OP-25-激突-
・・・てか、何処に向かって爆走してるんだろうか、この話?
「――潰れろ≪Press≫」
レムが発した言葉と同時。言葉の『重さ』に世界の法則が歪み、書き換えられた。
チートクライの周囲の地面が陥没する。だがその中央で、本人は涼しげな顔をしたまま言葉を一つだけ……漏らす。
「【縛壊】」
――世界の理が塗り替わる。
重く圧し掛かっていたはずの大気はチートクライの一言で、自らの軽さを思い出し方の様に霧散した。
だがその勢いはただ霧散するだけではなく、衝撃波となって全方位へと放たれる。
『その時』にはレムは既に描き終えていた左右の魔法陣、それぞれに魔力を通し終えていた。
「砕け、切裂魔」
全方位に向かっていた衝撃波を残らず砕き、砕かれた衝撃の欠片とでも言うべき大気は再び雨となってチートクライの頭上へと降り注ぎ――それだけでは終わらず、更に空間を裂いて数多の斬撃がチートクライへと向かう。
同時にレム自身はその場から跳躍、“一歩”でその側面へと踏み込み――空間から抜刀した大剣を力任せに横薙ぎに振っていた。
「――ほぅ!」
前方、そして横手からの同時の斬撃、だがそれをチートクライは何なく避けてみせ、それどころか顔に薄らと怖気の走るような冷たい笑みすら浮かべて感嘆の言葉を吐き捨てる。
「本気と言うのはどうやら本当らしい。珍しいこともあるものだ」
「……珍しい? テメェが俺の何を知ってるつもりだ?」
「成程、確かにそれもその通りだ。俺はお前の何も知らない。“珍しい”など言えた道理もなしか」
「――その必要以上に知ったかぶってるその姿も気に障る」
「残念だがこれは俺の地だ。最早どうにもなりはしない」
「だったら親切な俺がテメェの存在ごと消し炭にしてやるよ」
「それは親切の押し売りと言うものだぞ? いや、そもそも親切ですらないのか」
「――知るかよ」
≪Garden――庭に花咲く大輪の≫
レムとチートクライ、二人を中心に紅に染まったラクリマの大輪の花々が咲き乱れる。ただし、その大きさだけは規格外。
優に二人の背丈の五倍はあろうかと言うラクリマが咲き乱れ――地中から急成長を見せた花弁に押し上げられた結果、二人の身体はそのまま空中へと投げ出された。
投げ出された空中で、レムは手にしていた大剣を頭上へと大きく掲げ、
「――≪Bis≫……潰えろ!!」
否。
それは既に“大剣”などではない。軽くその百倍以上は有る、圧倒的質量の“鉄の塊”を、チートクライに向けて振り下ろした。
「――駄目だな、その程度」
チートクライに当るかと思えたその“鉄の塊”は、嘆息と共にのばされた腕一本、たったそれだけで止められ支えられる。
そうして僅かに手に力を込めるような仕草をした瞬間、“鉄の塊”は原子レベルで粉々にされ……つまりは見た目で言えば消滅していた。
頭上を見上げレムの姿を探し――だが既にそこにレムはいない。
「んなこた、分かってるさ」
赤く燃えた腕、そして拳を握りしめたレムがチートクライの足元から滑り込んで来ていて、その姿は既に握った拳を放つ直前。
≪Burning――紅に染まれ≫
紅のアッパーは見事にチートクライの下あごを捕えて決まり――
「“それ”が駄目だと言っている」
「――ッッ!?」
アッパーを決めたはずのレムの“真後ろ”で、その男は悠然と佇んでいて、衣擦れの音もなく静かに、無防備にさらされたレムの背中へと手の平を当てた。
「これでチェックメイト――」
◇◆◇
「ブラスタァァァァアァ・シュート!!!」
チートクライが伸ばしていた手を引いた直後。
純白の魔力光がレムとチートクライ、二人の間を通過した。
「魔法少女、プリティ・リューン、此処に参上♪ ――双方、戦いを止めるっ!」
妙に鋭い――何処か聞き覚えがあるようなないような、声のした方へを二人は同時に振り返って、その姿を見て見事に動きを止めた。
主に真っ赤なふりふりの衣装と、妙に丈の短いスカート、ついでに無駄に大きなリボンと、何だかよく分からない杖っぽい何かを二人に向けて構えた【誰か】が空中からこちらを見つめていた。
「「――」」
「つか、」
「そもそも、」
「「……誰だ、お前?」」
二人の声は同時に発せられ、
「……? レム、何を言って、」
――かあさま、“まほうしょうじょ”のしょーたいはひみつなんです
「……??」
――にんしきそがいの“まほー”がはつどうちゅうです、かあさま
「……?」
――つまりかあさまはいま、まほうしょうじょだということです
「……!!」
――さあ、かあさま、いまこそキメゼリフのときです
「……(こくん)」
アル……いや? 『魔法少女プリティ・リューン』は誰にともなくこくりと頷いて。
脳裏に浮かんだ想いのまま、言葉を発した。
「――絶対素敵、正義の味方、魔法少女プリティ・リューン! 悪い子たちにはお仕置きですっ♪」
当然、何だかよく分からない振りつけ込みで。
「「……」」
「かっ……――恰好良いッ!!??」
約一名、紅い幼女以外のテンションが限界値まで下がった。
え、シリアスって美味いんですか? ……みたいな展開になって来た。何故?
後悔はおおいにしているかもしれませんが、何でこうなったんだろ、的な不思議間の方が強いです。
ふしぎなことも、あるもんだー