OP-9 -スヘミア-
・・・二番煎じ。
――翡翠の魔女に真実は無く、『最狂』の名こそが何よりの虚実である。
「……さぁて。困った、な~?」
翡翠の魔女は、スヘミア苦笑いをしながら周囲を見渡した。
うっとおしい程の長髪の少女、少女、少女の群れがそこにはあった。
『点睛の器、気が済んだか?』
「気が済んだ? 何ソレ」
『せめて気が済むまで相手をしてやろうと言う慈悲だ』
「慈悲? 何の事かな?」
『――分かっているのだろう、点睛の器。お前は私に敵わない』
「……一度私にやられておいて、良く言うよ」
『それを今でも本心から言えているのだとすれば、実にめでたいな』
「……」
『それと、勘違いされては困る』
「勘違い? 何のこと……?」
『他の使徒“もどき”共は少しだけ遊んでやったが、お前は確実に消しておく、我が主の面汚し【点睛】』
「――っっ、何処からどう聞いても、私に勝てて当然、って言葉だね、それは」
『お前の力の程は以前の時に把握した。正直程度が知れるレベルだ』
「い、言ってくれるね、“冥了”……?」
『それで、満足したかな、点睛の器』
「――」
『ではそろそろ私が動いてもいいかな?』
「……どうぞ、ご勝手に」
『では――永久に眠れ、【点睛】』
スヘミアの目の前で翡翠の少女達が――“溶けた”。
同時にスヘミアの身体が“溶け”出す。
「――なっ!?」
『驚くだけで良いのか、点睛の器?』
どろっ、と手が溶け、肉が溶け、骨すらも溶ける。
それは手に留まらず、足、顔、身体と全ての『スヘミア』の存在が溶けていく。
ひたすら醜い様相のスヘミアの目の前に翡翠色の長髪の少女の姿――“冥了”が再び出現する。その表情は無表情のまま、スヘミアを見下ろす。
『さあ、どうする? このまま何もせずに溶けて消えるか? それならそれで私は構わないが?』
「――フェイク」
『?』
「冥了、キミの手段は分かっているんだ。私がそう簡単に引っかかると思った?」
『……何だ、コレは偽物か』
“冥了”がそう漏らした瞬間、中途半端に溶けていたスヘミアが一瞬で消失した。
「うわっ、容赦なっ。……偽物とは言え、自分の身体のああいう所を見るのは気分良くないなぁ」
『では、次は見ずに住むように、一瞬で終わらせよう、点睛の器』
「――うん。他の子たちももう終わってるみたいだし? 一応『年長者』の私としても、さっさと“冥了”キミを倒しちゃう事にするよ」
『そうか。逃げる気は無しか。手早く済んで助かる』
「そうだね。手早く済んだ方が色々と楽でいいしね?」
『では、今度こそ――眠れ、【点睛】』
「眠るのはお前の方だ――【冥了】」
“冥了”の姿が再び溶けて消え――それと同時にスヘミアの姿も溶けるようにして、――この“世界”から消えた。
――二人の姿は“視え”ない。
“冥了”は視えない程に散り散りの姿に散っていて。スヘミアは、この世界の理すら偽って“冥了”が溶けている大気の中に、更に“溶けて”いた。
「ふふんっ、コレがお鉢を奪うってところかな?」
『慣れない事をすれば身を滅ぼすと分からない?』
「ふん、良いよ。自滅しちゃう前に、今度こそ――仇を取らせてもらう、冥了」
『では、すぐに滅ぼして後悔の間も与えないでやろう――』
その時。
何が起きたと言う訳ではない。ただしく言えば何かが起きたと言えるが、それを認識できたものは誰もいなかった。
ソレは目に見えない何かであり――或いは起きる事もなかった幻想の類である。
後に残ったものだけがその結果を物語る。
「……さて」
翡翠色の少女はそうひとり呟き。
片手に少女をわし掴んだまま、二人の姿はそのまま大気の中に姿を消した。
一応、昨日の分。・・・う~む???