とめどなくあふれでるもの
・・・体力がっ、書く体力以前に日常を過ごす体力が足りないっ!?
「色々思うところはある。だがっ! 敢えて言おう、」
「はい、旦那様。しかと心得ております。故に準備は万全に御座います」
「俺はまだ何も言ってねぇ!?」
「……、おや? コレは失礼いたしました。ついうっかり、意図的に旦那様の内なる声と肉声を聞き取り間違えてしまいました。申し訳御座いません」
「ってか内なる声って何さ!?」
「旦那様の赤裸々な欲望で御座います」
「断言するな! お前に俺の何が分かるって言うんだッ!!」
「全て」
「――」
「“不詳”この私、旦那様のことならば全て存じ上げておりますとも」
「……くっ、何故だ、何故反論できない!? 『そんなわけあるかっ!』とか『はっ、お前に俺の全てが分かってたまるかっ!』とか、ほら、他にも色々と言いようがあるだろ、俺。 何か……何か言うべき、否定できる言葉が俺にはあるはずだっ、……――いや、無いとかマジ落ち込むんだが」
「どれだけ言葉を吐き捨てようと、体と心はやはり正直ですね?」
「……あー、こほんっ」
「はい、旦那様。仕切りなおすのですね。はい、承知しております。どうぞ、私に遠慮などなさらずに、どうぞ」
「……そういうことを言われると一気にやる気とかで満たされてるっぽいゲージが激減するんだが?」
「所詮は旦那様は私の手のひらの上と言うことです。そして私は旦那様の腕の中から逃れられないと言うことです」
「何か違わね? 前半と後半で、何かこう色々と、……――違ってないか!?」
「“溜め”を作る意味が分かりません」
「強調してだよ!? 分かれよ!?」
「その程度のことは存じ上げております。私が分からないと申し上げたのは、私の言葉のどこが違っていたのか、と言うことです。どこも違いなど無いではありませんか」
「……よぉうし、それじゃあお前、さっき言ったことをもう一度言ってみろよ」
「旦那様のものは私のもの、私のものは私のもの。そして私は旦那様のものに御座います」
「いや、さっき言ってたことと違……わ、なくもないのか?」
「はい。そして私は何一つとして間違ったことは申し上げておりません」
「言われてみると……というか『俺のものはお前のもの』って時点で既に違いまくってるよ!?」
「事実は妄想より奇なり、と申します」
「奇なり、じゃ、ねえよ!? 俺のものは俺のものだっ、そしてお前のものも俺のものだっ!」
「はい。そして旦那様のものを管理するのはこの私の役目。どこか間違っておりますか?」
「……あれ? いや、今のは間違ってないな」
「私が管理しているのですから、一時的とはいえ私のものと言っても差し支えないのでは御座いませんか?」
「う……む? まあ、確か、に……? 変なことではない、なぁ?」
「ですから旦那様は私のものと言うことですね?」
「あ、うん、そうな――って堪るか、違ぇよ!?」
「――あと少し」
「……って、お前、その手に持ってるのなんだ?」
「いえ、旦那様に言質をとらせた後に私に出来うる限りの極上級の呪いで縛りつけようと画策したのですが失敗してしまいました。残念です」
「――心底よくやった、俺! それとンな物騒なものは没収する、没収!」
「あ、ですが旦那様」
「何だよ?」
「実はそれには私以外使用不可能なように細工が施し」
「――!!??」
「遅かったですか。まあ私以外が触れると自爆する仕組みになっておりまして、旦那様も努々お気をつけくださいませ、と申し上げたかったのです」
「……けほっ、遅いけどな」
「はい。しかし今回は爆発の規模を極小にしてしまい失敗でした。こんなことなら極小単位で威力だけを最大にしておくべき――」
「じゃ無いからな? 今ので十分だぞ、つかそもそも自爆とかもいらないからな?」
「自爆は男のロマンと聞き及びましたが?」
「……誰から聞いた、んな出鱈目」
「以前、旦那様からですが?」
