OP-30-せつめー
なむー
完全シリアスとか、そんな言葉辞書にないです。
「あー、まあ取り敢えず、だ。これだけは言っておくぞ」
「はい、旦那様。叱咤を頂戴いたします」
「……お前なぁ。そんな叱られるって分かっててヤった奴に俺がどうこう言うとか、明らかな蛇足じゃねえか」
「存じ上げております。ですがそれはあくまで私の方の事情で御座います。私としては旦那様のお口から叱咤のお言葉を頂戴しとう御座います」
「何だそれは、お前はアレか、マゾか、被虐的な性癖の持ち主ですか」
「私は旦那様から頂戴いただけるものであれば差別類別分別の一切を行いませんので、ある意味においては旦那様の仰られる通りかと」
「……」
「……旦那様はどうか、私に遠慮などなさらずに思いの丈をそのままぶつけて下さいますよう、お願い申しあげます」
「――そうだな、そうすることにする」
「はい」
「で、だ。お前どれだけ自分が馬鹿な事をしたのか……は、当然分かっているか」
「はい。刻印が邪魔でしたので刻印システムの基礎構成の九割方を破壊、そして【混沌と秩序】を用いて公君を排除しました」
「そうだ。刻印システムの方は……まあ、自動復旧も正常に働いてるからいいとして問題は【混沌と秩序】の方だ。――お前、死にたいのか」
「滅相も御座いません」
「ならあんなものは使うな」
「で、」
「ですが、は無しだ。仮にお前が【混沌と秩序】を使った方が良いって判断したとしても……もう少し俺を信じろ」
「旦那様の事は心より信じております。ですが、誠に勝手ながら“彼”をこの世界に留めておく事は害あれど一利なしと独断ながら判断致しました」
「まあ、それに対しては俺も全く同感なんだけどな。あんなのは正に『百害あって一利なし』の典型例だし」
「はい、旦那様」
「それでも【混沌と秩序】を使うのはやり過ぎだ」
「そうですね。一度くらいなら……と思っておりましたが正直侮り過ぎておりました。未だ身体が動きません」
「当り前だ、馬鹿」
「この私とした事が何という失態でしょうか。折角旦那様に抱き留めて頂いていると言うのに何一つ反応を返す事が出来ないどころか身体の感覚も不明瞭な不始末。未だかつてこれほどまでに自分の不甲斐無さを嘆いた事は、三度くらいしか御座いません」
「三度……微妙な数字だな」
「私は旦那様に対して嘘は申しませんので」
「と、言うか別に反応とか要らないから」
「成程。では旦那様は無抵抗の相手を押し倒す方がお好きなのですね。ええ、存じております」
「違うわっ!! つか、お前は一体何を『存じてる』んだよ」
「旦那様が無抵抗な私相手に嬲り者にするようなお方ではない……と、言う事(仮)にしておきます」
「いや、(仮)は余計だが?」
「残念ですがそれをはずす事はできません。旦那様に対して嘘をついてしまう事になってしまいますから」
「いや、それなら初めから本当の事言えよ、つか俺は無抵抗な相手を嬲り者にする趣味とか断じてないぞ?」
「……」
「そこで視線逸らされても!? 本当にそんな趣味ないからな!!」
「私の視覚が間違っていなければ旦那様の手は今どこに置かれているのでしょうか?」
「手? ……ふむ」
「旦那様に胸を揉まれているのにそれを感じられないなど何たる不覚でしょう!!」
「いや、揉んでないから。と言うかこれは事故だよ、事故。ワザとじゃぁ、ない」
「そう言いつつ旦那様がわたしの胸から手を離さないのは何故でしょう?」
「ふっ、それはこの胸の柔らかさが俺の手を離してくれないからだっ!!」
「そうですか」
「……あ、や。今のは冗談、だぞ? そんな真剣に受け取られても……」
「はい、そうですね」
「……信じてないな?」
「はい、そうですね」
「……冗談だ」
「では旦那様は何故未だに私の胸から手をお放しにならないので? それと私は別に旦那様ならば揉んで頂いても一向に構いませんが?」
「……………………遠慮する」
「はい、随分と長い逡巡ありがとう御座います、欲望に正直な旦那様」
「いや、――他意はない」
「はい、そうですね」
「……」
「……」
「あー、こほんっ。取り敢えず話は戻すぞっ」
「はい、そして結局手を退かさないのは流石旦那様で御座います」
「……つか、何か本当に張り付いてて離れないんだがこれは一体何の悪意だ?」
