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OP-17

キスケ……弱っ


まあ、神様相手には役不足な彼です。


「――ま、ごちゃごちゃ考えるのも面倒だ。取り敢えずここでテメェを潰しときゃ、良いんだろ?」


「そうだな。全ての元凶が俺であればな」


「じゃ、遠慮なく」




一切の躊躇いなく。キスケは構えていた刀をそのまま足元のチートクライへと振り下ろした。


――結果、未だ動く事もままならないチートクライは無防備のまま、その刃を身に受ける事になる。




「……ぐっ」


「ま、俺は誰かさんみたいに遊ぶ性分は持ち合わせていないんでな」




キスケを中心にして、漆黒やくさいが溢れだした。


漆黒やくさいは世界の敵であり、害悪。だが同時にソレは、光があればそこに影がある様に、世界を侵す毒にして世界を癒す薬でもある。


世界に対し害をなし、世界に対する害に仇を成す諸刃の刃……それが真実。


最も真実ソレを識る『ヒト』はこの世界にはただの一人も存在しないが――。




「一気に――逝けよ」




キスケの身体から湧き出でた漆黒やくさい、その全てが手にした刀に集中して、刃を通しチートクライへと流れ込む。




「……【厄災】の力か。成程、コレは確かに」




苦悶の表情を浮かべながらもチートクライの発する声に淀みは無く、むしろ心無し楽しげにすら聞こえていた。




「あ?」


「世界へ犯す毒。実に見事な秩序システムだ、素直に称賛を贈ろう、女神シャトゥルヌーメ」


「テメェ、何言って――」


「だが同時に強い力は扱い方を間違えれば諸刃となって己へ返る事になる。分かっているだろう、シャトゥルヌーメ」


「ッッ!!」




キスケの身体から溢れ出でていた漆黒やくさい、それが一瞬でチートクライの身体の中へと吸い込まれ、消えた。


漆黒だったはずのキスケの髪と瞳はいつの間にか鮮やかな空色に変わっていた。と同時、その身体からはもう漆黒やくさいが溢れ出る事は無く、僅かにただ沈黙だけが周りを支配している。


代わりに、先程まで紅蓮だったはずのチートクライの髪と瞳の色がいつの間にか澄んだ翡翠色へと変わっていた。身体に――胸の中央に突き刺さっていたはずの刃は朽ち果てるよう、砂となって消えていく。




「そして此処に【厄災】は【世界】を破る鍵となる、と言う訳か」


「な、」


「邪魔だ、≪退け≫」


「――!?」




発した一声、それだけで呆気なくキスケの身体が吹き飛んでいく。


それはすぐ向かいにあった武器屋の店内に突っ込んで止まったが、不運な偶然か或いは狙った必然かタダで済みはしなかった。


恐らく店に並べてあったであろう剣が足、腹、腕と、複数個所に渡りキスケの身体に突き刺さっていた。中でも一目見て拙いと分かるのが、腹部から突き出ている刃――致命傷に近い傷であるのは間違いない。




「――ふむ、概ね想定した通りの結果と言ったところか。役所やくどころが少々変わってしまったが、まあそれは良しとしよう」


「ぐ、がはぁ、……ごほっ、っ、っっ……」


「ああ、キスケと言ったな、そこの妖精。一応礼は言っておこうか。――大義であった」


「な、ぐっ――テメ、」


「世界の楔を破壊するには至らなかったが、今は神としての力が戻っただけで良いか。余りに順調過ぎればそれはそれで詰まらないからな」


「な、何を、」


「ああ、そうだな。では、お前は安らかに眠ると良い。用の済んだ実験動物モルモットに場を乱されるのも多少不快ではあるしな」


「――は……」


「では、安らかに眠れ、鬼人」


「…………あ?」




二人の間に開いていはずの距離は今は無く。


キスケは自分の胸に突き刺された、つい先ほどまで自分の獲物だったはずの刀を見下ろした。




「ようやく一人。……さて。これであの男がどんな反応を示すか、興味深くあるな」


「ざけ……んな…………ょ……」




苦々しい表情を浮かべて―そのままキスケの意識は暗転する。






◇◆◇




――一方で。




「……随分とまぁ、懐かしい所に招待してくれたもんだな、あのヤロウも」




世界のどこでもありどこでもない場所。何もない空間が永遠とも言える広さで広がっているだけの場所。


神の牢獄であり、かつての一柱の墓標とされている聖地。そこに“彼”は居た。




「つっても? のんびりとしてる時間もないか――」




“彼”の赤い瞳が光を放ち、何処からともなく――どちらかと言えばこの空間全体からまるで何かが壊れるような音が全体に響き渡り、それが臨界に達しようかと言う、その寸前。




