特別な感情
「あー、ヤバイな…。ドキドキしすぎだよぅ…」
最近、先生にドキドキしすぎなんだよね…。前からドキドキはしてたけどさ…。
私が更衣室の前でドキドキしていると、ドキドキさせている張本人が声をかけてきた。
「新垣??どうした?具合でも悪いのか…?」
心配そうな顔をする先生が愛おしい。私のことを心配してくれてるの??こんな私を…?
急に居なくなった私を心配したのか、私の顔を覗きこんできた。
「な、何もないよ!心配かけてごめんね…」
私が言っても先生の顔は晴れなかったけど、無理やりプールの方に押し戻した。時々、チラッとこっちを向く先生の優しさが心に沁みた。
先生はやっぱり最高の先生だね…。生徒のことを誰よりも心配してて…。
私は大きな深呼吸をひとつしてから先生の待つプールサイドへと戻った。先生は優しくて私に気を遣って話しかけてきてくれたり、自分のタオルを濡らして私のおでこに乗せたりしてくれた。
「あんま無理すんなよぉ~?」
眉を下げて笑う先生。無理なんてしてないよ…。むしろ、幸せすぎるぐらいだよ…。こんなに先生に優しくしてもらって。私は幸せです。
「先生…」
残りの時間は自由時間として私の隣であぐらをかく先生に話しかけると、笑顔で振り向いた。
「ん?」
「ありがとう…」
私が言うと少し顔を赤くした。こんな顔もするんだ…。
「…んだよ、いきなりぃ~!照れるじゃん!」
私の頭をグシャグシャにする横顔は見たことのない顔だった。意外な一面を見た気がした。こんな顔、他の人の前でするのは嫌だよ…。みんなが先生を好きになっちゃうよ…。
「なんかあったらいつでも俺に言えよ?大事な生徒なんだからな!」
笑って言った言葉。嬉しい言葉なのに、”生徒”という言葉が心に突き刺さった。
やっぱり先生は私の事”生徒”としか思ってないんだね…。いままでもそうだったように、これからもそれは変わらないことなのかな…?『特別』な感情を持ってるのは私だけ…?
「う…ん…、ありがとう…」
絞り出すように声を出した。大事だって思ってくれてることは嬉しいよ。凄く嬉しいよ。だけど…、それ以上のことは何も無いってことなんでしょう?
プールを見るようにして見た先生の横顔はなにか悲しそうだった。
「先生…?どうしたの?」
見てられなくて先生に話しかけた。するといつもどおりの笑顔が返ってきた。
先生のその笑顔の下にはなにか悩みでも抱えているのかな…?私は「どうしたの?」って聞くぐらいしか出来なくて、それが先生の為になっているのかも解からず、ただの無神経な奴って思われてるかもしれないけどそれでも私は…………。
何でしょうね…。