OP-6
レムベースだと話が進まないので、別方面から進めてみる事に。
一方その頃の使徒さんたち。
ラライ、スヘミア、リーゼロッテ、スィリィ、あと我らが(?)アルーシアの行動ターン。
「――御方は仰られた」
それは警告であり、同時に宣告でもある。
剣呑さを秘めた訳でなければ、殺気敵意害意或いは悪意、そのどれを含んでいるわけでもない。
故に――誰もが気付かない。
例え熟練と呼ばれる剣士であろうと。
例え魔女と恐れられた魔法使いだろうと。
例え長い時の中で経験を積んだ妖精族だろうと。
恋に恋焦がれ、愛に愛塗れる少女は当然として。
漆黒の鬼は――気がつけたかも知れなかったが、その場にはいなかった。
気がついたのは――同類、あるいはそれに近しい、意思薄き者。
◇◆◇
「……?」
アルーシアが立ち止まり、空を見上げる。
「「アルちゃん……?」」
「「アルーシア?」」
立ち止まったアルーシアを不思議そうに見る、ラライ、スヘミア、リーゼロッテ、スィリィの四人。
何故この四人が一緒なのかと言うと――
彷徨うシャトゥルヌーメ。……恰好良い感じな気もするが単なる迷子である。現在、突如として走り出したため行方不明。……突拍子のない行動はよくあることなので誰もほとんど気にしていない。
そしてその馬鹿について来たアルーシア。
プラス、そのアルーシアについて来た同志二人、ラライ&リーゼロッテ。
そして最後に、余りの組み合わせに溜息を吐きながら――ついでに来たいと好奇心に胸ふくらませ、いや全く膨らんでないが――ついて来たスヘミア。
ついで、どうやらレムの知り合いらしい彼女等にさり気なく? 愛しの彼についての情報収集をしようと企んでついて来たスィリィ。
以上である。完膚なきまでにどうしようもない組み合わせだった。……戦力としては、恐らくこれ以上のものは世界中どこを回っても――……たった一人の規格外戦力を除けば、これ以上の戦力は見当たらないだろうが、戦力とか意味ないモノである。
「……」
アルーシアに釣られるようにして四人も空を見上げるが、やはり誰も“気付かない”。四人が四人とも、再度アルーシアを不思議そうに見たが、彼女はその場から動こうとせず、ただじっと空を見上げていた。
「数多の死を望まれると」
声が聞こえた。スヘミア、リーゼロッテには懐かしさを感じる声で、だがその姿は何処にもない。――或いはその姿は何処にでも“ある”とも言える。
四人が警戒したように周囲に視線を送るが、当然見つかるものではない。
「使徒“もどき”が四匹相手――なら私も相応の対応をしよう」
三度目の声が聞こえた、直後。四人、同時に息を呑んだ。
「「「「――っ!?」」」」
彼女らの直下から、数えきれないほどの石の槍が生えてくる。
対応はそれぞれ。
ラライはその姿が霞むほどの回避を取り範囲から離脱を図る。
スヘミアはその場で足を一度、地面に叩きつけた。ただそれだけで周囲が歪み、彼女の足元の石槍が砕け散る。
スィリィは眼前で腕を振り、その軌跡を僅かに氷霧が追う。石槍は彼女を串刺す前に停止した。
リーゼロッテは半身ほど、後ろへと下がった。それだけで、足元から生えた数多の石槍は彼女には当らない。
「だっ――冥了!?」
スヘミアが鋭い声を上げるが、やはりその姿は何処にも見えず。
声だけが空間全体に響き渡る。
「久し振り、と言えば久し振りか、【点睛】の出来そこない。以前は私の一欠片が世話になったな」
「……まだ、生きてたんだ」
「まだとは滑稽な言い方だな、【点睛】の出来そこないの女。私は冥了だ、その意味を理解しているか?」
「……」
「それにそっちは【灼眼】、【冰頂】。後は――会うのは初めてだがお前が【記外】の成れの果てか」
視られた――実際には視線など存在しないが、そう感じた残りの三人に寒気が奔る。
猛獣に睨まれた瞬間の身が竦む思い、視線を感じた瞬間に三人が感じたのはそれと同種の身震いだった。
