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流石に天使が避雷針に引っかかるのはどうかと思う。3

これは一体何をする道具なの?」

「ああ、それは携帯電話といって離れた場所に居ても言葉を交わす事が出来る道具なんだ。」

なんとか食事を終えてからというもの天使さんは我が家にある電子機器に興味を示しだした。

「へぇ…、どうやって使うの?」

「そこの数字が書いてあるボタンを押して話したい相手の番号に掛けるんだよ。電話帳から選んだ方が早いけどな。」

僕の携帯は先月新調したばかりの某電話会社のスマートフォンである。まったくスマートフォンの機能の多さには圧倒されてしまう。それと比べれば以前の折り畳み型の携帯電話なんて言っちゃあ悪いがクズ同然である。

完全に余談だが、数年前に放送されて人気を博した『携帯捜査官セブン』という特撮ドラマではセブンという名前の動いて喋る折り畳み型の携帯電話が登場するのだが、もし再び『携帯捜査官セブン』が新作として放送されるとしたらセブンはスマートフォン型になってしまうのだろうか?

時代は流れ行くのが必然ではあるが、それはそれで寂しいモノである。

「………あ、すごい本当だ、ここから人の声が聞こえる……!」

「って、おい!勝手に電話を掛けるなよ!!」


『み、宮城祇!?なんで宮城祇から掛かって来たのに女の声が聴こえるんだ!?』


「すまん代茂木(よもぎ)!!間違い電話だ!」

『……ッ間違……〜?』

僕は天使さんの手からスマートフォンを取り上げてすぐに通話を切った。

何が起こったのか全くわかっていない天使さんはキョトンと僕の行動を見つめているだけである。

「ご、こめんなさい…。何か悪い事をしちゃったのかな………?」

「いや……あはは、良いよ別に…………。」

まずいな月曜日に学校で代茂木に何を言われるかわからないぞ。もちろん馬鹿正直に天使と同居しているなんて言うわけも無いが、隠し通せるかが問題である。

代茂木は昔から女に関係する物事に限って勘と洞察力がすこぶる優れるフシがあるので注意が必要だ。自分の事になるとそうでも無いのだが……。

もし奴がこの家に突然乗り込んで来たりすれば、天使さんの背中に生えている翼を確実に見られてしまう。そうなれば一環のお終い、一体どう説明したら良いのやら。

「……今ふと思ったんだけどさ、天使って背中に翼が生えているじゃん。寝る時はどうしてんの?常に横向きに寝ている訳?」

だとすれば天使という生き物はかなり不便で、なおかつ完成度の低い種族ではないのだろうか?勝手な自論ではあるが飛べないという点もふまえると信憑性も増しそうだ。

「その事なら問題無いかな。私達天使の翼は消す事が出来るからね、寝る時の姿は人間とまったく変わらないんだよ。」

「翼を……消す?一体どうやって?」

「私達天使の翼は神様に与えられたモノで、元々天使が持っていたわけでは無いんだよ。五回目の誕生日に神様から与えられる天使のチカラの象徴である『セフィロスの腕輪』を使って初めて翼がこの背中に具現化されるんだ。だから『セフィロスの腕輪』の発動を解除すればこの翼は無くなっちやうってわけなんだよ。」

「……………へぇー。」

さっぱりわからん。

簡単に言えばアレか、結局寝る時は翼を引っ込める事が出来るってことなのか?

「つまりはそういう事。」

なんだか人類史的にトップシークレットな情報を掴んだ気がする。


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お風呂に入っているひとときが僕にとって唯一自分に浸る事が出来る時間である。湯気で霞んだ天井を見上げながら今日一日の出来事を振り返る、そして余裕があれば未来に期待を煽りさらに過去に起きた失敗談を掘り返しては自分なりに消化して結論付けて行く。そうやって僕が今立って居る現在地を改めて確認する事が出来る。