「……チッ」
「昨日のことは昨日のこと、今日のことは今日のこと、そして明日のことは明日考えましょう、旦那様」
「ああ、それもそうだな」
「はい」
「――と、いうわけで、だっ。何か随分と要らない回り道をした気がするがっ」
「早々に本題に入らないのは旦那様の悪い癖ですね?」
「お前のせいだよ、お前のせいだからな!?」
「余り他者に責任を押し付けるのは感心いたしませんよ、旦那様?」
「……の、割にはお前よく俺に全責任転嫁とかしてるよな?」
「私にとって旦那様は他人ではなく旦那様なので問題ありません」
「いや、あるだろ?」
「少なくとも私にとっては何の問題も被害も御座いません」
「そりゃ当然、俺の方に被害全部来てるからなッ! お前に被害ないの当たり前だよね!?」
「策士とお褒めください、旦那様」
「絶対、断る」
「そうですか。それは残念……なことですが然して重要ではないので素直に諦めることにいたします」
「よぅし、それでいいんだよ、それで」
「しかし旦那様?」
「あん?」
「本題、と言いましょうか、旦那様が仰りたかったことからまた話がずれてきているのですがそれは宜しいのですか?」
「良くないよ!? ……つか危ねぇ、また誘導尋問に引っかかるところだった」
「いえ、既に引っかかっていたと思いますが?」
「細かいことは気にするな。とにかく、……あー、俺の願望についてだったな」
「いえ、願望ではなく欲望です」
「……どっちでも同じだろ?」
「旦那様には願望などと言う生ぬるいものよりも欲望の方が合っておられるかと」
「そうか?」
「はい」
「んじゃ、……――それでは今、敢えて今! 俺は超えたからかに宣言しよう、ただひとつの果て無き欲望を!」
「はい、旦那様っ、準備は万全に御座います」
「流れも、時代も、個性も、神も、人格も、正義も悪も、御伽噺のような物語もっ、全て関係ない!!」
「その通りで御座います。旦那様の御前には全てのモノが悉く平伏すことでしょう」
「そうだっ、そうだとも、俺の前には全てが無力ぅぅ、全てが塵芥も同然よっ!」
「それは余りにも調子乗りすぎです、旦那様」
「そんなことは無い。調子に乗ってない俺は俺にあらず、だ」
「正にその通りで御座いましょう」
「応ともさっ」
「此度の旦那様はいつに無く精神の高揚が見て取れますね」
「ふ、ふ、ふ、今宵の俺は、一味違うぜ!! 具体的に言えば怖いものなど何も無いっ! 今の俺にとってはお前すら微塵も怖くなど無いわ、クハハハハハッ!!」
「若干、妙な方向に気分が高揚しているご様子で御座いますが」
「些細な問題だ」
「仰る通りで御座いますね」
「そして今こそ解き放とう、俺の欲望を」
「ついに動き出されるのですね」
「ああ、その通りだ、ジョンソン君」
「私は『ジョンソン君』などでは御座いません」
「そこはノリだ」
「左様で御座いましたか、旦那様改めアルバート君」
「アルバート言うな」
「アルバート君ではご不満で御座いましたか、アルバート君」
「不満だ、大いに不満だから。あとアルバート言うな」
「アルバート君」
「ちげぇ、ジョンソン」
「……アルバートちゃん」
「――なんだ、このジョンソン」
「私はジョンソンでは御座いません、アルバートちゃん」
「俺もアルバート違う、ジョンソン」
「……」
「……」
「不当な争いと進言いたします」
「そうだな、この不当な言い争いは止めておこう」
「はい、旦那様」
「――で、だ。俺の、」
「旦那様の欲望ですか? ハーレムですね。女の子を囲ってわふわふウハフハで御座いますね」
「……」
「単身で世界を征服可能な程度の力では御座いますが、私でよければご助力いたします」
「いらん。他人に夢を手伝ってもらうほど俺は落ちぶれていない!!」
「そうで御座いますね。もとより最底辺に居られる旦那様、今更落ちぶれることも出来ない旦那様に、落ちぶれる余地など御座いませんでした」
