ど-7. のんびり?
本作品に悪意は御座いません。全てが善意と真実でできております。
「旦那様、何故夜空はこうも綺麗なのでしょうか?」
「そりゃ、星々が輝いて幻想的に見えるからじゃないのか。てか、な…」
「旦那様、草原に寝そべると何故心地好く眠くなってくるのでしょうか?」
「草の匂いと土の温もり、虫達の歌が聞こえて心が安らぐからだろう。てか、なぁ…」
「では旦那様…」
「いい加減俺の言う事聞けよ、おい!!」
「旦那様、これは聞くまいと私の心の内にのみ留めようと思案しておりました事ですが旦那様たっての希望と言う事で申し上げたいと存じ上げます。何故本日一両日中ずっと草原の上でまどろんでおいでなのでしょうか?今はもう夜になりますよ」
「……お前がそれを聞くか?」
「旦那様、本日は一両日間館の総力を挙げて探索を致しておりました。だというのに当の旦那様は一体この場所で何をしておいででしたのでしょうか?」
「や、そもそも総人口とこの敷地の広さから見て一日掛ければ俺を見つけ出すのは容易い事だと思うのだがこれは如何に?」
「この見渡せる限りの場所は私の走査探索関係者含何人たりとも立ち入り禁止区域となっております。少なくとも明日の期限までは他の方々は絶対立ち寄る事はありません。お陰で旦那様を見つけるのは実に楽な事でした」
「つーかよ、俺が一日中こうしていた理由がお前にあると思うのだが…?」
「ちなみに他の方々には朝の一刻以降は暇を与えました。旦那様の命で」
「俺のかよっ!?そんなもの出した覚えはないし……てか皆で一日中探し回ってたんじゃないのか!?」
「そんな無駄な事は致しません。本日全ての方々に旦那様が暇をお出しになられたと言う事になっていますのでこの館の総力とは今は私一人だけを指し示します。よって、私が一両日旦那様を捜していた次第にございます」
「……言っていいか?」
「何でございましょうか?」
「先ず一つ目、探し回ったって言ってもお前、今朝からずっとこの場所に居ただろう。既に目的果たしているじゃねえか」
「そうですか。それはご苦労様でした」
「ご苦労様じゃない。それと二つ目、勝手に暇を出すなよな。まあ、あいつ等にもそろそろ休暇でも与えようと思ってたから別に構いやしないけどよ」
「お許しいただけたようで、ありがとうございます」
「だからありがとうじゃないって言うの。最後に、てかこれが一番重要な事なんだけどなっ」
「何でしょうか?」
「あの一撃は効いたぞ。お陰で爽快な目覚めとは真逆だったし、こうして一日中俺は動けないままだったって事だ。つーかまだ動けん。寝室から此処まで吹き飛ばされたし…お前全く手加減しなかっただろ?」
「旦那様に手を上げるのは私と致しましても大変心苦しく思う次第ではありましたが、あれは旦那様の落ち度でございます」
「ノックもなしに部屋に入ってきたお前の落ち度は何処に行ったんだ?」
「ノックは致しました。旦那様のお耳に入らないようにしただけの事です」
「聞こえないくらい小さいんじゃ意味ねえよ」
「旦那様、自分の落ち度を他人の所為にするのは些か人格形成に問題がおありではないかと、進言申し上げたい所存でございます」
「ふざけるなよ?そもそもお前が朝まどろみの中にいた俺に問答無用の一撃を喰らわしたのが始まりじゃねえか!!そもそもの問題としてどうして俺はぶたれたんだよ?なあ?」
「………」
「………」
「旦那様」
「何だよ、やっと理由を言う気になったか?それと文句ならもう聞かないからな」
「膝枕と言うものが心地好いと聞き及びますが、いかがなものでしょうか?」
「………」
「…旦那様?」
「ああ、その通りだよ」
「それは…私も大変嬉しく思います」
「ちっ……まだ痛い。動く気も起きないから今日は此処で寝るぞ」
「はい、どうぞ。夜はまだ冷えます。御召し物を…」
「いらない。このままで十分だ」
「…そうでございますか」
「ああ」
「……旦那様」
「何だよ、まだ何かあるのか?」
「日頃は皆様がおいでになります。騒がしいのも楽しくはありますね。一人よりも二人、二人よりも大勢、心地好い場所になり何より私も嬉しく思います」
「…何が言いたいんだ?」
「たまにはこうした静かな夜も悪くはないと思う次第にございます。旦那様はお嫌いでしょうか?」
「別に」
「そうですか」
「ああ」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…旦那様?」
「ぁ?」
「申し訳ありませんでした」
「…別にもう気にしちゃいないさ。一日中膝枕してくれてた事でチャラだよ」
「……お休みなさいませ、旦那様」
「お休み、――」
「はい、本日も良い夢を」
「………」
「本当に、このような日も悪くはないのでございますよ、旦那様?」
本日の一口メモ〜
『三神十二使徒』
三つの神様とそれに使える十二人の使徒の事。
龍種がまだ存在していた頃、神話で語られる程の昔の事で現代ではその存在すらも定かではない。
まあもう滅んでいないから、心底どうでもいいが。