OP-19-兄妹
今回は、兄妹談議……?
「……何で、お前が此処にいる? いや、そもそも僕は――」
驚いたかのように目の前のアルーシアを凝視するステイルサイトは、若干混乱しているかのように頭を軽く左右に振り――それから何かに思い当たったかのように、全てを嘲るような自虐的な笑みを浮かべた。
「……ああ、そうか。そういうことか」
「……」
「ふっ、でも今更――まさかお前が僕を出迎えてくれるなんてね。いや、それともここは当然と言うべきなのかな?」
「……うん。わたし以外の誰がお兄ちゃんを出迎えるっていうの?」
「――酷い皮肉もあったものだ」
「そ……だね」
「それで? ここは地獄か何か? いや、それだとお前がいる理由が分からないが……だとすると天国? 僕はそんな高尚な場所に行けるとは思ってなかったんだけど?」
「あ、お兄ちゃん、それは――」
「それに僕はいつ死んだんだ? 確か“彼女”から逃げ出して――……ちっ、それから後の記憶がどうも曖昧だな。何があった?」
「あ、ううん。お兄ちゃんは死んでないよ?」
「……なんだ、そうなのか?」
「うん」
「――ならこれは僕の夢か何かか」
「あ、ゃ、それも違、」
「でもまさかお前が僕の夢に出てくるなんて、性質の悪い悪夢か何かだよ。どうせ出してくれるのなら“彼女”にしてくれればいいモノを……」
「ぶぅ! それは実の妹に対して酷い仕打ちじゃないかな?」
「酷い? お前を殺した僕に、それ以上の酷い仕打ちなんてあるのか?」
「んー? すぐに思い当たるのは……レムに何かひどい事をしちゃう、とかかな?」
「――ハッ、そうだな。お前はいつもレム、レム、レムと。あんな男の何処が良いのか」
「……そういうお兄ちゃんの方こそ、灰色の事ばっかりじゃない」
「あっしゅ……?」
「あ、うん。シロちゃんクロちゃん――違った。えと、“お姉ちゃん”の事だよ」
「――ああ、“彼女”か。だとすればそれは愚問だな。“彼女”に心奪われない男などこの世界に存在するはずがない」
「……例えばレムとか」
「あの愚物は例外」
「んー、そうだね。わたしとしてもその方が嬉しいし、そっちで良いかな?」
「それで、この悪夢は一体いつになったら覚めるんだ? それに何だ、自分が殺した妹の夢を見るなんてどんな拷問なんだか」
「ここでお兄ちゃんに一大発表があります!」
「一大発表? ――まさかこれが夢じゃないとでもいう気か?」
「うん」
「……――それこそ悪い冗談か、あるいは夢だな。なら今僕の目の前にいるお前はなんだ。夢か幻じゃなければ、ゾンビか? それと幽霊か?」
「ゾンビとか幽霊はリョーンさんであってわたしじゃないよ?」
「リョーン? 誰だ、それは」
「あ、ううん。違った。じゃ、なくて。……お兄ちゃんにはこう言えばいいのかな? 何と! 黄泉の国から蘇ってきましたー」
「……そういうことか」
「うん、そういうことだよ」
「別人か。それにしても悪趣味な真似をする。まるで性格がレムの様な輩だな、お前は」
「え、そかな? そんなことないと思うけど? え、えへへっ♪」
「――」
「? お兄ちゃん? どうかしたの?」
「今の反応、まさかお前本当にアルーシ……いや、それこそまさかなはずだ。アルーシアは、妹はあの時僕が確かに、」
「うん、わたしは一度お兄ちゃんに殺されたよ?」
「そうだ。僕は確かにアルーシアを殺した。妹を、たった一人の肉親をこの手で殺したんだ――“彼女”の為に」
「――それは違うよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはアッシュの為じゃなくて。自分の為にわたしを殺したの」
「違う。僕は、」
「違わない。お兄ちゃんはお兄ちゃんの為だけにわたしを殺した。それは絶対、違わない」
「……なら、一度は死んだって言うお前は何のために僕の前に現れた? やっぱり僕を殺すため?」
「それは違うよ。わたしがここにいるのはお兄ちゃんを止めたかったから。今だけはレムやアッシュは関係なくて――ただそれだけ」
「その止めるために僕を殺すんだろう?」
「殺さない。わたしはお兄ちゃんを殺さないよ」
「口ではどうとでも言える」
「……お兄ちゃんはどうしたらわたしの言う事を信じてくれるの?」
「僕はお前をもう一度殺せば――それが僕がお前に殺されない何よりの証明になる」
「それはダメ。この身体だってわたし一人のじゃないんだし」
「安心していろ。例えコレが夢であろうとなかろうと、あの時と同じよう――今度も痛みも感じさせずに殺してやるから」
「……」
「そして僕を安心させてくれ――アルーシア」
僅かに緋色の光に輝く右手を大きく後ろに引いて、ステイルサイトはそのまま――硬直した。
「――そういうの。殺すとか殺さないとか、そんな事はもう止めにしよう、お兄ちゃん」
『こんなバカな実験はもう終わりにしましょう、男神チートクライ』
アルーシアの声に重なって別人の声が響き渡る。
それは決して世界を伝わる振動ではなく、けれど確かに世界へと伝わる想いの一種。
アルーシアの瞳だけが僅かに紅い輝きを放ち――
「は、はは。なんだそれは。アルーシア、お前、いつの間にそんな……」
硬直したまま、ステイルサイトの乾いた笑い声も虚しく響き渡るだけ。ただ見上げ、ただ佇んでいるだけのアルーシアに対して気圧されていた。
「今のわたしなら何だって出来ちゃう気がしてるから」
『何より――女神様に手を出した、その報いです』
「大丈夫。わたしを信じて、」
『観念してもう一度世界に還ってやり直して下さい、』
「『お兄ちゃん』」
最近時間が取れない。小説書く時間とか、考える時間とか。更新が遅れ気味だなぁ。
スランプっぽい事とか、テンションが現状結構低い事とか、世界に病んでる事とか、・・・うん、思いつくだけで結構原因が色々とありそうです。
はにゃふ