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ACT1

 できた。

 ついに出来た。長かった。本当に長かった。

 子供の頃に祖父の家にあったアクションゲーム。その素晴らしさに惚れ込み、以来ずっとVRで再現すべく日々を費やしてきた。

 音は著作権フリーになっていた為、簡単に落とせたが・・・。肝心の中身は当然2D。それをVRとして作り変えるのに2・・・いや、考えるのは止めよう。

 ともかく、ようやく全編通してのテストプレーだ。これでバグを洗い出して、修正すれば完成。完成したら大手ダウンロードサイトにて有償でダウンロードできるように交渉済みだ。(価格は千円)

 

 さて、細かい事は置いといて早速やろう。ヘッドギアとゴーグルを付けて、ゲームの機能を立ち上げる。

 いざ行かん憧れの地へ!



 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 


 光の道を通ると、そこはギリシャ神殿を思わせる建物の中。外を見れば雲の平原がどこまでも続く光景が見える。

 

 「おお!完璧だ!」

 

 思わず声を上げる俺に、天井から声がかかる。

 

 「おめざめになりましたか。」

 

 見ると、上から子供の姿をした天使が舞降りてきた。

 

 「君は・・・。」

 

 「はい、私はアナタ様をお手伝いする為にに作られました天使エンジェルです。」

 

 おお。これも仕様通りに動いている。一応AIを使っているので簡単な会話はできるが、難しいことだと「わからない」と返すようにプログラムを組んだはずだ。

 学習機能も申し訳程度だが、骨董品をVRにおこしたのだから古き良き昔を残す(高いAIは買えない)為にこのような形にした。

 

 「ふむ、そうか。体に異常はないか?思考はクリアーか?今後の行動についての説明はできるか?。」

 

 天使は地に伏すと、頭を下げながら答える。

 

 「体に異常はございません。思考も十分に余裕があります。今後につきましてはご自分のお名前を決められた後に、ご説明申し上げます。」

 

 子供に丁寧な言葉遣いを要求し、あまつさえかしずかせながら話させる。そんな鬼畜の如き所業を強要しているようで心苦しいが、設定は設定だ。仕方ない。

 

 「では早速ですが、お名前を教えていただけますか?」

 

 一番初めは『名前決め』というのは常識だろう。一部名前が決められてしまっているモノもあるが、大抵はまず名前を決めるところからだ。

 

 「後で名前の変更はできるか?」

 

 AIの機能実験として、マニュアルに無い質問をしてみる・・・さてどう答える。

 

 「可能です。あくまで呼び名なので仮に『神様』や『マスター』等でも問題ありません、ご自由にお決めください」

 

 なるほど、元とは違うという事だな。安いAIでもそのくらいは大丈夫か。

 

 「では、私の事は『マスター』と呼べ。」

 

 「畏まりましたマスター。地図をご用意致しましたのでご覧頂きながらご説明申し上げます。」

 

 ・・・天使が三人いるように見えるんだが。世界地図を右端で一人左端で一人、説明の為の指し棒を持ちメガネをかけながらのが一人。合計3人だ。


 「天使は、一人じゃなかったのか?」

 

 そう聞くと「え?」と、不思議そうな顔をする中央の(今までいたやつ)天使はメガネの位置を直しがら答える。

 

 「一人での管理は難しかったので、補助の為に作りました。が、いけなかったでしょうか?作成は禁止事項になっておりませんでしたので」

 

 少し考える。が、ダメという事もないだろう。流石に子供一人にやらせるのは非人道的というものだろう。

 

 「問題ない。少し驚いただけだ。私が作ったのは一人だけだったからな」

 

 「そうですか、ありがとうございます。」


 「うむ。では今後の説明を初心者にも解り易く頼む」

 

 「畏まりました。いまや ちじょうは まものたちがはびこ「ちょちょちょ!待て待て」

 

 慌てて止める俺を若干不思議そうに眺める天使。

 

 「普通に話せよ。なんでここで急にSFC風になるんだよ。今まで普通に話してたんだし、普通でいいよ!」

 

 若干不満げな顔をし、度の入っていないメガネをクイと直しながら「畏まりました」と答え、やり直す天使。

 

 「今や地上は魔物だけが蔓延る荒廃した土地となっております。これもマスターの力を封じ込めた、『魔王サタン』の仕業と言えましょう。マスターが元の力を取り戻すには、人間たちの信仰心が必要です。まず、人間を住まわせる土地を作る為に地上へとおもむき、魔物達を排除しましょう」

 

 「若干文章がおかしい気がするが、まあいいだろう。それで、俺は何処に行けばいいんだ?」

 

 天使は地図の東側にある平地『初源の地』と書かれた所を指しながら「ここです」と答える。

 

 「ここを第一目標とします。現在のマスターの力を考えるとここ以外は危険です。まずこの地で、ある程度の人口増加と信仰心の増幅を図り、パワーアップしてから他の地に向かいましょう」

