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OP-7 -ラライ-

ラライさんのターン。


使徒【灼眼】の『最速』の能力についての補足――厳密には早い、ではなくて時間を操る、とかそう言った感じな力です。故に、時間に勝るもの無し、速さで灼眼に敵うもの無し、な感じ。




――紅蓮の剣士は『最速』であり、その速さに迫るものすらなし。




「――」




赤い剣士は無言で刀を振う。それに相対するは、全く同じ姿の、翡翠の剣士。


剣速、剣筋は共に互角。一方が刀を振るえばそれと全くの同軌跡でもう一方の刀がそれを弾く。


そんな芸当が幾千――時間にすればほんの数秒の間に繰り広げられていた。




――埒が明かない。


それは切り結んだ一手目の段階で判った事だった。否、むしろ圧倒的に分が悪い。




「――っ」




互いの刃が、僅かに肌を掠めて傷を残していく。そうして少しだけ、血が滲んだ。


その傷自体は大した傷ではない。だが僅かな傷だったとしても傷は傷、そしてその数が数千に及べば、それは楽観していいモノではなくなってくる。




斬り結ぶたびに切り傷が増えて行く――ラライは内心、もう泣きそうだった。乙女の柔肌に傷が、である。……そんな事を思える程度の余裕はあった、と言えるのかもしれないが。


