OP-2
・・・やべっ。レムがまとも・かつ積極的に戦ってる所の想像がまったく出来ないっす。
もういっそ、一方的にぼこられればいいんじゃね? と思わなくもない。
虚空に手を添わせての、抜刀。
何もない空間から抜き身の剣を解き放つ、一見ただの“はがねの剣”。だがそれはこの世界に斬り裂けないものは存在しない無名の剣、彼の最も慣れ親しんだ愛剣。
「――ふっ」
「≪拒断≫」
斬れぬものは無い矛と、徹す事のない盾。
鋼の鈍い煌めきと翡翠色の輝きが二人の間でぶつかり合う。
拮抗したのはほんの一瞬だった。
――剣を振りきる。翡翠色の輝きは剣が通過した部分だけ綺麗に裂けていた。だがそれは翡翠の輝きを斬り裂いただけ――『標的』男は一歩後ろに下がり、その刃は空振りに終わっていた。
勢いのまま肩で体当たりをして、男を吹き飛ばし、
「世界の理を曲げ、世界の法を侵し、世界を創る万物を破壊する刃か。骨董品だな」
「なぁに、骨董品かどうかはテメェの身体で味わってみな?」
斬り上げた。
着地する僅か、そのタイミング。その刃は完璧なタイミングで以て斬り上げられていて、避ける事は不可避。いやそもそもの話、相手側に避ける気がなかったのだから当らないはずがない。
「いや、味わうまでもなく骨董品だとも」
「ッ!?」
斬り上げられた刃……が存在した空間は確かに男の身体を通過して、その結果として男は何事もなく“無傷”でそこに佇んでいた。否、僅かに眉を寄せて、剣が自身を斬り裂いた――筈だった空間を見ていた。
僅かな赤い煌めきが、翡翠色と混ざりあい黄色――否、金色の輝きとなって揺らめいて……直後、消えた。
そのころには最大限の危機感を以て、距離を大きく放している。
ちらりと視線を落として握っていた剣を見れば、何物をも断つはずの刃、それがごっそりと削られていた。いや、削られるなどと言う生易しいモノではなく、柄以外そのほとんどを消失していた。
「――予定通り、と言う訳にもいかないか。まあ概ね想定通りだ、それで良しとしよう」
「……テメェ、今の“ソレ”は」
「ん? ああ、“知らぬ”訳ではないだろう? 赤と緑の共演――この世界に当てはめればさながら創理の力、と言ったところか。それも万物を塗り替える【燎原】の力との共演だ」
「――」
「当初の予定では俺が【燎原】を喰らうことでコレを試すつもりだったが――予定とは往々にして狂うものだ。今、俺の手の中に【燎原】の力がある。それだけで良しとしよう」
「――チッ」
「……さて、どうした? 骨董品の価値など使う必要もあるまいに。だからそんな無残な姿を晒す」
「テメ、――いや、そうだな。“同じ手を何度もくらう”ほど甘くないってわけか」
「いいや。それでも骨董品なりの価値はあるものだ。事実、俺が乗っ取ったのがこの男の身体でなければ俺にソレを防ぐ術は無かっただろう。ソレは間違いなくこの世界では最高の矛だとも。――最も防がずとも当らないための手段など吐いて捨てる程あるがな」
「そうかよ」
「では、順当に行けば次は俺の番と言う所か?」
「ざけんな、テメェの番は永遠に来ねえよッ!」
一直線に男の元へと駆ける。
手に持っているのは柄だけになった元愛剣、即座に不要と判断して投げつけた。が、それは男に当る寸前で“溶けて消えた”。
「次は徒手空拳で挑むか? 熱いのは嫌いではないぞ。良いだろう、相手に成ろう」
「ハッ、そうか――よっ!!」
上段蹴りを放……蹴りの直前に足を抑えて威力を殺され、更には軸足を払われる。
「……才能がないな」
「っるせぇよ!?」
跳び上がり、そのまま拳を突き出す――も、傍目から見てもありありと分かるレベルで軽くあしらわれた。
「接近戦は止めておけ。俺も得意な方ではないがやはりお前よりはマシだ。勝負にならんし興が冷める」
「っそりゃ、こっちにとっちゃ好都合、だっ!!」
「何度やっても同じことだ」
「そう思うなら勝手にそう思って後で吠え面かきやがれッ」
「――では、何か策があると言うことか。見てみたい気もするが……ここは大人しく自重しておこう」
「逃げる気かっ!?」
「逃げるとも。神として成った以上、時間に限りがないとしても時を徒に過ごすのは俺の主義じゃないのでな」
「――チッ」
「それにどうやら次の生贄が到着したようだ」
「……なに?」
部屋の扉が粉々に破壊され、そこから一筋の赤が奔る。
「ス――ラッシャアアアアアアアアアアア!!」
――刻み砕け、紅蓮纏い万物の鎌、≪CrimsonScythe≫
「――『拒断』」
空間を駆け抜けた赤と、翡翠の輝きとのぶつかり合いは、赤が弾かれ、彼女――赤い幼女は生まれて始めて見せるような険しく真面目な表情をしながら、隣に着地した。
「二度同じ手は通用しないぞ、シャトゥルヌーメ」
「コレで貴方の魂を砕けたのなら幸運、程度だったのですが。残念です」
「――シャトゥ」
ほんの僅かな、聞こえるか聞こえないか程度のはずの声に、赤い幼女は非常に珍しくこちらに一瞥すらせず、視線を男へと向けたまま。
「はい。――二人で激しく乳繰り合うのは後で。今は、」
「ゃ、後でも乳繰り合わないからな?」
「そんなぁぁぁ!!??」
思いっきり振り向いて、涙目で睨みつけてきた。
うざい。
「第一検証――創理の実証はあの剣を打ち消したことで滞りなく完了した。では、次の段階に進むとしよう」
涙目の幼女の後ろで、男がそう謳った。
・・・う~ん? やっぱりメイドさんが居ないと真面目戦闘が始まらない。と言うかレム単体での真面目方面の戦闘は無理と気がついた。
……この先、難産になりそうです、ふぅ
――と、言うのを今回遅れた言い訳にしてみる。