「……………はぁ、」

実は天使さんの居候の許可を下したのにはもう一つ別の特別な理由がある。

昔、まだ僕が幼い頃に事故で亡くなった妹になんとなく似ているからだ。

だから無意識の内に情が湧いてしまったのだろう。

似ていると言っても彼女が死んだのはすでに十年近くも前の出来事なのでその顔をはっきりと憶えているわけでもないし一緒に遊んだ時の事も薄らぼんやりとした記憶しか残って無いのだが。玄関に飾っている小学生の時に撮った家族写真に写った妹の顔が何故かあの天使さんと凄く似ている。


他人の空似。それも天使と人間、似ても似つかぬ他人同士も赤の他人。


「それなのにこんな偶然ってあるんだな……。」

天使さんの名前はフィリー・アクィナ。

死んだ妹の名前も宮城祇秋奈(みやしろぎあきな)だったし、アクィナと秋奈の語感が何気に似ている気がする。事実、『アクィナ』の日本語読みは『あきな』だ。だがまぁこんなのはただの偶然であり、何か特別な運命を持ってして起こった奇跡などでは毛頭あり得ない現象である。

少なくとも今の僕はそう思っている。


そう思うことが一番正しくて、正解で、常識に囚われたままの自己防衛であろう。


「……僕も面白くない人間になってしまったな。」

まったく感慨深い成長証明である。どうやら僕の幻想と無謀な切望は進むべく道の選択肢から除外されてしまったようだな。


それからしばらく物思いにふけっていると、脱衣所に誰かが入って来たらしく物音が聴こえた。

……天使さんがまた何かやらかしたのだろうか?天使さんにはテレビ以外の電子機器は使用禁止だとちゃんと言っておいたのだがな………。

「天使さん?テレビのチャンネルの変え方でも聞きに来たのか?」

大方そんな事だろうと思い、脱衣所に向かって呼び掛けてみたが、返事は無かった。

「…………声が小さかったか?……おーい天使さんだろ!?」

「あ……真守くん何か言った!?……ごめんね衣擦れの音で聞こえなかったみたい。」

「なんだそうだったのか…………………………………(衣擦れの音………?)」

衣擦れの音とは衣服を着用する時や脱衣する時に生じる衣服同士がこすれて発する音の事である。

「それにしても人間界の脱衣所って凄く狭いね。」

「まぁ…、そりゃ~風呂は大抵の場合一人で入るもんだからな。」

「え、人間界では一人で入るの?天使界では大きなお風呂にみんなで入るんだよ。」

そして風呂場の扉は開かれた。

さあ、ここで前言撤回させて貰おう。

天使と人間は全く違った生き物であると!

「は、はい!?………い、一緒に入んの?!」

生まれたままの姿の天使さんがすごい不思議そうにこちらを見つめている。なんだこの二流ライトノベルありきの展開は!

「ご、こめんなさい……、タオルくらいは巻いた方が良かったかな……?人間って凄く礼儀正しい生き物だもんね。」

「…そ、そういう訳じゃ無くてさ………!!は、裸は…ちょっと…………!!」

ま、マズイぞ………!今自分がどんな顔しているか全くわからん!

「………………うッ、」

さらにやばいな……長時間風呂に浸かっていたせいで頭がのぼせてきた。

し、しかし流石は天使といったところか……、彼女の四肢はまるでルネサンスの彫刻作品の様に無駄の無い艶かしいフォルムだ。

顔付きは幼げな雰囲気をしているのに、その美しい身体が全てを裏切っている。

これほど三次元的な現実さえも裏切ってしまっている完璧な四肢は初めて見た。なるほどこれを見れば数々の画家達が半裸の天使を古より描き続けて来たのかが理解する事が出来る。

「しかしもうダメだ…………!」

この肉体を直視するのは僕にはまだ荷が重かったようだ、あまりにも刺激が強すぎる。どうやら僕はまだまだ純粋でケツの青いガキだった様だな。

ただ、ただ一つ言いたい事がある。


「…………か、神様、あ、ありがとう……!!」


「ま、真守くん!?大丈夫?……おーい、真守くーん!!」

そして次の瞬間、僕の意識はフィードアウトした。

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