ど-602.おたより
メイドさんへの割合、9
旦那様への割合、1
「はい、お便りを紹介いたします」
「……おたより?」
「『その懸命な姿に勇気付けられました。これからも頑張って(虐げ続けて)下さい-匿名希望』」
「……ちょっと待て」
「灰、如何なさいましたか旦那様?」
「今、ボソッと何か言わなかったか?」
「いえ、大層な意味のあることは何も。それよりも旦那様、お便りを下さった方に対して何か一言、御座いませんか?」
「特に――というよりもそもそもその“お便り”とやらは一体なんだ?」
「お便りはお便りで御座いますが何か疑問点がおありですか?」
「いや、疑問も何も、そもそもその便りってのはどこから届いてるんだよ?」
「それは匿名希望ですのでお答えいたしかねます」
「それは……俺からの要求でもか?」
「ただいまのお便りはアルカッタのフィン・マークス様からで御座います」
「フィン・マークス? はて、どこかで聞いた名だな?」
「旦那様、一応W.R.の末尾に名が御座います」
「……ああ、アレね、あの男。ああ、思い出した、お前にベタ惚れの阿呆ね、阿呆」
「困ったものです。私などのどこが良いのでしょうね? いえ、異性の方が私に惚れる要因があるとすれば私の存在全てにおいてなのは承知しておりますが、それでも敢えて申し上げますが私の何が良いのでしょうね?」
「なら俺も敢えて言おう。――奴らは騙されている」
「私は騙した覚えなど御座いませんが?」
「食虫植物っての、知ってるか?」
「はい、それは当然、存じ上げております。甘い蜜の香りで虫を誘い込み捕食する植物で御座いますね」
「そう、その食虫植物な。ずばり、まさにお前と同じだ」
「私は捕まえた後食べたりなどいたしません。精精が旦那様を貶めるための有用なコマになってもらうだけです」
「それで十分悪いんだよっ!」
「そうですか? ですがご心配には及びません。皆様、とても良い笑顔でご協力くださいますので」
「むしろそっちの方が心配なんだが!?」
「では後もつかえていますので次のお便りに参りたいと思います」
「いや、行かなくて良い。行かなくて良いから」
「『モゲロ - 匿名希望×100』」
「何を!? と言うより×100!?」
「次は……『爆発しろ - 匿名希望×100』」
「だから何で!? と言うかまた×100かよ!?」
「次、『結婚、」
「いやスルーするなよ!? と言うかさっきから×100とか、何それ!?」
「――とりあえずこちらのお便り(×1,000,000)は放棄、と。……それで旦那様、如何なさいましたか?」
「いや、だからモゲロとか萌えろとか、」
「誰もそのようなことは申し上げておりませんが。と言うよりも旦那様、まだ便りが詰まっておりますので続きを読み上げてもよろしいですか?」
「よくない。いや、そもそもの話がその“便り”ってのはどこからどうやって集まってきてるんだよ?」
「旦那様は人気者で御座いますね?」
「いや! さっきからろくな便りを聞いてないだが!? それのどこをどうとって人気者だと!?」
「全てにおいて人気者では御座いませんか。便りが来るのが何よりも証拠で御座いましょう?」
「……まあ、来ないよりはマシ? 戸か思わなくも無い、」
「ついでに呪いの手紙モドキが数枚と、小人族程度ならば軽く万度は殺し尽くせるほどの呪いの手紙(真正)が届いておりましたが、後日旦那様の枕元に持参いたしますので、夢の中でご覧くださいませ」
「いや、処分しろよ、処分。今すぐ」
「では、そうしておきます。ところで旦那様、呪いと言うものは一度使えばうせてしまうと言うのは当然ご存知ですよね?」
「ああ、知ってる。知ってる、が」
「では確かに処分を任されました」
「……ゃ、今の前振りは一体どんな意味が、」
「では、お便りの方は旦那様に不評でしたので、他の方に目に付かないように厳重に保管しておくことにいたします」
「いや、保管て」
「これでも旦那様宛てに贈られた品でございますから。破棄などと言う選択は私には御座いません」
「まあ、別に取っておいても何があるってわけでもないから良いんだけどな」
「はい」
「しかし旦那様も不思議なお方で御座いますね?」
「? 何が?」
「私ははじめの内に不評なお便りのほうを公開して、楽しみは跡に取っておいたほうがいいと判断したのですが、まさか後の楽しみを必要ないと仰れるなどと、」
「何それ、初耳ですが!?」
「では失礼いたします、旦那様」
「いや、ちょい待――」
待つ馬鹿なし(シャトゥ以外)