 

 「ふむ。武器は両手剣か?」

 

 「ある程度お選びいただけます。」

 

 そう、原作では両手剣のみだったが武器に幅を持たせ面白さアップを目指した。

 

 「基本的な両手剣。片手剣と盾。二刀流用の小太刀に刀。暗器の類や銃。ファンタジー用に魔法の杖なんかもありますよ」

 

 「武器なんて俺は使ったことないぞ」

 

 現代っ子なめんな。今の世代のゲーマーに武器武装の心得などあるわけがない。

 

 「その点は、武器に慣れて頂く他ありません。その為の一番最初のステージですから」

 

 メタ発言かよ・・・。まあいい、このままでいこう。


 「わかった。なら扱いやすい武器を頼む。」

 

 「畏まりました。ではこれはいかがでしょうか」

 

 天使が差し出したのは、バスタードソードとバックラー(小盾)付きの小手だった。

 

 「これでしたら片手剣と両手剣どちらにも使え、バックラー付きの小手で手を開けたままガードもできます。」

 

 「なるほど、うまいものだ。魔法は使えるのか?」

 

 「まだ、何も習得・・・いえ、回収しておりませんので杖を使用した場合のみファイアーボールの魔法を打つことができます。」

 

 これも変更点の一つだ。原作では回収をしなければ使えなかった魔法も、『魔法用杖』を持てばワンランク上の魔法まで使えるようになる。しかも、杖を使う限りMP消費も無しだ。

 

 ただし、魔法攻撃無効を持つ敵を用意したから『星屑の魔法無双』はできないようになっている。

 

 「わかった。今回はこれで行こう。鎧などは無いのか?」

 

 「詳しい説明はレベルアップの時に致しますが、マスターのレベルが上がるまで服装はそのままでございます。」

 

 今の自分の服は、VRアバターが使っている服そのままになるように設定している。つまり、俺の場合は黒いシャツと灰色のジーパンだ。

 

 「そうか。よし!地上に降りて魔物を倒すとしよう。」

 

 「畏まりました。地上行きのエレベーターは三種類ございまして・・・右が『即地』中が『原作速度』左が『ゆっくり』でございます。」

 

 「・・・ここは原作に準じるとしよう。『中』で行く」

 

 「承知しました。」

 

 俺が示すと同時に真ん中のエレベーターのガラス戸が開いた。

 

 「では、中にお入りください。」

 

 言われるがまま、中に入るとガラス戸が閉じる。すると・・・足元がパカッと開き、真っ逆さまに地上に落ちた!

 

 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・。」

 

 プシュー。という音と共にエレベーターの床が元に戻ると、天使はハンカチをヒラヒラさせて主を見送った。

 

 

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 


 自分の絶叫以外に原作の落下時のBGMが流れ、円状に石を置いた落下地点の間際まで来ると暗転。

 

 目を開ければ森の中、『初源の地』ACT1だ。

 

 ここはアクションゲーム初心者でも5、6回やればクリアできるように作ったつもりだ。原作は2Dなので一本道のルートだが、こちらはVR。ルートは3つ用意した。

 

 一つ目は解り易く目の前の道を行く『原作通り』のルート。これはそのまま森の中の道を進み、迫り来るモンスター達を切り伏せ突破するルートだ。難易度は原作を忠実に再現した(つもり)なので程々だ。

 

 二つ目は森の中の道なき道を突破するルート。目の前の道を無視して藪の中を進み、潜むモンスターやトラップ又は自然と戦いながら突破するルートだ。難易度は当然高い。しかし、それなりの賞品も置いてあるのでクリアした人は喜べる仕様となっている。

 

 三つ目は・・・リタイアするルート。文字通り天空の神殿に戻り、天使に地上を殲滅してもらうルートだ。これは『地上の町育成に力を入れたい』『アクションなんてタヒね』という人の為の措置だが・・・圧巻なので一度ご覧あれ。

 

 「さて、まずは武器の練習だな。」

 

 時間制限等のものは基本外してある。しかし、好きな人のために『オプション』で付けられるようになっている。

 

 原作では武器を振るたびに「ハッ!」「ハッ!」と、気合の入った声が出るように設定されているがこれは当然OFFだ。一応ONにもできる。


 剣の重さを確かめ、盾での構えを確認し、一通り動いてみて状況を把握。前に進むと・・・。

 

 前方から青い色をした小人がやってくる。ここでは『ゴブリン青』と呼んでいる奴で、地上を歩いて体当たりするしか能の無いモンスターだ。だが侮ることなかれ、踏んでも倒せたりはしない。

 

 この辺のダメージ発生に伴うあれこれは、現実リアルと殆ど同じだ。つまり・・・。

 

 「オラァ!」と、蹴りを放っても倒せたりする。当然、剣で切る。殴る。木の枝を突き刺す。等の行為をしてもOKだ。

 