「そうそう、俺は落ちぶれるとか、そんなのありえないから。むしろ俺は今も留まる事を知らない程に遥か彼方へ上昇中だから」
「ああ、それは納得出来ますね。遥か彼方へ――いまだ誰も見ぬ地へ向かって飛翔中で御座いますからね、旦那様は」
「そうだともっ!」
「格好よろしいです、旦那様!」
「ハハハ、そんな当たり前のことを言われても照れようが無いな!」
「旦那様、お顔が綻んでおります。私と言えども褒められるのは嬉しい様で――何よりで御座います」
「ふはははは、いや、俺は別に喜んでたりはしないぞ?」
「そうで御座いましたか。それは失礼いたしました、旦那様」
「うむ、分かればいい、分かれば。だがそれはそれとして、だっ」
「はい、如何なさいましたか、欲望が満ち溢れておられる旦那様?」
「ついにっ、ついに俺の夢を実現するその時が来た。正に今こそ覚醒めのとき、つわものどもは俺に従え、万民よ俺に平伏せ、全世界の女の子は全て俺のものー!!」
「はい、そして私は既に見も心も旦那様のもので御座います」
「いや、俺の夢はいまだ始まったばかり! それなのに既に手に入っているものがある? 否、それは俺の傲慢であり夢幻、俺はまだ動き出してすらない!」
「よく旦那様の仰る意味を理解しませんが」
「つまり俺は立った今から全てを手に入れるっ。理解したかっ!?」
「成程。それは今から私は旦那様に全てを奪われてしまうと言うことですね。ええ、理解しました」
「――ふっ」
「ですが旦那様は何故後退りになっておられるのですか? さあ、旦那様。私の方は身も心の準備も既に万全で御座いますが?」
「毒を喰らわば皿まで、って言葉を知ってるか?」
「はい、存じ上げておりますがそれが何か今の状況と関係があるのですか?」
「あれはな、俺が思うに致死性の毒を喰らったならその量が多いも少ないも関係ない、って意味だと俺は思っているわけだ。断じて、目の前にあるのが毒と分かっていて食べるような意味ではない」
「旦那様が仰りたいのはつまり、私は『毒』だと言いたいのですか。大概失礼な言葉と存じ上げますが……俗に言う毒婦、で御座いますか。旦那様がソレをお望みとあらば私はどのようなオーダーであれお応えいたしましょう。つまりはまだ足りないと仰られるのですね、旦那様は」
「足りない? ア、ハーン? 何言ってるのお前、むしろお前が攻め立てる毒舌は……と言うかお前の場合の毒は言葉だけじゃないしな」
「日々旦那様を楽しませるためにこの心身を尽くしに尽くさせていただいている所存に御座います」
「良し行こう、今行こう、すぐ行こう。さあ、天国はすぐそこだ!」
「旦那様、私を無視しないでいただきたいのですが?」
「舐めるなッ!!」
「何がですか」
「お前一人程度にこの俺の欲望が受け止めきれると思うなよ!!」
「……余り威張るような言葉とも思えないのですが」
「この溢れ出るバァァッション! をお前は感じ取れないのかっ!!」
「――ふむ。旦那様のやる気ゲージが常日頃のおおよそ50倍、といったところですか」
「甘いっ、甘すぎるっ! その程度のはずが無いだろうっ、俺は今正に世界の頂点に立っているという勘違い! 俺の敵などどこにもいないと言う妄信! 誰にも俺を止めることなど叶わぬわぁぁ!!!!」
「旦那様がその気であるのならば私に一切の否は御座いません。――万全を期してお手伝いいたしましょう」
「よしっ、明日は俺の為に、世界は俺の元に! 女の子は俺の腕の中にっ!!!! ……が、キャッチフレーズだ。さあいざ往かん、輝かしきは明日の俺と巡り合う為にっ!!」
「では早速私も旦那様の腕の中に納まってみるのも悪くないかもしれません、いやむしろ良いですね。では早速、」
「良しっ、じゃあ早速作戦会議と行こうか。具体的には俺、救国の英雄とかになってきゃっきゃうふふと騒がれてみたい! 具体例をあげればキックスみたいな、あ、でも俺主体な感じで!!」
