OP-12
スィリィ嬢……弱っ
「――ぶっっっとばすっ!!」
切れ込みが入っていた蒼の世界、それがその一声で再び蒼に染まりきる。
地面から発生した氷柱が男目掛けて無尽蔵に湧き上がり、だがそれは例外なく男にあたる瞬間、溶けるように空気に分解された。
呆れ顔を“作った”男は、眉を大きく釣り上げたスィリィに対して、侮蔑を吐き捨てる。
「全く。女子がそのような言葉を白ものではないぞ?」
「うっさい、黙れ!」
「黙れと言われて黙る輩はいないだろ?」
「あぁ、もうっ! そんなバカみたいな事を言うのはレム一人で十分なのよッ!!」
「それもそうか。俺としてもあんな輩と同じ扱いされても困るしな」
「そうよっ、――だからさっさと、レムを何処にやったのか吐いてもらうわよ」
「一度では理解しきれなかったか? あの男の居場所を知りたければ俺を熨してみたらどうだ?」
「――あ、そう」
――世界は蒼に染まるべく
氷の頂きは地に堕ちて、この世に染まらざる彼の漆黒に辿り着く。
「じゃ……“潰す”」
「望む所だとも。冰頂の――いや、俺の見立てが正しいならば、」
「“ごちゃごちゃ言う暇があるとでも思ってる?”」
男の周囲が一瞬で凍りつく。その中には氷漬けの、男の姿が、
「中々好戦的だな、“スィリィ・エレファン”」
氷漬けにされていたのも一瞬。
全身から翡翠の輝きを纏って、何事もなかったように男がその場に佇む。
「――チッ」
「……と言うか、先程からお前は色々と女子としての慎みに欠けるのではないか?」
「――アん?」
「その表情、その仕草が……いや、何も言うまい」
「……何か、馬鹿にされてる気がするわ」
「はっきり言ってほしいのなら言ってやるが? はっきりとバカにしているぞ」
「――“潰す、潰す、潰す、潰すッ!!”」
世界が蒼の閃光に包まれ、凍り、割れ、崩壊し、崩壊し、崩壊し――蒼の世界が何も存在しない空間に満たされていく。
その中で男は翡翠色の輝きに包まれたまま、何事もなく平然と佇んでいるのみ。
「そのような小事を続けていても意味は無いぞ? そんな無意味、いつまで続けるつもりだ?」
「うっさい、うっさいうっさい!!」
「――それとも俺の見込み違いだったか? お前はその程度と言う訳か、スィリィ・エレファン?」
「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃとッッ――『零砲』!」
至近に詰め寄ったスィリィが右腕を突き出して、それを実に無防備に受ける男。
男に当った瞬間、爆発的なまでの蒼が世界に広がり、――それ以上の翡翠の輝きが世界を満たす。
「――ぇ?」
「……やれやれ。どうやら本当に俺の見込み違いだったか。……なら別プランにしようか」
「え、そんな……」
「今の段階でクゥワトロビェの力を確かめておくのも悪くない」
「ッッ!?」
呆然とした表情の、スィリィの顔を掴んだ男の手が翡翠色に輝く。
「先程は力加減を間違えたからな。……これくらいか?」
「――っぁ?!」
顔を鷲掴みにされたまま、スィリィの身体がビクンッと震える。
「……やれやれ。コレであの男が戻って来た時、どのような表情を浮かべるのか楽しみではあるな」
「――ぁ、ぁっ、ぁぅ……!?」
スィリィの全身から蒼の輝きが溢れだし――その全てが鷲掴みにされた男の腕を伝ってその身体に流れ込んでいく。
「っ、……っぅ、……――」
初めは目を覆わんばかりだった蒼の輝きは、次第に薄れて――やがてその輝きは完全に、失せた。
男から手放されたスィリィの身体は、そのまま何の抵抗もなく地面へと倒れ込む。
「今度は――成功か」
身体の調子を確かめる男と、土気色の顔をしてピクリとも動かないスィリィがその足元に横たわり――
「いつまでも好き勝手はさせませんっ!!」
「……おっと」
空から降り立った赤い幼女の身体から溢れ出た“紅”が男へと一声に襲い掛かる。
だが呆気なく、男は“紅”に当る直前にそれを軽く避ける。
二人の間に降り立って、赤い幼女は。
「シャトゥルヌーメか。何だ、また俺にやられに来たのか?」
「――ちーとくらい」
「……うん? お前、シャトゥルヌー……」
「――わたし、我は怒っています。“ちーとくらい”。何か良く分かりませんが、貴方は許せません、許す事が出来ないくらいぷんすかぷんです」
「いや、違うな? シャトゥルヌーメじゃない。――あぁ、“違う”シャトゥルヌーメか」
「……今こそ、我の全てを見せる時。本来ならば対レムの力でしたが、否! 今こそが我の全力を見せる時!」
「全力?」
「ふっ、我の力を見て恐れおののくがよいっ、“ちーとくらい”!」
「……まあ、少しくらいは遊んでやるか。遊んでやるから来てみると良い、シャトゥルヌーメ」
シャトゥ、再臨、スィリィ、早期退場?
・・・・・・あれ?