OP-15-ミズ-
ミズ=使徒の透怒さん。二重音声なお方です。
「……ここ、どこ?」
『はぁ、またですか。全くあの男……さては手を抜いたな? 次会ったら絶対、刻む』
少女、ミズ≠透怒は“いつも通り”気が付くと知らない場所にいた。
と、彼女を見つめる一対の視線を感じてそちらを振りかえると、そこには見覚えのある赤い少女がじっとこちらを見つめていた。
「……(じー)」
「――って、あれ? ……もしかしてアルーシアちゃん?」
『燎原ですか。こんにちは』
「……(こくん)」
「あ、あのあの、アルーシアちゃん? ここ、何処かな? お屋敷……じゃないよね?」
『――燎原? もしかして私を呼んだのは貴女ですか?』
「……(ふるふる)」
「ア、アルーシアちゃんもここが何処か分からないの?」
『違う? ――ならばやはりあの男の不手際ですか。……刻み殺す』
「……(じー)」
「え、えっと、アルーシアちゃん?」
『……何ですか、燎原。私に何か?』
「……」
すっ――と赤い少女、アルーシアの手がミズへと伸ばされる。
そしてミズの丁度、胸の中央辺りの所で『何か』を掴んだ。
「――ぇ?」
『燎原、何を――』
発せられた驚きと一緒にミズの視線がその一点に集まる。
アルーシアの小さな手の平の中に収まっていたソレは今まさにミズの胸を貫こうとしていた刃だった。
刃がきらっ、と鈍い光沢を放つが、一見してちょっと刃の端を摘まんだだけに見えるのに反して、その刃がそれ以上先に進む事は無い。
数呼吸遅れて、我に返ったミズが大きく仰け反って後退る。
「な、なんですか、コレ……!?」
『ッ――冥了!?』
刃から、その先の柄が。柄から先の手が。手から先の、緑髪緑眼の翡翠の少女――冥了のがその場に形成される。
「――透怒如き片手まで事足りると思ったが、甘かったか」
「ななな、なんですか!? 貴女いったいなんですかっ!?」
『……冥了、貴様、どう言うつもりだ?』
「どう言う? その身体と力を我が主に捧げるために貴女を始末しにきただけだが?」
「し、始末ぅぅ!? な、なんで、何が急にそんな!? え、コレって何の急展開ですかっ!?」
『始末? 随分と弱っているように見受けますが――私も随分と舐められたものですね?』
「なに。記外の力が少々想定外だったが、お前程度ならば今の私でも十分事足りるだろう」
「キガイ? え、何の事ですか!? と言うよりまた私の良く分からない所で事態が進んでるっぽい!?」
『――良いでしょう。あの男の前の肩慣らし程度に相手になりましょうか。ミズ、どうせ聞こえていないとは思いますがまた少し身体を借りますよ?』
「肩慣らしか。私の方こそ舐められたものだな? 半端モノの分際が」
「肩慣らし、え、そんなこと私言ってな――って何か身体が勝手に!?」
『半端は貴女の方こそでしょう、冥了? 一度世界に帰して、いい加減に全てを還れ』
ミズの、透怒の指先が僅かに揺らめいて――世界が四十六分割に、裂かれた。
『――四十六閃。初めからノンストップでいきますよ?』
透怒の言葉に対して冥了は笑う。四十六の切れはしになった状態、そのままで無表情の中で冥了は透怒を嗤っていた。
「ああ、来ると良い。灼眼の時と同じ、斬り分かれたからとしてどうという事は無い。そして灼眼の様な奥の手もお前にはない。それで、どうやって冥了を倒すと言う気だ、透怒」
『灼眼の様な邪法は私には必要ない。それに空間を断ってもダメなら、いっそ空間ごとを削り取ればいい。それだけじゃないですか』
「その暇を私が与えるとでも思うか?」
『ならその隙を作るまで。ええ、なに、偶にはこう言う使徒同士での潰し合いも楽しいものではないですか――!』
「私ばかりが連戦では分が悪いと思うがな?」
『それは私の知った事じゃない。疲れ果てていたのは冥了、貴女の責任よ』
「違いない。だが、力の相性から言っても、お前相手ではこの心元ない欠片だけでも十分事足りるが」
『それを言葉で語る必要はない。全部、すぐに結果が教えてくれる……』
「その通りだ」
約一名の――張本人を完全完璧に置き去りにしたまま二人の死闘が始ま、
「はーい、そこまで。終了、いやむしろ目障りだから二人とも此処から消えて下さい」
直前。
手の平を打つ音とのんきな声が二人の間に響き渡って――世界が緑に染まった。
『……誰だ?』
「期外、きさ――」
「あ、まだ“取残し”があったんだ。じゃ、これで二度目だけれど――冥了、少し黙ってなさい」
たった一言で、冥了の姿はその場から消えた。代わりにころん、と今の今まで冥了が居た場所に、翡翠色の玉が転がる。
『期外――? 貴女、期外って……』
「あ、もしかして透怒ですか? お久しぶりです」
『あ、ああ。確かに久しぶり……と言うより、貴女、本当にあの【期外】?』
「厳密に言えばその生まれ変わり、でしょうか? まあ気軽にリーゼロッテと呼んで下さい。ええと、そういう貴女の名前は?」
『私 (の身体)の事ならミズと呼ぶと良い。それがこの娘の名前だ』
「そうですか。ミズさん、始めまして。そして邪魔なのでさようなら」
『――は、?』
透怒の姿が冥了の時と同様、消えた。ただ冥了の時と違いその場に翡翠色の玉が転がっている、と言う事は無く。全く、何一つその影を残さずに透怒≒ミズの姿はその場所から消えていた。
そうして。
緑の世界の中、そこに残ったのは緑の妖精、期外と。
「もうっ、ようやく見つけました、アルちゃん! ……腐腐腐腐腐腐腐腐腐、これで邪魔者は誰もいない。――じゅるりっ」
首を傾げて、妖しい瞳の輝きを放つリーゼロッテを見返すアルーシアだけ。
「……?」
「あ、アルちゃん。一応聞いておきますけど、何処かけがとかしてません? してませんよね!?」
「……(こくん)」
「そうですよねー。一応アルちゃんの事は冥了に“認識できなく”しておいたので、大丈夫だとは思っていましたけど。――まあ、大丈夫じゃなかったら冥了には残念な目にあってもらいますけど、ね!」
「……(ふるふる)」
「――ッ、さあ、アルちゃん、今こそッ!!」
あるーしあは、にげだした。
「え、何で逃げるの、アルちゃん!?」
当然だ。
・・・あれ?
なんでリーゼロッテが暴走しているのだろう?
つか、冥了は? 透怒はどうなった!?
……ま、いっか。暴走したけりゃすればいいさっ! もう気にしないでおこう、うん。