「いえ、旦那様を素直にするためのささやかなおまじない……そんな事よりも話を戻すのでしょう、旦那様?」
「そうだったな」
「はい」
「だから……えっと、何の話してたっけ?」
「私が【混沌と秩序】を使った事がいけない、とのことでした」
「ああ、そうだ、そうだった。いくらなんでもアレはやり過ぎだ。【第零位の創世主】の真似事とか、お前どんな馬鹿野郎だって話だぞ」
「過剰殺戮になる、とは分かっておりましたが……」
「あのなぁ? 【創世主】の……『想像を現実のものにする』とか、言葉にすれば夢みたいな能力だけどな、そんな奴らの寿命が短い理由は知ってるだろうが」
「想像が現実のものとなるために自己が世界に溶けて消える、ですか。つい先ほど身をもって体験しました」
「普通の【創造】――神が可能なレベルまでなら大したことは無いけどな、第零位の真似事まではやり過ぎだ。心配掛けるな、このバカ」
「今は反省しております。後悔はしておりません」
「後悔はってなぁ……つまりアレか、また使う機会があったりするとお前は躊躇うことなく使うだろうとか、そういうヤツか?」
「はい。それが旦那様の御為となるのであれば躊躇う必要は御座いません」
「……はぁぁぁぁ。なんだ、その、」
「承知致しました、旦那様」
「――止めろ、俺が許さない限りもう二度と使うな、命令だ……って俺が言う前に答えるなよ」
「旦那様が何を仰られるかなど見当がつかないはずがありません」
「あのなぁ……というか、今の即答したけどちゃんと分かってるのか? もう二度と【混沌と秩序】は使うなって事だぞ?」
「それが旦那様よりの御命令であるのならば私は何であろうと従いましょう?」
「……」
「その様に疑われも心配はいりません。本当に使いませんよ?」
「……」
「本当です」
「……分かった。取り敢えずはそういう事に、信じておいてやろう」
「ありがとうございます、旦那様」
「けど、まあ……だからと言って仕置きが無しとかは駄目だよなぁ? 【混沌と秩序】なんつーものを俺に断りなしに使いやがって」
「――」
「と、言う訳だからさっき言ってた“ぎゅ――」
「却下です」
「何でだよ!?」
「却下です」
「と、言うか俺まだ何も言ってなかったよ!?」
「却下です。それだけは例え何があろうと却下です、旦那様」
「ぐっ……いつになく聞きわけがないな、お前」
「はい、そうしないと私が消えてしまうかもしれません」
「それ、冗談になってないから。お前、チートクライの野郎を消した直後、一瞬本当に溶け掛かってたんだぞ?」
「――そうでしたか」
「ああ。だから滅多な事は言うな。良いな?」
「はい、旦那様」
「だか、」
「却下です」
「だから俺まだ何も言ってないよ!?」
「先程も申し上げたと思いますが、私が旦那様の仰る事を分からないとでも?」
「……普通、分からないだろと抵抗してみる」
「普通はそうでしょうが旦那様と私であるならばそれも可能で御座います。一方的に」
「一方的ってそれはただ単に俺の思考が駄々漏れってだけじゃないか!?」
「そうとしか言いません」
「だ、よなぁ……って、全然良くねえよ!? ナニ、それ!?」
「しかしながら申し上げますが旦那様」
「何だよ!!」
「そろそろ事後処理をしませんと――皆様方の我慢が限界に近いです」
「は? 限界、皆さ……、!!!!」
抱き合う――少なくとも外から見ればそう見える――二人の周り、そこに10対の視線があった。
「旦那様の独占はもう少しお預け、ですか。……旦那様ですから仕方ありませんね」
……補足説明をば少し。
【創世主】
『想像を現実に反映できるもの』の総称。
魔法、魔術を使う事もある意味『想像を現実に反映』であり、大体第八階位くらいの【創世主】。神様とか、世界を創るレベルは第四階位くらい。
基本的に第四階位以上のになると生まれた瞬間に世界に同化(想像=現実になって自己と世界の境界を認識できなくなる)してしまうので現存は無いとされていた。だから【創世主】の中でも第零階位は「ありえないだろ、それ」って感じの存在。無敵とも言う(ただし、個性が存在していれば)。
普通で、メイドさんは多分第四階位レベル。
ついでに言えば第三階位以上なら神とか、楽勝で屠れる。