OP-29-終演-
終わりなんて、いつだって呆気ないもの。
……でも今回は(特に)色々と訳わかんないことが入っているかもしれません。済みません。多分、作者の自己満足的なモノです。
「――チートクライ」
その声に、呆然と漆黒の月を見上げてていたチートクライがゆっくりと視線をくすんだ銀髪の女へと降ろしていく。
瞳には意思と知性の光、先程までのプリティ・リューンにしてやられた、呆けたような雰囲気はそこには一片もなかった。
「……正直、目が覚めて行く気分だ。この気分も中々どうして、心地が良い。感謝してやろうではないか、女」
「不要です」
「そうか」
「ええ」
「だが、あの漆黒の月は一体何だ? 破壊の象徴【厄災】でなければ生命の息吹【創造】でもない。アレはお前の仕業だろう、女」
「そうですね。ですが神ともあろう貴方がアレが何か分からないのですか?」
「想像はつく、だがアレは――」
「では立理の男神、あなたの求めるモノを見せて差し上げましょう?」
「……なに?」
くすんだ銀髪の女はスカートの端を摘まみ上げ、その場で見事な礼をした。
“微笑み”を浮かべ、手の甲を上に片手をチートクライへと差し出す――まるでダンスに誘いを掛けるように。
「これが私の旦那様が導いた、貴方が/お前が求める/求めた答えです」
「ふっ、俺の答え、か……」
「ええ。何か間違いがあれば遠慮なくどうぞ?」
「いいぞ、言ってみろ」
「そもそも使徒らは“彼”を、あるいは“彼ら”を模した存在。魔法とは何か? 魔術とは? それ即ち世界を書き換える法と術。そして神もまた然り。所詮は少し出来が良いだけの、貴方にとっては“同じ”出来そこないなのでしょう?」
「間違ってはいないな。それと良くそこまで辿り着いたと褒めてやろう」
「当然です。余り私の旦那様を舐めないで頂きたい」
「俺としてはその男を舐めた事は一度もないつもりだがな。最も今の姿を見ればその評価を変えるべきか否か、迷う所ではあるがな」
「これは旦那様の擬態です」
「とてもそうは見えん……が、今はそのような話ではないだろう?」
「それもそうですね。では話を元に戻すとしましょう」
「そうしろ」
「言われずとも。……――では? 神らが“彼”の作り損ないであるならば、私は“ナニ”でしょう? 世界が生み出した、世界を書き換える筆と世界を壊す槌……」
「【創造】と【破壊】、自分の事は分かっているようだな」
「ええ、当然。だから答えも私にある……では無駄な御高説ももう終わりにしましょう」
「それで? お前の言う俺の求める答えとは一体どれだ? 下らない事はしないでほしいものだがな?」
「ご期待には沿えましょう?」
「なら早く見せてもらおうか。時間はあるが時間の浪費は好きではないのでな」
「ええ。それでは、」
差し出していた手の平を上に向け、再び反転。親指だけが下へと向く。
「――混沌」
天に浮かんでいた漆黒の月が、堕ちた。
◇◆◇
漆黒の月の中、上も下も、右も左もない空間で。相も変わらずチートクライと女は互い、対峙していた。
チートクライは周囲を一瞥して、詰まらなそうに喉を一つだけ鳴らす。
「随分としゃれた事をするではないか。だがこの程度がお前とその男が出した答えだと? だとすれば俺の求めるものとは程遠いにも、」
「――公君」
声に遮られる。
「その暇有るなら、どうか見逃さぬ事を期待します/切望しなさい」
「なに、」
それが、最後。
彼女は一歩踏み込むのと同時に“腰からすらりとその沿った刀身を抜刀する”。
僅かに目を見開いた男の眼前。
鞘走りの音を響かせながら加速し、抜き放たれた鈍色の刀身は綺麗な円弧を描いて男の袈裟へと吸い込まれるように奔り抜け。
――砕け散った。