ラライ、スィリィは未だに相手の姿を探し続けていたが、その姿を見つける事など出来るはずもなく。
リーゼロッテは既知の相手を探すことの無意味さを理解して、ただ強く眼前を見つめた。
「その姿、惨めなものだな、【記外】」
「放っておいて下さい、【冥了】。私はこれでも今の【記外】を気に入っていますから」
「人形が自分で自分を気に入るなど――我等にそのような感情は不要だ」
「かつての私ならそうだったかも知れません。でも今の私は記外です。あなたの知る記外じゃ、ないです」
「どうやらそのようだ。【点睛】【記外】――お前たちはあのお方の使徒に相応しくない。要らぬ惨めを晒すより先、私が此処で葬ろう」
殺気、敵意はやはり無い。そこに、冥了にあるのはただ淡々とした行為と、それに基づく結果だけ。故に人形に感情は発生しない、伴わない。
「で、出来るのかな? 前は私にやられちゃった癖にッ……それに今回は私の他にラライちゃんや、スィリィ、それに良く分からないリーゼロッテもいるっ」
「……あの、スヘミア? よく分からないってそれは、」
「――聞こえているか? 無知とは滑稽で惨めなものだな、【点睛】」
「……、ソレ、どう言う意味?」
「言葉のままだ。私の前に数など意味は無い。それに何より――今度は助けは誰も来れないぞ?」
「は? 助――」
同時にして、四人の目の前に、自分とまったく同じ姿の存在が現れる。
「「「「っ!!」」」」
「「「「こうした方がお前たちにも分かりやすいだろう? ――では狩りを始める」」」」
◇◆◇
ラライの目の前で、偽ラライが刀を構えて、ニィと好戦的な笑みを浮かべた。
同様に本物のラライも刀を構えて、力なく溜息を一つ吐く。
「……私、そんなに醜い顔をしていますか?」
『――』
答えは無く。残像も残さず消えた彼女等はお互いの中央で激突、切り結んだ――
◇◆◇
スヘミアの目の前では偽スヘミアがやはり不敵な笑みを浮かべて――次の瞬間、本物のスヘミアが振り下ろした大斧に真っ二つにされていた。
脳天から半分にされた偽スヘミアは、そのまま地面へと力なく倒れるが、そこに油断の色は無く。彼女はまだ厳しい目で真っ二つにした自分の体を見下ろした。
「――あんたの手段は分かってるんだから。そんな如何にもやられたな演技なんてしないで、ちゃんとかかってきたらどう?」
スヘミアの言葉に応えるように、半分にされたはずの偽スヘミアの身体がそれぞれむくりと起き上がり、そのままそれぞれの偽スヘミアが元に戻った。
つまりは、二人に増えていた。
「……はは、こんな感じで増えてく生物、確か何処かにいたよね?」
力なく笑って、スヘミアは身体に似合わぬ大きさの斧を軽く上段に構えた。
◇◆◇
リーゼロッテはただじっと、目の目の偽リーゼロッテを見つめていた。偽リーゼロッテの方も動こうとはせず、ただじっと見つめ返してくる。
「……」
『……』
互いが互いに、まだ動き出す様子を見せない――
◇◆◇
スィリィは目の前の全く同じ姿の偽スィリィに対して一切躊躇わず、一切手加減せず、一切の無駄と言葉を省き――一瞬一撃瞬殺で粉々に、それこそ滅ぼし尽くした。
直後、その彼女の目の前に翡翠色の長髪を地面擦れ擦れまで垂らした見覚えのない女が出現した。表情はない。人形の様な無表情がそこにはあるだけ。
「どうやらお目が一番厄介なようだ。法の使徒、【冰頂】」
「……どうでもいいけど、なんであのバカの周りにこうも女の子ばっかり集まってくる訳?」
力ない溜息に応える声は何処にもなかった。
多分、所詮自分も同じ穴のむじななのだろう――と、スィリィはもう一度重く溜息を吐いた。
◇◆◇
アルーシアは。
ただじっと、ただずっと、空の一点だけを――周りで例え何が起ころうと――微動だにせずじっと見上げていた。
まるでそこに何かがある、居ると分かっているように。或いは、ただ何も考えていないだけだったかもしれないが。
・・・・・・キスケぇぇ、……何処行った?