#05
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「ガ、ガス星人?」
あまりにぶっ飛んだ推理に、私は愕然とした。
「そ、そんなものいるんですか?」
「理論上、います」
「理論上って、あんた……」
あまりのことに言葉が続かない。
「シリウス星系には、未知の生命体が多数存在していて、そのうちの一つにアンモニアを主成分にしたガス状生命体、アンモニールがいるとされています。科学的な証明はまだされていませんが、この事件の犯人は彼らですよ」
そんなもん、わかるか!
腹のそこから叫びたくなったが、なんとかこらえた。
「ま、まあ……なかなか面白い仮説ではありますが、でも、どうやって、あなたはそれを証明するんです?」
「証明か……いまの地球の技術だと、それが難しいんだよねー。名乗り出てくれれば、一番、手っ取り早いんだけどな」
そういいながら、ゼノンは操作卓の通信ボタンをプッシュした。
「あー、あー、てすてす。本日は晴天なり。あー、あー、聞こえますか、聞こえますか。密航中のみなさん。残念ですが、みなさんの正体は完全にバレています。おとなしく名乗り出て来てください。今なら穏便に強制送還ですませましょう」
しーん。
きっかり一分、静寂が続いた。
しーん。
もう一分、待ってみた。
「あ、あのー。クリノさん?」
「はい?」
「誰もいないみたいですが……」
「シュナイダーさん、返事がないからといって、誰もいないと決めつけるのはよくないですよ」
「いや、しかし……」
「彼らにとっても、ここが踏ん張りどころですから、ぎりぎりまで、隠れようとするでしょう」
ゼノンは唇に指を当て、少し考えこんだ。
「とはいえ、このまま待っていても仕方がないんで、少し強引な手を使いましょうか……。あー、あー。ガス星人の諸君に告ぐ、五、数えるまでに名乗り出なければ、その船を爆破する。五……四……」
ゼノンは操作卓をすばやく動かし、船の遠隔操作を始めた。宇宙船ユパニテ号は、またたく間にナミハヤ港から離れ始め、自爆プログラムのカウントが始まった。安全な距離まで移動させて爆破する気だ。
管制室にいる全員が凍りついた。
「ちょ、ちょっと、クリノさん!」
「三……なんですか?」
「なにやってるんですか! そんな勝手なこと許されるわけないでしょう!」
「いや、でも、真実を知りたいのなら、このくらいのことはしないと……二……」
なにを言ってるんだ、この男は!
しかし、動きを止めようにも、なにをどうすればいいのか、とっさのことで頭が働かない。今更、この男の身柄を拘束しても、もう手遅れだ。
私は後悔した。この男を信用したばかりに、重要なすべてを失おうとしている。
証拠も、事件現場もなにもかも。
「一……」
万事休す。
そう思ったときだった。
「マ、マッテ、クダサイ!」
ユパニテ号から懇願する声が聞こえてきた。
ガス星人の声だった。