天使界からの刺客とか冗談じゃ済まんだろ。3
時計の針は午後一時を回った辺りである。僕らは次にやって来るであろう刺客の存在に恐怖している真っ最中だ。
一人目の刺客、レミファー兵士長は何故か僕らの味方をすると言い放った。
よくわからないが、天使さんに何かを吹き込まれた様である。まったく、一体何の話をしていたのであろうか。
天使さんに聞いても、
「禁則事項です。」
…と、ウインクを交えた悩殺ポージングで返り討ちに遭うし。
レミファー兵士長に聞いても、
「ああ、うん。いやぁ、空が青いなぁ~。……この空を眺めていると天使学校に居た頃の事を思い出しますね。プールの授業かぁ…、なんて懐かしい。暗い水の底からのあの……真っ青な空の色にそっくりだ………。ビーアンビシャス、俺。」
なにやら彼の暗い過去を掘り出してしまい深くまで追求が出来ない状況に追い込まれてしまう。
そんなこんなの午後一時。
「どうしたもんか……。」
するとインターホンのベルが鳴り響いた。
「………!!…まさかもう次の刺客か!?」
いやそんな、早すぎやしないかい?ついさっきレミファー兵士長がやって来たところなのに。少しくらい休憩を挟んでくれたって良いんじゃないのか?
まあ刺客とも限らないか。
もしかするとこないだ通販で買ったMacのノートPCが届いたのかもしれないな。
恐る恐る壁に掛けられたモニターを確認すると、
『やあ、御機嫌のようだなマモリン・モンロー!!世界は広いね、まさかマモリンに愛人ができるなんて。予想だにしなかったよ!では早速家に上げて貰おうか、せっかくマモリンの家まで出向いてやったんだ。ちなみに俺が一体何をしに来たかというと俺なりの偵察ってやつだ!よろしく!!』
「…………、よ、代茂木………!!」
裏方寺代茂木。
中学生の時に知り合って以来の腐れ縁仲である。
そんな奴には複数の二つ名が存在する。
『愛の紡ぎ手』『恋の裁判官』『ファッククレーマー』etc……。
その名の由来は、代茂木の他人の色恋沙汰への激しい首の突っ込みようである。奴の『見知らぬ恋は我が手中に収めてやる』というポリシーの様な、おせっかいは人智を超えているのだ。
ある意味、天使界からの刺客よりも厄介な存在である。
「真守くん、このモニターに映っている少年は君の友人かい?」
「……あぁ、そうだよ。最高のトラブルメイカーだ。」
「なんだか面白そうな人だね~。」
「て、天使さん!代茂木にそんな可愛らしい表現は通用しない。奴は他人の恋のためなら何だってする……恐ろしい奴なんだ。」
……代茂木を比喩を交えて例えてみると、
【エラ呼吸出来るティラノサウルス】
人類にもはや逃げ場は無い。
……具体的に例えてみると、
【可愛げに溢れてなおかつ超親切なマツコDX】
どうやらこの地球上に我々人類が気を休める土地は存在しないようだな。
「それくらい危険な奴なんだよ。あ、お前ら翼だ。さっさと引っ込めないと……。」
天使の翼が代茂木に見られてしまう。
そう言おうとした瞬間だった。
「お邪魔しまーす!!」
いつの間にか代茂木がリビングまでやって来ていた。一体どうやって入って来たんだよ!!玄関の鍵はかけておいたはずだ!
「「………………………あ…!!!!」」
しまった、翼を見られてしまった……!!!
「………え。」
いつも笑顔の代茂木の表情が瞬時に凍り付く。
そ、そんな顔をしないでくれ代茂木!にぱぁっといつものリアクションの一つくらいしてくれよ!!
「うわ…………て、て、天使……!!マジ、天使?!」
く、くそ。こうなりゃヤケクソだ!
「そうだ!天使だよ、代茂木!これが僕の愛人だ!!」
……何を言っているんだ、僕は。
あるよね、言ってから後悔するアレ。
しかし、この時の僕には開き直る事しか出来なかったのであろう。そう、この時の僕には知る由も無かったのだ。
だってそうではないか、代茂木は僕の中で一二を争う親友の一人だったんだ。
学校ではいっつも一緒につるんで、馬鹿な事を言い合って、お互いを信頼して、支え合っていたではないか。
しかし、
「……お、お前ら!俺を捕まえに来たのか!?」
そこに、僕の知っている代茂木は居なかった。
「…………レミファー兵士長!!」
「ああ、わかっている!!」
天使である二人は代茂木に対して身構えた。
「こんなところに悪魔が逃げ出しているとはな!ゲットアンドホールド!俺!!」
「……………………はい?……悪魔?」