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OP-18-アルーシア-

・・・え、レムの活躍? そんなの存在する訳ないじゃないっすか。

メイドさんは……まあその内。オイシイ所で現れるさ、きっと。


「……ん?」




視線に気づく。


いや、今の今までその姿に気づかなかった事に僅かに驚きを覚えながら、チートクライは彼女を見下ろした。




「……(じー)」


「――燎原か」


「……痛そう」


「痛い? あぁ、これか」




キスケの胸に突き刺した刀を抜き取る――と同時にその刀身は消失して、キスケの身体からは勢いよく血が噴き出た。


既に意識を、あるいは命を失っているのか血を噴き出しながらその身体は力なく地面へと倒れ込む。




「――気にするな。ただの使用済み実験動物だ」


「……!」


「そんな事よりも」




改めてアルーシアに向き直ったチートクライの瞳はヒトを見る温かさを一切含んでいなかった。そこに在るのは実験対象モルモットを眺める、冷たさすら含んでいないガラスの瞳。


ただ観察されている、と言う事実が寒気を感じさせることすらも通り越す。身動ぎ一つ、呼吸一つ瞬き一つすらもしたくない、見せたくないと本能的に思わせる――悪い冗談の様な、視線だけによる拘束。




「一応ようこそ、と言っておこうか」


「……(じっ)」


「しかし驚きだぞ? 何故、どうやって完全に消滅したはずのお前がこうしてここに存在しているのか。実に興味深い」


「……(じっ)」


「死と言う体験はしたが、流石の俺も消滅と言う体験はした事がなくてな。良ければ自分が消えると言うのはどのような気持ちだったのか聞かせてもらえないか、燎原」


「……(じっ)」


「語る言葉は無し、か。それとも語れる言葉を持ち合わせていないだけか?」


「……(じっ)」


「――ふむ、どうやらいつもながらあまり歓迎されていないようだな」


「……(こくん)」


「まぁ実験対象モルモットの気分など今更どうでも良くはあるな。消滅の体験談は、それなりに興味があったのだが。そこまで聞きたい程でもない」


「……(じっ)」


「俺とはあまり語る事もない、か。なら手っ取り早く、実験ようけんに移るとするか」


「……(じっ)」


「では早速だが――俺にその力を見せてみろ。虚無の果てから舞い戻って来たお前の力はどうなっている? 以前のまま? それとも弱体化? 或いは強化? 新たな可能性の芽生えは? 何でも良い、俺の好奇心を満たして見せろ、燎原」


「……」




無造作に歩み寄り、その手をアルーシアへと向ける。


淡く翡翠の輝きを見せる右手をアルーシアの眼前にかざして、その輝きは次第に、そして勿体ぶる様に刻々と力強さを増していく。




アルーシアは身動ぎ一つしない。ただじっと、チートクライの瞳の奥を、ほとんど感情の籠っていない紅い瞳で見つめているだけだった。


その様子に僅かに落胆し、チートクライは小さく息を吐き捨てる。




「座して死を待つ、と言うのならば詰まらなくはあるが仕方ない」


「……」


「――残念だ」




翡翠の輝きがまばゆい程の光を放ち、それが臨界に達する――ほんの僅かな直前。


ここに来て初めてアルーシアが動きを見せた。翡翠に輝き染まるチートクライの腕を、そのか細い両腕でつかみ取っていた。




「む、」




だがその力はチートクライの手を振い払える程の力がある訳ではなく。本当に添えられた、とその程度のもの。


それ故にチートクライは無造作に上げられた腕を何の抵抗もなく受け入れた、のだが。




真っ直ぐと。


――紅い瞳がチートクライの翡翠の瞳の中を覗き込んでいた。




「――取り敢えず、コレは返して貰います」


「ッッ!!」




チートクライの身体が崩れる。


はち切れんばかりだった翡翠の輝きはその力強さを失って、その代わりとばかりにアルーシアの身体が紅く輝きを放つ。




一瞬、瞬きをする間もない間での、攻防の逆転。




「――チィ」




アルーシアを突き飛ばすような勢いでチートクライが後ろへと飛びずさる。


僅かによろめいた身体を、アルーシアは何とかと言った感じで踏ん張って、――だがそれだけ。




お互いに距離を離して、チートクライはアルーシアの事を“楽しそうに”睨みつける。


対してアルーシアは、自分の身体を不思議そうに見下ろしていた。




「この身に在ったのは燎原、お前のモノだと言う事を忘れていたな」


「……わたし――」


「大半の力がお前の元に還った――……いや?」


「……?」


「面白い事が起きているな。自分の“ちから”を取り戻しただけでなく、逆に俺の“ちから”の一部までも奪い取ったか――」


「……」


「面白い、実に面白いぞ、燎原。本来、明らかなイレギュラーではあるが、だからこそ俺はこの事態に感謝しよう、歓喜しよう」


「……」


「次はどのような事を見せてくれるのか、実に楽しみだ」




くくっ、とアルーシアを睨みつけながら、心の底から楽しそうに笑みを漏らすチートクライを前に。


彼の様子に気づくことなく、アルーシアは自分の両手を目の前で閉じては開いてを繰り返し、小さく言葉を漏らした。




「……動く、アルーシアの身体。痛くもない、ううん? 世界からの拒絶が――消えてる?」


「――世界からの拒絶? それはどう言うことだ、詳しく聞かせろ」




アルーシアの独り言を目ざとく聞き留めたチートクライが聞き返すが、アルーシアはまるでその言葉が聞こえんていないかのように、反応せず。




「――――……そっか、リーゼロッテさんの言ってたアレ、成功したんだ」


「記外? おい、燎原。お前ばかりで納得しているのは卑怯なのではないのか。話――」




それ以上、チートクライの言葉は続かない。






≪――わたしは世界、そして世界はわたし≫






祝詞が響く、世界に響き渡る。


世界が赤く染まった訳ではない。コレはそんな些細なことではなく。『最強』が『最強』足り得る所以の発現。


少女の言葉が世界に堕ちて、世界が祝福の祈りを捧げる、それはある種の誓いの言葉。




「――」




チートクライは動きを、瞬きすらするのを止めていた。




目の前に佇むただ一人の少女の、アルーシアの表情が初めて変わり、悲しげに歪む。


口から出る吐息は世界を押し潰し、時空間さえも支配下に置き捨てる。




祈りと、切望と、苦悩に満ちた少女アルーシアが紡ぎ出した言葉は、




「……ねえ、もう止めようよ、“お兄ちゃん”」


「――……なに?」




その瞬間、世界がひび割れて。


少女の祈りは少女の願いとなり。少女の願いは世界の言葉となる。世界の言葉は事象の発露と成って。


故に少女アルーシアは世界となって。世界は少女アルーシアに平伏し従う。







◇◆◇






今の今まで翡翠の髪と瞳のチートクライが立っていたその場所に、全く同じ容姿で紅蓮の髪と瞳の男――ステイルサイトが驚愕に大きく目を見開いて、立ち尽くしていた。





…何か最近世界に絶望した。





いや、例の地震のと関係性は一切ないんですが。


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