#08
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一時間後――。
「一体、どういうつもりざます! この私が犯人だとでもいいたいざますか!」
「いえいえ、決して、そういうわけでは……」
ゼノンに言われたとおり容疑者の招集を行った私は、そのせいで窮地に立たされていた。日ごろ、人から指図されることになれていない、ざます夫人、もとい、デルモンテ伯爵夫人が、人を呼びつけるとは何事だと、怒りを私にぶつけてきたからだ。たくさんの宝飾品を身につけた小太りのデルモンテ伯爵夫人は、私につめより、すごい剣幕でたずねてきた。
「じゃあ、誰が犯人ざます?」
「い、いやー。それはいま捜査中でして……」
怒っているのはデルモンテ伯爵夫人だけではない。宝物庫のある部屋に集めたマーカム夫人、ウルテマル、リシューレ、ヒビワールが怒りのまなざしを私に突き刺していた。
ただ、フナンだけは冷静に中立の立場を守ってくれていた。さすが、執事長だ。できれば、こちらの味方になってほしいところだが、容疑者の一人として集まってもらっている以上、それは無理だろう。
「捜査中って、誰が捜査しているざます? あなた、さっきから、ぼーっと立っているだけじゃない!」
随分な言い方だが、伯爵夫人とケンカしても仕方がない。私はつとめて穏やかな口調で答えた。
「いま、専門家に調査してもらっているところですから、少々お待ちを」
「少々って、いつまでなのかしら。だいたい、どうして、こんなところに集められているの?」
黙っていたマーカム夫人が耐えかねたようすで口を開いた。夫人の理知的な鳶色の瞳が、まっすぐこちらに向いている。なんだかこちらが悪いことをしているみたいだ。
私は救いを求めるように、開かれたメンテナンス用扉の奥を見た。
巨大なアームの一つがすでに取り除かれていて、コンテナのならぶ、いくつもの棚が見えていた。
そして、棚と棚のあいだをゼノンとぽち丸が行ったり来たりしていた。
ゼノンはニュー来々軒から戻るなり、業者と打ち合わせをし、誰よりも早く宝物庫のなかに入り、すでに調査を開始していた。
「あのー、クリノさん。みなさん、お待ちになっているんですが……」
これ以上は間が持たないと判断した私は、宝物庫のゼノンに向かってよびかけた。すると、奥のほうから返事が聞こえた。
「あーそーですか。わかりました。すぐ、そちらに行きます」