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OP-8 -スィリィ-

・・・あれ、おかしいな?


“ラライ”は持っていた刀を地面に突き刺して、それから両手を前に突き出した。


その様子を見て“冥了”は不思議そう、いや侮蔑の籠った視線を“ラライ”へとむける。




「害虫? 害虫と言うのは私のことか?」


「うん、そう……」


「そうか。だが、何のつもりかは知らないが武器を捨て――」


「――私、魔“術”使い」


「――っっ!?」




遮られた、“ラライ”の言った言葉の意味を思い出して“冥了”の表情が僅かに引き攣った。




掲げた手から紅に輝く魔法陣が浮かび上がる。その大きさは大凡“世界を覆う”、余りにバカげた代物だった。


その意味、効果の程は“冥了”には分からない――そもそも、『使徒』は魔“術”など……下術げほうなど使わない。使う必要がないし、何より魔術を作り上げたのは使徒にとっては憎しみの対象でしかないはずのあの男なのだから。




「逃げる? ううん、逃げられないし、逃がさない」




――此処に、例外がたった一人だけいる。


想い人の為にその他の全てを捨て去った、異端中の異端の使徒、【灼眼】。使徒の中で唯一魔術を用い、本来の『使徒』以上の使徒の力を使う事が出来る、不埒者。




「――誰であろうと燎原に仇名す輩は私が赦さない」




――魔術、“刻乃涯トキノハテ


距離・空間一切関係なく、対象とした存在の力・時間の全てを奪い尽くすすべ。本来ならば膨大な時間を掛けて綿密な陣の組み上げと膨大な量の魔力の細密な制御が必須の、魔術の中の魔術――魔法を上回る、“魔術”としての本懐の一つ。


だがそれを、灼眼ならば――『最速』【灼眼】だからこそ、一瞬でくみ上げることが叶う、実現させてしまう。


規格外バケモノの更に上を行く、規格外チート




「あと…………貴女が『レム様』に手を出すのも、許さない」


「――!!」




世界を覆っていた紅の魔法陣がただ一点、“ラライ“の前に立っていた“冥了”へと収縮する。


更に収縮、収縮――一点になってもまだ収縮して。




跡形もなく、消えた。






“ラライ”は先程まで“冥了”が存在していた場所を睨、……むことはせず、少し離れた場所に棒立ちのままだったアルーシアの姿を凝視して、にへらっ、と恰好を崩した。


視線、表情、雰囲気の全てが“灼眼ラライ”からラライのものへと元に戻っていく。




「……疲れた――って灼眼!? 助けてくれるのは嬉しいんですけどっ、無茶もほどほのぉ~~……ぁぅ」




そうして。


全身に力が入らないまま、顔面から地面に倒れ込んだ。




「しゃ、……灼眼の、ばかぁぁぁ」




鼻が痛い。顔が痛い。おでこもひりひりする――身動ぎすらできない状況でラライは心の中で、号泣した。


彼女が思った事はやはり、傷が残ったらどうしよう……だった。






◇◆◇






――こおりいただきは一見同じに見えるが、常に変化を繰り返している。そのかおに一つとして同じもの無し。




「さ――」




翡翠色の長髪を地面擦れ擦れまで垂らした少女が何か言いかけた瞬間、――木っ端みじんに弾け飛んだ。




然程、間をおかずに再び翡翠色の少女がスィリィの目の前に“形成”され――




「おい、ちょ――」




何か言葉を言いかけるも再び散り散り、アイスダストになって大気に溶けて消えた。




三度、スィリィの目の前に翡翠色の少女が“形成”、――された瞬間に同様に粉々になった。




「――あなた、何がしたい訳?」




問答無用で砕いておきながら、半眼で睨みつけているスィリィの口から漏れた言葉は呆れしか含んでいなかった。


更に四度目――今度は“形成”される間もなく、その途中で大気に還される。






――ダメージを与えている感触は無い。恐らく相手は何の痛手も負ってはいないだろう。それを分かっているから、スィリィは目の前の相手に呆れながらも追撃を緩める気はなかったし、警戒を解こうとも思わなかった。