 ちなみに、原作ではダメージを与えると一瞬止まる『ダメージ硬直』があったりするが。こちらはVR仕様なので『ダメージ硬直は無し』にしてある。

 

 モンスターは死亡判定がでると「ボン!」という音と共に爆発して消える。この爆発にダメージ判定は無い。

 

 「さあ、どんどん行こう。」

 

 とりあえず、通常ルートを進むことにして森の中の道を行く。自分がモンスターを配置したのに、一々出てくるモンスターに驚きつつ進む。

 

 途中、ゴリラを切り伏せ、茨を飛び越え、でかい蜂の突進をかいくぐり、木人と戦闘する。

 

 モンスターは友人に作成してもらった、すごくリアルな奴らだ。リアルすぎて帰りたくなる程だ。

 

 ザックザック切り伏せながら進むと、スタチュー(白い彫像)が見つかる。これは、壊すとアイテムが出てくるモノだ。

 

 「てい」

 

 蹴り壊すと、中からリンゴが出てくる。このリンゴは回復アイテムで、手に取ると勝手にHPを回復する。保存なんて甘えは許さない。

 

 「あれ?バグか?」

 

 手に取ったリンゴが無くならないのだ。これでは、持ったままで永遠にHPを回復し続けてしまう。

 

 ・・・と思ったが、HPバーを確認してみるとHPが回復していない。

 

 「あ?なぜ回復してないんだ?」

 

 ・・・少し考えて、リンゴを齧ってみる。

 

 「うお!うめえ!」

 

 このリンゴ、味がしやがる!。しかもなかなかうまい。確認してみるとHPが回復しているようだ。

 

 「どっかで仕様変更したっけかな?」

 

 自問してみるが・・・覚えていない・・・。

 

 「ま、いいか。」

 

 後で仕様をチェックするとして・・・。先に森の攻略だ。

 

 

 

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 

 しばらく森を進むと、急に開けたところに出る。

 

 「ここだな、ボスのいる所は。」

 

 『初源の地』ACT1、ボスはケンタウロスの槍兵だ。元のゲームは突進チャージと雷攻撃の2種類だけだったが、VR化するに当たってAIを搭載。武器を斧付槍ハルバードに変更。雷も遠くに落せるようにした。

 これにより、難易度アップをはかる事に成功。もうザコなんて呼ばせないぜ!。

 

 「さて、雑魚はとっとと片付けよう。」

 

 俺の声に憤ったのかは知らないが、早速突進してきたのでさっとかわす。身長3mの馬が突進とか笑えない。

  

 「怖えぇぇ!でけえよ!」

 

 距離を取ったことで油断してたら・・・。

 

 ドォォォォン!

 

 と、雷を落されて・・・。

 

 

 「あれ?ここは・・・」

 

 「残念でしたね。でもマスターは、諦めると言う事を知らないお方。私は魔物を倒して、戻ってくるマスターの颯爽とした姿を見るのを、楽しみにしていますよ。・・・プププ。」

 

 「おい、今笑っただろ。」

 

 「そんな訳ありません。私はマスターの忠実な僕。決してそのような・・・プププ。」

 

 ・・・とにかく、俺は負けてしまったようだ。元のゲームには残機があったが、VRには残機のシステムはない。その代り、HPの量を大幅に増やしてある。

 

 「あの雷、そんなにダメージが多かったか。」

 

 「はい。ケンタウルスのサンダーは、一発でマスターのHPを6割程減らすでしょう。」

 

 「は?そんなにか。ゲームバランス的にはもう少し緩くした方がいいかな?」

 

 「いえ。いまのままが良いでしょう。世界を支配する魔物のボスが、そんなに弱いはずがないのですから。」

 

 なるほど、それはそうだ。それにいざとなったら、天使に殲滅してもらえばいい。

 

 「よし、もう一度だ。」

 

 「畏まりました。地上にはどれで向かわれますか?」

 

 「ゆっくりで」

 

 「ヘタレ。では左の入り口にお入りください。」

 

 「おい!ヘタレとか言っただろ!。」

 

 「そんな訳ありません。早くお入りを。」

 

 「お前、いい性格してんな。」

 

 「マスターには劣りますがね。」

 

 俺は入り口が開いている左のエレベーターに入った。・・・すると、棒の柄が下がってくる。

 

 「それをお持ちください。」

 

 天使に言われるがまま、その柄を持つと・・・パカッっと足元が開き・・・ヒューっと落下し始める。

 

 「うわあぁぁ。さっきと変わらねーじゃねーかー。」

 

 「いいえ。上をご覧ください。」

 

 上、つまり柄の先を見ると・・・傘が開いていた。

 

 「こんなもんで、速度が変わるかぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・。」

 

 天使は、笑い転げていた。

ゲーム内容についての質問、苦情については受け付けてはおりません。

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