#02
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管制センターは、一般人の立ち入るターミナル区域とは異なり、厳重なセキュリティシステムと保安員によって何重にも守られた要塞のような場所だった。大きさはターミナル区域とほぼ同程度で、さらにいくつかの区域に分かれていた。
「ここ、ナミハヤ宇宙港は、三十分毎に運行してる月面定期船の発着業務のほかに軌道エレベータの調整業務、近隣宇宙域の監視業務、深宇宙域の探査業務を担当しています」
管制センターの保安部長であるミナ・ズバム氏はそう説明してくれた。
衛星軌道上にある宇宙港の一つであるナミハヤが、同時に深宇宙の探査基地であることは知っていたが、実際にどのような状況で運用されているかは知らなかった。
シリウス星系への深宇宙航路を見つけて110年、人類はいまだ見ぬ世界を求めて広大な宇宙に向けて無人・有人の宇宙探査船を出し続けていたが、正直、陸にいる人間にはあまり縁のある世界とはいえなかった。
普通の人間はせいぜい月と地球を行ったり来たりする程度だ。
私は普段のナミハヤ港とは違う一面に興味をおぼえながら、だんだんと薄暗くなる周囲を用心深く観察しながら歩いた。いたるところに機械が置かれ、動作をあらわすランプが点滅しており、なんだか不気味だった。
だがミナ・ズバム氏はそんな私の思いをよそに、さらに奥へと進んでいった。通路なのか機器の隙間なのか区別がつかないような場所を通り、ようやく厳重にロックされたゲートの前で立ち止まった。
「ここから先が深宇宙探査区域になります」
「この先になにがあるんです?」
先ほどから施設の説明ばかりするズバム氏に訪ねてみた。状況の説明をごまかそうとしているのは、あきらかだった。
ズバム氏は困ったような顔つきで、私を見た。
「それが、その、よくわからない状況でして……」
「?」
うちの悪魔上司は行けばわかるといっていた。それなのに、ここの責任者はわからないという。なんだか、できの悪いなぞなぞみたいだ。
「とりあえず、見ていただいたほうが早いと思いますので、とりあえず、どうぞ中へ」
強引に促すズバム氏に断固抗議したいところではあったが、すでに最後のセキュリティシステムは解除され、厳重に閉じられていたゲートが開き始めていた。
ちなみに私の血液型はA型だ。
状況の説明は事前にきちんとしていただかないと、心の準備ができないA型である。
ミナ・ズバム氏にきちんと、そのあたりの自己紹介をしておくべきだった。
私は一人、心の中で後悔した。