神様、どうやら僕は不幸な星の生まれのようですね。3
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神には、一つだけ、けれども深刻な悩みがある。
それは、笑顔以外の表情が作れない、ということだ。
その原因は永遠にも似た時を、延々と笑顔で過ごして来てしまったからである。
永い時の移り変わりと共に、笑顔以外の表情の作り方を忘れてしまったのだ。
『どんな手を使って頂いてもかまいません。とにかく、私の表情を取り戻して下さい。正直言わせて貰うと、……死にたくなります。神がこんな事言って良いのかわかりませんけど、とりま死にたいです。表情が変えられないとか終わってます。ハルマゲドンが私に集中砲火です。私は今物凄く哀しんでいるのですよ?………ですが、ご覧の通りの微笑み顔。イラっときますね。』
神は一輪の花を勢いよく引きちぎった。
『よろしくお願い致します。報酬は、フィリーちゃんから聞いた通りなので。』
「ちなみに審判はこの私、天使長ミファエルが務めさせて貰う。異議は無しだ。」
「では、早速。この私からいかせていただくわ。」
シャルロットが一歩前に踏み出し、
かくして、天使界、神様救出作戦が始まった。
「前から思ってたんだけど……、あんたのその笑顔ってウザいのよね。」
瞬時にして空気が凍り付く。
「何その顔、あんた神なのよ?全くもう、夢に見るじゃない。そのファニエストフェイスを拝んだ人間達はゴットがトラウマ間違いなしね。ダ・ヴィンチには可愛く描いて貰ってたけど、無意味な努力よ?それ。哀れな神様。人間達の上に立つ者としてそれはどうなのよ。」
「…………………。(………………シャルロットくぅぅぅん!!!!!良いのかソレ!?つーか何そのテンションの高さ!神様じゃなくて天使長の表情が凄い事になってるんですけど!)」
「どうなのよ、なんか言いなさいよ、笑顔のままじゃコミニケーションとれないわよ?まさに現代の若者ね。どうせBL小説読んでるんでしょう。眼鏡のやさ男達が孕み合っているシーンをプリンターでコピーして部屋中に貼りまくってんでしょう?知ってるわよ。あんたが変態なのは天使界でも有名よ。千年以上生きてても処女のままなこともね!!」
神が、笑顔のまま涙を流した。
「バージンゴットとか羞恥極まりないわ。そんな肌が露見した服着てるのにね!誰からも女として見られて無いって事なのかしら?可哀想すぎるわ!!!ちなみに私はもう処女ではないわよ!?天使に劣るバージンゴットね。ちょっと服を変えてみる?もうちょっとエロくしてあげるわ!そしたらカワハゼみたいな男はむらがって来るわよ。……ほら、ここをもっと捲り上げて、お腹なんか全部出しちゃいなさい。ていうかあんたブラ着けてないの!?ちょ、可愛い!つかちっちゃ、あんたの胸何カップ?せいぜいB+ってところかしら!?」
『…ひゃぅ…!!』
「子どもみたいな身体ね、ていうか私より背低いじゃん。神様萌えね。何これ新ジャンル?神様ロリッ娘とか可哀想。フィリーちゃんの方がよっぽどあるわよ。」
「「(……か、神様可愛い!!)」」
「ほら、見なさいよ、あそこでレミファーと天使長があんたに発情してしまっているわ。」
「「読心術!?」」
『…………、私って、ロリッ娘体型なんですか?』
「ええ、つるぺた幼女。つーか性奴隷ね。お家に帰る途中に拉致監禁されたって感じよ。」
『………………………。』
「…どうかしたの?もしかして今更己の醜さに気付いてしまった感じ?残念ながら遅いわね。手遅れよ、貴方の存在自体が手遅れなのよ!……うふふふ、ゾクゾクくるわ……!!己に対する絶望と内面から攻め続けられる恐怖に耐えかねて流れる涙!あんたこそ本物のドMよ!!やーい!変態!変態神様ー!!」
『……ひっく、……うぐ、う、……………うわぁぁぁぁあーー!!!!み、みふぁえるー!シャルロットが私のこといじめるーー!!!』
「……か、神様………!笑顔のままそんな事言われてもかなり怖いです。……ちょっ、笑顔が恐い!!!」
五分後。
「……いや、あれマジで致命的よ。この私があれだけ愚徳の限りを尽くして放った愚言ですら狂気の笑顔は崩せないのね。」
「……神様、可哀想……。どうにかなりませんか?兵士長。」
「………そうだな………、そんじゃあ、お次はこの俺様の番だな!!」
はやくも第二回戦の火蓋が切って落とされた。
「……ていうか、神様と天使長は?」
「………そういえばさっきから見あたりませんね。」
「……あそこよ、天使長がずっと神様を慰めているの。」
【以下の悲劇は、各所端折ってお送り致します。】
「俺様の生きてる価値について説きたいのだ。俺様、誰からも望まれて産まれた存在では無い。しかし貴方はどうだろう、多くの人間達から敬われ、我々天使からも絶対的な忠誠と信義を尽くされている。しかし俺様は下等で、最低の名を授かり幼き頃からの疎まれ者だ。そんな俺様が貴方に問う、貴方は、クズだ。」
『……ひっく、えぐっ、う、………うわぁぁあ!!』
「レミファー!!あんたね!神様になんて事言ってるのよ!!」
「シャルロットくんこそエグロい事言ってたじゃないか!!」
【端折ってます。】
「チビ!!貧乳!ぺったんこ!つるっつる!!ノーブラ!!露出魔!!変態!!!」
【端折ってます。】
「俺様ってなーんで生きてるんだろ………。生きるのって面倒だよね。そろそろ良い気がしてきた。………死のっかなー?死のう、俺様生きてる価値なんてないね。……いや、ちょっと待てよ、……案外死ぬのも面倒だな。痛いし、苦しいし。俺様クズだなー。」
【端折りました。】
そして神の涙が枯れた頃。
二人の天使の精魂も尽き果てた。
「……神様、最後はわたしです。」
最後に残された一人の少女。
『……わ、たし、はわるく……ない。…もう、や、めて………!!』
「大丈夫です、神様。私は…何もしませんから。」
『……ほん、と?痛いこと…しない?……わたしは泣かなくて、いいの……?』
「……、神様、そんな演技いらないです。」
すると、何か大事なモノを失ってしまい途方もない絶望感と共に溢れ出る涙すらも枯れ落ちた落ち葉の如く精魂尽き果てていた神様がヘラっと顔を上げた。
『……あはは、ばれてましたか。』
「……バレバレです。」