふる)」
「ふむ、アルにも分からない、と?」
「……(ふるふるふる)」
「いや、だから分かるの分からないのどっちなんだ!?」
「……、はい」
「その返事は何に対する返事!?」
「……(こくん)」
「いやいやいや、意味有り気に頷かれても俺にはさっぱりだから!!」
「……れむ?」
「ぐふぉ!!?? いや、もういいっ! 些細なこととかもう如何でも良いや! アルのその仕草だけで俺はもうおなかいっぱいですっ!!」
「……わたし、も?」
「――私も!? 私も、何だ、アル、その続きは一体何なんだっっ!?」
「……?」
「お願い、アル、アルーシア! お願いだから今の言葉の続きを俺に聞かせてっ、頼むからっ!」
「れむ、怖い」
「!!!!!」
「……そ、そんなことないからね? レムはいつだって優しいし、その……――このへたれ!」
「!!!!!!!!!!!」
「ふふふふふ、何かすごく気分がいいです。この台詞を一度言ってみたかったんですよねっ! あ、でも『へたれ』ってどういう意味なんでしょう? アルーシア、意味知ってます?」
「……アルが……俺のアルが、どんどんイケナイ子になっていく。どこだ、何処で俺は間違えたっ!?
「あー、その、ゴメン、少し黙ってて?」
「――へたれの次は黙れって言われた!?」
「あ、いや、今のはレムに……、れむ?」
「う、うぅぅ、俺は、俺はこの先一体どうすればいいんだ。もうこの世には愛も希望も何もかもがないというのかっっ」
「あ、あの……ね?」
「――はっ!? そうかっ、何か俺今すごいことに気づいてしまったぞ!? 愛や希望がないなら俺が作ればいいんじゃないかっ! 何でこんな最高なことに気づくんだ、俺。もう出来すぎだろっ!?」
「……えーと。……あははは、は、レムはやっぱりいつまで経ってもレムのままだよねー、…………そこが凄く良いんだけど」
「よっしゃ、アル! そうと決まれば、だ!!」
「きゃ、……、???」
「取り敢えずは二人で逃げよう。ここは危険だ」
「……?」
「っ、待ちなさい、私が逃がすと思っているのですか、レム・はにはに!」
「逃げるさ逃げるよ逃げるともっ! むしろ俺が逃げ切れないものなどこの世界に二つくらいしかない!!」
「……ぁ」
◇◆◇
「二人で御座いますか。それは是非ともお聞きしたいですね。旦那様が逃げ切れないと断言されてしまうほどの猛者は何処のどなた様なのでしょうか?」
「……、あー、アル。悪いんだけど少し確認を頼めるかな? 今、俺の後ろに立っているお方は何処のどなた?」
「……灰色」
「はい、正解です、アル。ということで旦那様、私に何の言付けもなく逃げられるなど、少々酷いのでは御座いませんか?」
「――やー、そんなこともあったナー?」
「……?」
「はい、御座いましたね。というわけですのでこれから私が旦那様にする行いは正当であるとご納得いただけましたね?」
「――ゃ、ちょい待っあがああああああああああ!!!???」
「っっ!!」
「心配は要りませんよ、アル。旦那様はただ苦しがっているだけです。詳細を説明すれば絶賛、私が旦那様のお体の全殺と無限地獄を同時に行っております。そうすると素敵なことに旦那様のお身体は今までになく強靭なものに早代わりという特典を授かります。――まあそんな事は如何でもいいくらいにただただ“痛い”ですが」
「あべべべべべっっっ」
「……(ふるふるふる)」
「どうですか、旦那様? コレで少しは私の心の痛みをご理解いただけましたでしょうか? ご理解いただけたのであれば『理解したから許してくれ』と仰ってくださいませ? ……ただし現状でそのような口を聞ければ、ですが」
「ぶぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
「……(ふるふる、ふるふる)」
◇◆◇
「……シンカ、私はレム・みぃじぃの事など如何でも良くなってきました」
「ぅ、うん、わたしも……というよりヘムさんは何で一人で悶えてるの?」
「さあ? ……正直私でさえも動きが全く見えないなどと余りに馬鹿げていますが。――これが世界第一位、『白面』の実力ですか。これならば確かに第五位『戦姫』程度など瞬殺もいいところ、名のでしょうね」
「ふぇ? マデューカスお姉ちゃん、今なんて……」
「何でもありません。……というよりも、シンカ?」
「うん?」
「何だかあなた、精神的に退行していませんか?」
「そそそんなことないもんっ!」
「……そうですか。ならそれだけ……私がシンカに無理をさせてしまっていたということなのでしょうね」
「ぁ、ゃ、別にそんなことないよ、マデューカスお姉ちゃんのコトだって、わたしちゃんと分かってるし、」
「ありがとう、シンカ。あなたは本当に出来の良い妹ですね」
「ううん、マデューカスお姉ちゃんだって、ぇ」
「――ぁ」
「ま、マデューカスお姉ちゃ、……」
「――取り敢えず、私の目の前で姉妹愛などというこの世で一番下らない寸劇を見せないでいただけませんでしょうか、マデューカス様、シンカ様」
「「……」」
「……、おや? ――これはいけませんね。旦那様の件で気が緩んでいた所為か、うっかり言葉よりも先に手が出ていましたか。マデューカス様? シンカ様、大丈夫で御座いますか? ああ、それと聞こえていないかもしれませんがマデューカス様? 私は断じて『白面』などという愚か者では御座いませんので、どうかお間違えなきようお願い申し上げます」
レム君、つかまった。