「少し時間はとれますか?」


「――あン?」




“彼”の瞳から赤の輝きが止み、それと同時に空間全体に響いていた音もまた聞こえなくなる。




一度周囲を見渡した“彼”は、何もない空間、その一点に視線を止めた。




「――リーゼロッテ」


「はい、レム」




そこに、緑色の髪と瞳の、緑の妖精が浮かび上がる。


僅かに浮いていた足を真っ白な地面に下ろして、見よう見まねの様なお辞儀を一つ。




「何で……ああ、成程。ここは世界の“外”、つまり【記外】の管轄――いや、『領域』ってわけか」


「話が早くて助かります」


「まぁ、それはあくまでリーゼロッテ、お前が此処に来れる理由であって、此処にいる理由にはならないんだけどな?」


「そうですね」


「――んで? テメェはあの根暗チートクライと繋がりは無い、とかほざいてなかったか? 返答次第じゃ、オシオキするぞ」


「まあ、『オシオキ』? 怖いですね」


「俺は、別にふざけてるわけじゃないぞ」


「はい、分かってますよ。私も自分の貞操がそれなりには惜しいですから。……まあ貴方なら別に、とも思いますが?」


「……つか何でテメェらはどいつもこいつもそういう話に持って行きたがるんだ?」


「? ヒトとは本来そういうモノでしょう。その行為、つまり繁殖行動自体におかしなことは何もないと思いますが?」


「……まァ、そりゃそうなンだが、」


「でも今は私にオシオキをする間も惜しいんでしょうね、レム?」


「……――回りくどいのは無しだ。リーゼロッテ、何処まで把握している?」


「状況は一通りと言うところでしょうか。同志ラライと点睛スヘミアは冥了とほぼ同士討ち――ああ、どちらもちゃんと生きていますから安心して下さいね」


「……あぁ、それで?」


「冰頂スィリィは我が主に力の大半を吸い取られて瀕死状態――このまま放っておけば確実に死にますが、まあレムが助けるのでしょう?」


「――当然だ」


「透怒ミズは、少し邪魔だったので退場願ってます。ああ、まあ今のレムと同じような状況ですので安心して下さいね?」


「……随分と詳しいな」


「我が主の傍にいるからにはこの程度は出来なくては話になりません。もっとも【点睛】は狂言に忙しいですし、【冥了】は何も考えない単なる盲目――【十色】はそもそも関心がないでしょうから、今の私だからこそ、と言うところでしょうかね?」


「……で? つまりお前は何かを企んでるって言いたいのか?」


「はい、少しだけ」


「――だからあのアルーシアへのベタツキ加減っつーわけだ」


「そうかもです」


「元人形にしちゃぁ、良い演技だったんじゃないか?」


「それは素直に賛美と受け取っておきますね。ありがとうございます」


「勝手にしろ」


「最後に、恐らく一番気になっているだろうアルちゃん――【燎原】ですが、彼女は少し細工を施して、我が主の前に置いてきました」


「――」




空間に、崩壊の音が響き渡る。先程までのものとは違う、圧倒的なまでの力で以ての一瞬の破壊。ソレは呼吸一つの間に、神すらも軟禁出来うるはずのこの空間を破壊しつくしてなお余りある――




「って、ちょっと落ち着いて下さい、待って下さい、アルちゃんは大丈夫ですから!」


「……理由を言え」


「それは見てのお楽しみと言う事で。……成功するかどうかも分かりませんし」


「――そうか」




三度、空間に破壊音が響き渡り――




「ストップ! だからストップです、レム!!」


「……俺の邪魔をするって言うのなら今、この場で黙らせるが?」


「それは勘弁です」


「なら俺の邪魔をするな」


「まあまあ」


「――本当に何を企んでいる、リーゼロッテ」


「……簡単な事なんです。“知りたい”んですよ」


「は? 何をだ?」


「貴方の事、そして記外わたしの意味を、知りたいんです」


「……それはどう言う意味だ」


「【記外】――この世界の“外”の管理者にして、この世界の傍観者、それが記外わたしです。知ってますよね?」


「ああ、ま、一応はな」


「では私とは一体何なんでしょうね? 既に神の使徒ではなく、ただの妖精族とも言い難い――なら今の私は何者なのか、とふと思ったんですよ。だから、それを確かめようと思いました」


「……続きを」


「はい。確かめる手段は簡単です。使徒にんぎょうとしての私と妖精族リーゼロッテとしての私、両方の私を確かめれば、何か分かるかもしれない、そう思いました」


「……で、答えは出たのか?」


「――正直、困りました。少なくとも使徒として我が主に仕える事は無いでしょうし、妖精族として森の中に籠るのも私の性に合いませんでした」


「つまりは根暗ヤツの味方ではないと?」


「そうですね。少しだけお手伝いしましたし、今後も手伝う事もあるかもしれませんが、まあ習性みたいなものですしね。他意は無いです」


「――で、今は誰の味方だ?」


「誰の、と言えば今は我が主の味方ですかね? 一応、まだ実験の最中ですから」


「――なら俺の敵って訳だ」


「私を消しますか?」


「俺の邪魔をして、必要とあらば」


「……流石。迷いが一切ないですね、レム」


「必要があれば、だ。無駄な事はしない」


「――ですね」


「……それで俺に話したいのはそれだけか、リーゼロッテ」


「ああ、一応コレは貴方をこの空間に足止めするための理湯もあるんですけどね?」


「――」


「それとは別に確認したい事もありまして……だからその殺気を止めてもらえません? 私も“その気”になりそうですから」


「……ふぅぅぅ。んで、その確認ってのはなんだ?」






「――アルちゃんにした仕掛け。本来なら、貴方さえいなければ我が主に神殺しの使徒『最強』として選ばれた憐れな生贄だったはずの、使徒【燎原】の完全復活。私は彼女を見てみたいです」





むー?

やっぱりレム君とか、話が書きやすい。あと、メイドさん。



めいどさ~ん!!!

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