対して翡翠の剣士、偽ラライの方はと言えば――こちらは全くの無傷。正確には、傷が出来た瞬間に復元されていた。




ほんの軽傷ながらも次第に削られていく自分と、恐らく全く効いていないだろう相手。


何よりも問題なのは、このまま相手を粉々に切り刻んだとして――それが全くの無意味な行いであろうことだった。




――あくまで剣士であるラライは斬ることしかできない。故にこう言った物理攻撃が効かない相手とは“本来ならば”圧倒的に相性が悪い。


なら、こう言った手合いが相手の場合、彼女は今までどうして来たか――単純なことである。




「『――目障りだ、冥了』」




ラライであり、ラライではない声が漏れる。


時間としては一瞬、相手にとっては永遠に近い――次の瞬間、偽ラライが消滅した“ように見えた”。




物理攻撃が効かない相手にどうするか……ならば斬り刻めばいい。粉々などと言うレベルではなく、それこそ欠片一つ残さずに。


圧倒的手数を以て、数千、それで足りねば数万、まだ足りなければ数億、数兆の斬撃で以て存在ごと散り散りにする。




他の誰に出来なくても、灼眼かのじょならば可能。そうやって偽ラライの事を“ただ”斬り刻んだ。




「――」




流石に再生する事は叶わなかったのか、偽ラライが現れる様子は無い。周囲を警戒しながらも、ラライは刀を鞘の中へと収めた。




「……、ふぅ。――ありがとうございます、灼眼。正直、少し助かりました」


『別にいい。燎原の目の前で無様は晒したくないだけ』


「燎原……ぁ、そう言えばアルちゃんは」


『あっち』


「……無傷、ですよね?」


『うん。――仮に燎原に手を出してたら、冥了は私が消してる』


「あ、あはは……。でも、どうして?」


『何が?』


「いや、何でアルちゃんだけ攻撃を受けてないのかなって思って」


『燎原だから』


「それ、答えになってないよ、灼眼」


『燎原は『最強』だから。燎原に手を出す程、冥了は愚かじゃなかった。それだけだと思う』


「……そうなの?」


『うん』


「アルちゃんが……?」




当の本人――アルーシアはと言うと、じっと空を見上げていた。




「ねえ、灼眼? アルちゃんって何をしてるのか、分かる?」


『……きっと燎原の事だから何かを“視て”るのかもしれない』


「視てる? あそこに何かあるの? 私には、分からないけど……」


『私も分からない。でもきっと何かある』


「それは……アルちゃんが『燎原』だから?」


『うん。燎原は凄い』


「……本当に、灼眼って燎原の事が好きだよね。……私の方が影響受けちゃうくらい」


『当然、大好きだ』


「あ、はは、――ッ!?」




ラライが息を呑んで腰に差した刀を構えるのと同時。翡翠色の、顔を髪で隠したような少女が目の前に形成されていた。




「女神の使徒と、少しだけ侮り過ぎたようだ、灼眼」




使徒“冥了”――その手がラライへと向けて上げられて。




『避』


「――ぇ?」




激痛。


信じられない表情で、ラライは自分の身体を見下ろした。


あり得ない――腹部から突き出る、血に染まった真っ赤な腕がそこにあった。




「“訂正”しよう」


「っく!?」




その腕を斬り落とそうと――




空間から二の腕から先の手が二本出現して、ラライの両腕を抑え込む。続いてもう二本、両足を。




「所詮は“もどき”だが、これだけ引き出せているならば主も満足されよう」


「こ――っ!?」




言いかけた口を、別の手が塞ぐ。




腹部から腕が引き抜かれて、そこから血がどぷっと湧き出るように流れ出て行く。明らかな致命傷、傷の大きさもだが、何より血を流し過ぎているのが拙い。


口を塞がれて苦痛の声を漏らす事も出来ず、両手両足を抑え込まれて身動ぎする事も敵わず。ラライは悔しげな表情のまま、意識が暗転し――












――かち、とスイッチを入れ替えた。




◇◆◇




ラライの身体から溢れていた血が止まり、傷口が全て、消えた。瞬間、“過去の”斬撃が拘束していた手を斬り刻む。




「――主……チートクライ?」




そのラライであってラライでない彼女――“ラライ”は鋭い視線で“冥了”を睨む。その視線、雰囲気、殺気、そのどれもが先程までの彼女とは一線を画していた。




「点睛に加え、灼眼まで“覚醒”をするか。……――あの男、一体どんな仕掛けをした?」




独白する様に、“冥了”が言葉を漏らす――その喉元に、いつの間にか刃が添えられていた。




「――答えて、冥了?」


「止めておけ、灼眼。お前と私とでは互いに千日手だ。決め手がない、分かっているだろう?」


「――答えて。じゃなければ、永遠に切り刻む」


「相変わらず、女神の使徒は感情が過ぎるな。――だから出来そこないなのだ、お前たち女神の使徒は」




――腕を切り落とし、切り刻み。


――足を切り離し、切り刻み。


――胴をぎ払い、切り刻み。


――首をね、切り刻み。




それは一瞬の間の出来事であり、時間は一切経過していない。


その上で、全くの“無傷”のまま佇む“冥了”に、“ラライ”は再度口を開いた。




「答えて、冥了。チートクライが居るの? それと女神様をバカにする事は私たちが赦さない――口を慎め、冥了」


「お前の方こそ、主を名指しで呼ぶなど非礼が過ぎるのではないか、灼眼」




無数の“腕”が“ラライ”の身体から突き出され、彼女の身体が真っ赤に染まる――……かに思えた一瞬。


まるで“時間を巻き戻す”かのようにして無数の腕が消え、傷口が塞がり、そこには全くの“無傷”の“ラライ”がいた。




「やはり手詰まりだな」


「答えて、冥了。チートクライは居るの? 居ないの?」


「我が主はおいでだとも。今頃は“あの男”と戯れている頃だ」


「あのおと――レム様!?」




一瞬、“ラライ”の表情が元のラライのものへと崩れる――が、それは即座に“ラライ”の表情へと戻った。


――で、なければ命取りになることが分かっているからだ。目の前の相手はラライで敵う程、生易しいものではない。


元来【使徒】とは『そういうモノ』なのだから。そもそもの話、敵対すること自体が致命的に間違っている。




「そうだ。そして我々も主より、その場に招待されている。今の私は――その前のちょっとした害虫駆除と言ったところか」


「……チートクライの、また“実験”とやら?」


「そうだ。そして我が主は我々(モルモット)をお望みだ。一緒についてきてもらうぞ、灼眼」


「――……チートクライ。でも今は、ただのヒト。なら私が……」


「――何を考えている、灼眼?」


「……分かった、チートクライの元へは行こう。ただし――」




粉々に千切れ飛ぶ“冥了”の身体、それを期に、“ラライ”は大きく“冥了”から距離を取った。




「……どう言うつもりだ、灼眼」


「チートクライの所へは行く。ただし、害虫を駆除してから行く」




目が痛い。書く気が失せて行く。

そろそろ花粉の季節かぁー。鼻詰まりは未だいいけれど、目がかゆいのだけは勘弁してほしいと切に思います。


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