「……、まぁキックス様はどちらかと言う必要もなく、キックス様主体のハーレムではなくナナーツォリア様含む彼女たち主体のハーレムでしたからね。旦那様が仰りたいことも、納得は別として理解は出来ます」
「おうよ! あと救国の英雄とかになるにはやっぱり悪役が必要だと俺は思うわけだ」
「そうで御座いますね」
「つーわけでちょっくら世界滅ぼしかけて来い」
「承知いたしました、旦那様」
「――って、ちょっと待て待て」
「? 如何なさいましたか?」
「いや、世界滅ぼすっていってもあくまで“フリ”だぞ? “フリ”で良いんだからな?」
「はい、承知しております。つまりはヤラセで御座いますね?」
「ククッ、事実を知るのは俺とお前、二人だけで十分だ」
「素で世界を敵に回せる、略して素敵な笑顔で御座います、旦那様」
「ふっ、まあな!」
「そうですね、ではスフィア、アルカッタ……辺りが“堕とす”インパクトとしては申し分ないレベルのものと判断いたしますが――しかし旦那様、方々の方々に私どもの顔が割れてしまっているのは如何なさいますか?」
「あっ、そう言えばそうだったな。……ふむ、変装で何とかなるんじゃね?」
「はい。私の方は、それで大丈夫でしょうが。問題は旦那様の方では御座いませんか? 余りに都合が良すぎますと比較的利発な方々、アルゼルイの学園長殿辺りなどがヤラセの事実に気づく恐れが御座いますが?」
「……そうなるってぇと、先にその辺りのやつらを叩いておく必要があるな」
「叩く、ですか」
「黙らせるぞ、ひゃほ~い!」
「狩りの時間で御座いますね、承知いたしました」
「野郎ども、得物を持てぃ、勝ち鬨を上げろっ、出陣じゃ、戦の準備だっ!! 血が滾るぜ!!」
「はい――と。所で旦那様の得物は“どれ”を持ってこればよろしいですか?」
「ん? 当然、俺の愛剣」
「承知いたしました。ええ、私も旦那様が救国の英雄に、ましてや――ようやく世界を取る気になられたとあっては反対する理由も思い浮かびはしません。その上で旦那様が私めに悪役をお望みとあらば、全力で悪役と演りましょう」
「今宵の俺は、血に植えてるぜぃ。――ククククッッ」
「では旦那様、旦那様の期が変わらぬ内……いいえ?」
「? どうした? ほら、さっさとミッション『華麗なる俺様の俺様による俺様のための何とか』を開始しろ」
「はい。ですがその前に一つ、しておくべき事を思い出しまして」
「しておくべきこと? そんなのあったか?」
「はい。とても、ええ大変に重要なことで御座いますが、」
「が?」
「旦那様、やはりことは冷静に、そして慎重に行うべきとは思いませんか?」
「? ああ、そりゃ当然、そうだと思うけど……お前、それはいくらなんでも今更過ぎるだろ? そんな当たり前のことを聞いてきて、どうしたんだ?」
「ええ、ですので。――旦那様」
「……? 何だ、不思議と悪寒が」
「悪寒? それはまた失礼ですね」
「……テメェ、何を考えてる?」
「私は旦那様の御為になること以外は何も考えておりません」
「それはあくまで長期的で見た見解であって短期で見た場合俺の害になることは多々あると思うのだが何か反論は?」
「……」
「くっ、その笑顔が答えかッ!?」
「では旦那様、出陣の前にやはりその高ぶった気を一度最底辺まで納める必要があると、お申し出致します」
「……………………あぁ、――だが断るっ!!」
「……ふふ」
――システムエラー発生、システムエラー発生、コード『黒白』、強制開放されます。3・・・2・・・1・・・開放
「――ッッ!!??」
「――では。ただ今より“全力”で、旦那様を生け捕りに致します」
「ぃ―――――…………やあああああああああああああああああああああ!!!???」
「――その程度で逃げ切れるほど今の私は甘くありませんよ、旦那様?」
旦那様のやる気ゲージが急激にマイナスまで振り切れたので作戦は中止になりました。