刀身の一欠片すらこの世に残らぬように粉々に。
彼女は流れるまま、振り切った――既に柄だけとなった――剣を再び鞘へと収め直した。
鞘に仕舞われたソレは現れた時と同様に、初めからそこに存在していなかったかのように消える。
――事の末路は、ただそれだけの本当に呆気ないもの。
◇◆◇
「……」
チートクライ――否、“元”チートクライに背を向けたまま、くすんだ銀髪の女の身体が傾き、
「おっ、と」
倒れそうになった身体を支える手。それを彼女は見ない。見る必要など初めからなかった。
「……やはりタヌキ寝入りでしたか、旦那様」
「や、マジで気絶してましたがそれが何か?」
「……ではそういう事にしておきましょう」
「ああ、そうしとけ」
「はい。では旦那様、“ぎゅっ”を300回でお願い致します」
「は?」
「“ぎゅっ”を400回でお願い致します」
「は、いや、“ぎゅっ”ってつまり抱き締めろ……って事だよな?」
「はい、“ぎゅっ”を500回でお願い致します」
「つかさっきから増えてるし!?」
「では旦那様、“ぎゅっ”を1,000回と言う事でよろしいですね? ……大判に乗りました」
「良くないよ!?」
「何故でしょう? “ぎゅっ”が2,000回ではまだ足りませんでしたか?」
「いや、足りる足りないの問題じゃなくてだな、つかまた増えてるしっ!!」
「仕方のない旦那様ですね。では“ぎゅっ”が5,000回に加えて“ちゅっ”と“ふ~っ”が共に10,000回ずつと言う事ならば如何ですか?」
「如何ですかってそもそも言ってる意味が分かりません!!」
「ちなみに“ぎゅっ”は旦那様から抱き締めて頂くことで“ちゅっ”は口づけをして頂くこと――当然、基本的に口以外カウントいたしませんが場合によっては私の幸福度に応じてカウントしたいと思います。そして“ふ~っ”は……ぽっ」
「いやいやいや!! 最後の最後で恥かしがる意味が分からないんですが!? てか結局“ふ~っ”て何だよ、“ふ~っ”て!!」
「やはり旦那様はそのような羞恥的なぷれいがお好きなのですね」
「いや、そもそも“ふ~っ”の意味が分かってないし!!」
「またまた。旦那様の好きモノにも困りはしませんがやはり恥ずかしいです」
「もう俺にどうしろと!?」
「“ぎゅっ”、“ちゅっ”、“ふ~っ”がが50,000回ずつに、その…………アレが一回でお願い致します」
「また増えてるし! つかアレって――……いや、待て俺。何かこれだけは聞いちゃダメな気がしてきたぞ?」
「ちなみにネズミ算式に増えていく予定です」
「悪徳商法!?」
「さあ、旦那様、ご決断を」
「決断ってか実質俺に選択肢ないんですが!?」
「さあ、旦那様」
「うー、あー……」
「そうですか、まだ足りないとその様に嬉しいこ、」
「分かった分かったよ!? それで了解だ、ああ俺も男だやってやろうじゃないか! やってやらぁ!! どうだこれで文句ねえかよ、あぁ!?」
「……――委細承知致します、私の旦那様」
「――くっ」
悔しそうに声を漏らして。
「……旦那様、それで誤魔化そうとしても駄目ですからね」
ぽん、ぽん、と軽く撫でるように頭に乗せられた手に――非常に、実に異常に――拗ねたような声を上げた彼女に。
彼としてはそんな他意はなく、単に癖の様なモノでしてしまっただけなのだがと自然とその顔には苦笑が浮かんでいた。
彼女にしても恐らく、ただ照れ隠しの様なモノ――
「分かってるよ。“ぎゅっ”、“ちゅっ”、“ふ~っ”がが60,000回ずつ、だろ?」
「はい――……あ、いえ、アレ一回が抜けています」
「それは勘弁して下さい!」
「……気地なし」
久し振りに、メイドさん全開。
ちなみに
“ふ~っ”は“ふ~っ”です。それ以外の何でもありません。