60.1. とまと
題名に意味など無いのだよ、意味など!
……ごめんなさい、思い付きです。
「……ねえ、アルーシア」
「……」
「私たちって、今自由よね?」
「……?」
「ほら、今ならレムの馬鹿もいないし、“隷属の烙印”とかこんなのあっても逃げられるんじゃないかな……て」
「……(じー)」
「それは不可能だとご忠告します、レアリア様」
「――っ、マレーヌ!?」
「……(じー)」
「はい、レアリアさん。主様から逃げるのは無意味であり無駄であり、無価値です。アルーシアも同様に」
「……なんでよ? 今、レムはここにいないわ。なら例えば、レムにもう会わないように逃げてれば大丈夫なんじゃないの?」
「……(じー)」
「お答えしましょう。主様に距離は無意味です。『私が解析できた』限りで言えば、主様の“隷属の烙印”から逃れるための手段はただ一つだけ。自身の力で烙印を破壊することだけでしょう。もっとも、自己修復能力すら備わっている“隷属の烙印”を壊せるものなど、この世界に五人といないでしょうが」
「――解析!? あの“隷属の烙印”を!!??」
「……(じー)」
「はい。苦労はそれなりにしましたが。主様の情報を切り売りして皆やお姉様から少しずつ情報を集めて、ようやくここまで辿り着きました。……とは言っても私が解析できた部分など、“隷属の烙印”のほんの一割程度でしかありませんが」
「一割でも十分すごいわよ!? 今まで誰一人として解析どころか手をつけることすら出来なかったもののはずよ!?」
「……(じー)」
「それほどでも……ありますが。ですからレアリア様、忠告します。主様に距離は意味を成しません。あのお方の奴隷は、時間空間問わずどこまで行こうと奴隷でしかありません」
「……そっ、そうだとしても。そもそも貴方の話を信じる根拠は? 何かあるの?」
「……(じー)」
「いいえ? そもそも私はレアリア様に信じてもらおうと思っていませんから。だから、信じる信じないはレアリア様のご判断でどうぞ」
「……」
「……(こくん)」
「では、レアリアさん。それとアルーシア。私はまたぶぅたれるだろうサリアを回収してから主様を追いますから。二人はどうします?」
「ど、どうって言われても私は……」
「……開錠、コード≪生ける屍≫≪赤の棺≫」
――認証……エラー、そのようなコードは認められません。再度コードを確認し、……リリース、≪炎原≫
「「……、ぇ?」」
「が・ま・ん・の・限界っ、キター!!!!」
「「……えぇ?」」
「もうなんですかっ、あなたやる気あるんですかっ、ないんでしょ、ないんですよね!?」
「「……」」
「もう見てられません黙ってられません! ――うるさいですっ、アルーシアは少し黙ってて!」
「「……」」
「私、まどろっこしいのは見るのは好きでもするのは大ッッ嫌いなんです、もうこうなったら力ずくしかありません無いったら無いです!」
「「……」」
「――“飛べ”。目標は当然っ、」
「「……ぇ?」」
――強制割り込み確認。エラー、エラー、その命令は認められませ……コード≪炎原≫、時空跳躍の許可が降りました、3,2,1、……ジャンプ
そして。
つい寸前までそこにいたはずの赤い少女の姿はその場から消えていた。
「……えっと、ねえ、マレーヌ?」
「……はい、何でしょうか、レアリアさん」
「私の見間違いじゃなければ、アレって確かにアルーシアよね?」
「はい、私もそう見えました。でも……」
「なに、アルーシアって実は二重人格か何かだったの?」
「知りません。ですが今の他はしかに二重人格といっても可笑しくはない……むしろそうとしか思えませんでしたが、」
「ところでアルーシア、どこに消えたのかしら?」
「それも知りません。……主様を追うのは断念します。私はこれからサリアを拾ってアルーシアを探しにいきます。レアリアさんはどうしますか?」
「私? 私は……そうね。さっきもそうだったけど、実は取り立てて次の用事が無いのよね。もう一度イチと話をしたいとは思ってるけど、今はたぶん時間おいたほうがいいだろうし……」
「そうですね。では、私と一緒に来ますか?」
「そうね、それも良いかもしれないわ」
「では。レアリアさん」
「何? というよりもその“さん”とか言うの、くすぐったいから止めてくれない?」
「癖ですから」
「あ、そうなの」
「はい」
「……ま、癖なら仕方ないのかしら?」
「はい。私としても無理に直す気は全く無いですから。……ではレアリアさん、行きましょうか」
「行きましょうかって、そういえばどこに行くか心当たりとかあるの?」
「……残念ながらしらみつぶしです。これが主様であるのならばひたすらトラブルのある方へ向かえば良いのでまだ楽なのですが」
「……そうね」
「はい。では、先ずは間違いなく立腹中のサリアを拾って、それからどこに行くのかを考えましょうか」
「……それしかないのね。はぁぁぁぁ、せっかくレムと離れて……いや、まあこれはこれで飽きないから嫌いじゃないのよ? 嫌いじゃないんだけどね?」
「レアリアさん、独り言は不気味なので止めた方がいいですよ? 癖ですか?」
「……行きましょうか」
「はい」
・・・なんだ、これ?