受けられない授業
ボーっとする私の前を男子も女子も騒ぎながら通っていく。我がクラスはこれから体育なのだ。それもプール。私は捻挫して入れないから…。
先生の授業…受けたいなぁ。こんな捻挫、入ろうと思えば入れるんだけど、その後から何かあったら先生に迷惑掛けちゃうもんね…。
騒ぎながら、更衣室に向かう男子、女子を横目で見ながらだらだらと歩く。すると後ろから、ぺしっと硬いもので叩かれた。
頭を抑えて振り向くと、先生が笑いながら立っていた。
「……痛いぃ」
私が言うと眉を少し下げて笑う。この笑い方、好きだな…。
「なぁに、だらだらと歩いてんだよ!俺様の授業なんだから、楽しくいかないとなぁ?」
このとき、だらだらと歩いてて良かったと、心底思った。神様ぁ、ありがとぉ!
「でも私、入れないもん…」
チラッと左足首を見てから私に視線を戻した。そして、にっこりと微笑んだ。
「カルシウム、ちゃんと摂れよぉ?」
そう言って、私の頭をクシャっと撫でるとそのまま歩いていった。
私との話が終わると、男子が先生の周りに集まってくる。先生は立ち止まって話している。その横顔が、すごくカッコよくて見とれてしまった。
先生のひとつひとつの仕草、動作にキュンッとする。改めて、先生のことが好きなんだなぁって実感した。
外に出ると、空がどこまでも碧く広がっていた。雲ひとつなく。太陽の日差しが眩しい。
こんな日に先生の授業…受けたかったな。
太陽の日差しを避けて、影を歩きながらプールへと向かった。プールに近づくと、先生の声が聞こえてきた。低くてよく通る大好きな声が…。
「おらぁ!新垣ぃ!プール入れないからって、だらだら歩くなぁ!」
いきなり私の名前を呼ぶ声。
私だって、入りたいよ…。先生の授業を受けたいよ…。
私は涙が零れるのを堪えて、俯きながらプールサイドへとやってきた。
授業が始まると、勢いよくプールに飛び込む男子達。それを大声で叱る先生。
「勢いよく飛び込むなぁっ!」
それを影のあるところから眺めていた。水面がキラキラ光ってて、みんなの顔に当たって輝いて見える。その中でも一番輝いて見えるのは、いつものジャージ姿でみんなを見ている先生。
捻挫なんてなければ………。そう思って下を向いていた。するとその時、上から声がした。
「美紅さぁ~ん?」
笑いながら隣に座った。今、「美紅」って言った!!うわぁ~!!
「何ですかぁ?光治さん」
言い返すと、頭をコツンと叩かれた。
「光治って言うなぁ!」
子供みたいに大きな声を出して言う。先生が子供の時ってこんなのだったのかな?…ってことは、今も変わらないってこと…??
先生の子供時代を想像してニヤけてしまった。
「何ニヤけてるんだよっ」
「別に~ぃ?」
私が言うと、口を尖らせてそっぽを向いてしまった。可愛すぎるよ、先生…!!
「拗ねちゃった?」
するといきなり立ち上がって、私を見下ろした。
「拗ねてませぇ~ん!!」
そう言うと、プールの近くに歩いていった。
ダメだ…、可愛すぎる…。なんでそんなに可愛いの??私と………10コも違うのにぃ。
私はその場に居られなくなって、更衣室の方へと向かって歩き出した。
う~ん……←