事実、それは正しい。






五度目、今度は翡翠色の少女の姿が“形成”されることなく。声だけが空間全体に響き渡った。




「――流石は直情的だな、冰頂“もどき”の女」


「……その冰頂って言うの、止めてくれない? 私はスィリィ・エレファンであって、冰頂とかそんなのじゃないわ」




場所が分からないならば目に見える範囲全てを“凍らせ”れば良い。


その瞬間、大気が割れる音だけが響き渡った。目には見えないが――スィリィの周囲の空気が一度凍結して、粉々に砕かれて、元に戻っていた。


だが、それでもやはり手ごたえは皆無。




「……面倒くさい。レムの知り合いって全員がこんな化け物じみてるのかしら?」




と、その化け物を軽く一蹴しておきながらのスィリィの独り言である。彼女自身、規格外バケモノとしての自覚は未だない。




「粉々にしても粉々にしても無傷なんてこんな輩どうやって黙らせればいいのかしら?」


「中々に手古摺てこずらせてくれる。だが、――な!?」




姿は無いが、その声には確かに驚愕があった。


その声に、スィリィは不思議そうに、首を傾げる。




「あら、どうかしたの?」


「……お前、冰頂“もどき”が何をした?」


「なに? 私は別になにもしてないけど?」


「そんなはずは……そもそもお前、何故小人族如きがそこまで使徒の力を引き出せている?」


「使徒? 何のこと?」


「……点睛や灼眼と違い、自覚すらないと言うのか?」


「何か良く分からないんだけど。コレは(レムをぶちのめすための)私の力よ」


「……何なんだ、お前は」


「あんたの方こそ何よ、バケモノ。変幻自在で知能のある魔物……なんて聞いた事もないわ」


「私を魔物などと一緒にするな、冰頂“もどき”の女」


「あんたこそ、その冰頂もどき? とか変な言いがかり止めてくれない? それに魔物じゃなかったら何だって言うのよ?」


「私は使徒だ。使徒――“冥了”のその一欠片だ」


「使徒? 何かどこかで聞き覚え……あぁ、そう言えば前にアイネから聞い、……――ぁ、ヤバ」


「どうした? 今更になって私に恐怖、」




スィリィの言葉尻に恐怖が混じる。それを敏感に察した姿なき声――“冥了”は、嘲りと共に言葉を発した……が。




「あ、アイネ怒ってるかな? いや絶対怒ってるわよね? アレフは――まあアレはどうでもいいとして。どうしよ? たしかタイプー山の頂上辺りにおいてきちゃった気がするんだけど…………アイネ、死んでないわよね?」




完璧、無視だった。


スィリィ、“冥了”に一切の関心を払う事を忘れていた。




その好機、みすみす逃す程に“冥了”は感情的ではなく――




「余所見とはいい度胸、」


「――黙れッ、今私は忙しいのよ!!」




一声――ただそれだけ。


スィリィの周囲、その全てが蒼に染まった。動くもの無し、動けるもの無し、蒼の法が支配するその世界、法外のモノ動けるはずもなし。






“冥了”が、凍っていた。




空間そのものが凍ってしまえば、そもそも逃げ場など存在しない。意識が在って、例え無傷だとしても動けなければ意味は無い。






――スィリィ・エレファンは使徒に在らず。


――冰頂スィリィ・エレファン冰頂しとに在らず。




「……うん、もうそうしよう、こうしよう。――さっさとレムの奴を縛って確保、もとい教育、いや調教して。それでアイネに謝り倒そう。ア、アイネなら多分生きてるだろうしっ。よし、そうと決まれば早速実行ッ」



彼女スィリィ・エレファンは、ただの恋する乙女(?)である。






そうして。


蒼の姫は駆け出した。




何故こうなった!?



……と言う感じの今回。スィリィ嬢が無駄に強い(?)のは無自覚です。恋してる乙女の暴走だとでも思って置いて下さい。

基本、レム絡みの事でしか力を発揮しないのですっ。

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