ど-601.愛と勇気と希望と
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メイドさんと旦那様。
「愛とっ、勇気とっ、希望っ!! ……ふっ」
「急に奇怪な叫び声を上げられて、何処に頭をぶつけてしまわれましたか、旦那様?」
「いや、ぶつけてないから。俺はいたって平静だ」
「それもその通りで御座いましたね。旦那様はいつも通りの素敵な旦那様に御座います。既に手遅れであることを承知でお尋ね致しますが頭は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、何も問題ないよ!?」
「左様で御座いますね」
「あ、ああ……」
「それで旦那様、愛と勇気と希望がどうかされたのですか?」
「あ? いや……今の俺にはどれもほど遠いモノばっかりだなぁ、て」
「全くで御座います」
「……いや、そこは少しは否定とか、『そんな事はありません』的な言葉を掛けて欲しかった訳だが」
「そんな打算的な言葉を私が申し上げると旦那様は盲信出来るのですか?」
「無理」
「……つまりはそういうことです」
「それもそうか」
「はい」
「なに。あのな、ちょっと色々なことも落ち着いてきたし、ここらで心機一転しようかな、と」
「ご苦労様でした」
「って、何で既に完結してるんだよ!?」
「言葉を省略せずに申し上げるならば、無駄な努力ご苦労様で御座いました、旦那様」
「いや、だからまだ始まっても無いよ!? つか無駄な努力とか言うな!」
「では、旦那様のその無駄に厚い労力に応じてお尋ねいたしますが、」
「おう、何でも聞いて来いやっ」
「心機一転と申されましたが、果たして旦那様はどのようなことをなさるおつもりなのですか?」
「ん~? そうだな、とりあえず深くは考えてなかったけど、まあ愛と勇気と希望に関する何か?」
「旦那様が何一つとして持ち合わせていな……“無償の愛”以外を持ち合わせていらっしゃらない旦那様がその三つの中の何をお求めになるおつもりで?」
「いや、持ってないわけじゃない。あくまで俺には縁遠い言葉であるだけであって、持ち合わせがないわけじゃ、ない」
「旦那様の勇気、それすなわち私のこと。旦那様の希望、それすなわち私のこと。ええ、分かります。旦那様は既に全てを持っておられる」
「いや、そういうこと違う」
「違うのですか?」
「ああ。……とりあえずお前に関するものは全部なしの方向で」
「旦那様といえば私、私といえば私というほどに切っても切り離せない関係であるというのに、旦那様から私を除いてしまえば何も残りません」
「残るよ!? つか言い切るなよ!!」
「つまりそれほどまでに私あっての旦那様、ということで御座います」
「いや、そ――」
「少なくとも。旦那様のお傍に私がいない、という事はありえません」
「……」
「旦那様あっての私、と言い換えても良いのですが、それでは少々勝手が異なりますし。故に、私あっての旦那様と、まことに僭越ながら申し上げさせていただきました」
「……ああ、そういうことなのね」
「はい。ということですので旦那様に勇気と希望は御座いません」
「あるよ!? つか縁遠いだけであって! いつの間にか持ってないとか言うことにしないでくれ!?」
「これは失礼をいたしました。未来永劫売り切れ状態で御座います、特に希望」
「世界に希望は無いのか!?」
「さあ? ……旦那様になけなしの勇気があれば、“キングオブへたれ”といわれない程度の甲斐性でもあれば、もしかすると違うかもしれませんが?」
「……何が言いたい? いや、何を言わせたい? つか、何のことだ」
「……さて。それは旦那様がお考えに、いえ、既に持ち合わせている答えでしたら考える必要も御座いませんか。心機一転、変わるのならば、と私はそちらを期待いたします、というだけの事で御座います」
「……」
「心機一転。――良い言葉では御座いませんか?」
「……まあ、何だ」
「はい、旦那様」
「明日から、はじめようと思う」
「――」
ぺらぺらとよくまわるくちだことっ