結晶3
とりあえず岡加太郎目線はここまでです
この結晶には、びっくりするような秘密がある。
僕がこの秘密に気がついたのは、おばあさんに結晶をもらって数日経った後だった。
僕の母親は、特に宝石が好きというわけではなかった。むしろそういった装飾品は好まないタイプの人で、ドレスよりもスーツを好むお堅い感じだった。僕がもらった結晶を母親に見せたときから、母は人が変わった様に、この結晶に興味を持つようになったのだ。母は僕の結晶を手に取ると、恍惚としたような表情で何時間も結晶を見つめ続けていた。
気になった僕が、どうして結晶を見つめ続けているのか聞くと、いつも母はこう言った。
「加太郎もよく見てみて。この結晶の中にちっちゃな世界が見えるの」
「えー、何も見えないよ」
「あらあら、ほら、もっとよく見て」
結局、僕は結晶の中の小世界を見つけることはできなかったのだが、あることがきっかけで母の言ったことを信じるようになった。
その日、僕はお気に入りの特撮ヒーローのカードを失くしてしまい、家中探し回っていた。しかし、一向に見つかる気配がなく、しょぼくれてめそめそ泣いていた。涙でべちゃべちゃになった手で結晶に触ったとき、僕は見たのだ。その小さな結晶の中に、おぼろげで消えそうであるが、確かに小さな世界があった。
僕はカードのことなど忘れ、ダッシュで階段を駆け降り、水道の蛇口をひねった。水で濡れた結晶は一層輝きを増し、手のひらの上の世界をより明確に映し出した。目を凝らせばその世界の隅々まで見れるような感じがした。
しかし、母がこの世界が存在することを教えてくれたときには、僕には何も見えなかったことが今でも気にかかる。あのとき結晶は濡れてはいなかった。どうして母には見えたのか、僕には見えないのか、未だに分からない。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ずっと前から気づいていたんだ、この結晶がただの石でないことに。
だがありえるのか?結晶が一人歩きすることが。こればかりは誰にも信じてもらえないだろう。
僕は、中に何も見えない乾いた結晶を眺めながら、重い瞼を綴じた。