アルファード様との出会い
今日は上手くいきそうだわ。
だって、あのカレンが、体調を崩しているんですもの。
あの女は嫌いだ。
いっつもキリッとしてて、頭悪いくせに良さそうに見えて、隙がなくって、しかもアルファード様の婚約者だからって、いっつもベッタリくっついてる。
たかが、幼なじみとして産まれただけなのに、ずるいわ。
カレン程度が婚約者になれるなら私だってなれる。
頭もいいし、
可愛いし、
愛嬌もある。
絶対に王妃になるなら私の方が相応しいわ。
アルファード様も私をちゃんと見てくれれば、カレンがどれだけ凡人かわかって、どれだけ私が非凡な女性かわかってくれるわ。
そう思って何度か近づこうとしたのに、カレンが壁のように立ち塞がって近づくことも出来ない。
権力欲しさに他の女を蹴落そうとしてるのが丸見えだわ。
アルファード様を好き、というオーラを出しているけど、好きなのはそこに約束された王妃、という椅子が欲しいだけなのよ。
あさましい女だわ。
早くアルファード様を救ってあげないといけない。
だから、
ついに、
ついに、
チャンスがやって来ましたわ!
あの憧れのアルファード様に、私、をちゃんと見てもらうんですわ。
髪の毛のリボンも巻き直して、スカートも整え、お気に入りの香水をほんのちょっぴりつけたして、化粧直しもして、万全ですわぁ。
あっ、あと今日は特別に、“とっておきのハンカチ”ですわ。
何時でも使えるように鞄にいつも入れていますのよ。
白地に薄ピンクの花が刺繍されてて、お母様に「男の子はこういうのが好きって本に書いてたわよ」ってもらったやつなんですの。
ふふっ、こういうの、男子は絶対弱いんですのよね。
さて、問題は、アルファード様、どこにいらっしゃるかしら〜〜って、探していたら
きゃっ、見つけましたの!学食から出てきたところですのね!
なんかちょっと不機嫌そう?
ああ、いつもお弁当ですものね。行き慣れていない食堂だと、確かに落ち着きませわね。
あらん。
都合よくおひとりですわね。
よし、ここで作戦実行ですわぁ。
ちょっとだけタイミングをはかって、距離をつめて・・・。
走っていって、スカートふわってさせながら、
「きゃっ、あん、ごめんなさぁい!」
バッチリ!ぶつかり方、ちょうどいい感じ!ちょっとだけバランス崩して、ふらりってして、
その瞬間!
ぽいっ。
ハンカチ、落ちましたわぁ〜。
ふわっと宙に舞った白いハンカチが、ゆっくりと、ゆっくりと、
彼の足元に、そぉ〜っと・・・。
ぽすっ
よしっ!踏みましたわっ!!
さぁて、次は息をのんでから、ほんのり涙を浮かべて、声を震わせて、
「・・・ああっ・・・踏まれて・・・しまいましたわぁ・・・」
この完璧なセリフと、上目遣いを忘れません。
わたくしの視線をたどって、彼もようやく足元に気づきましたの。
草花の刺繍がついた真っ白なハンカチ……今、くっきりと汚れがついちゃってますの。
「すまない、私が踏んでしまったようだ」
とても申し訳なさそうに謝罪してきた。
ちょっと以外たった。
貴族令息は、上から目線で、基本謝罪などしてこない。
ふうん。純情のか、単純なのか、どちらかね。
そっと差し出されたハンカチを、わたくしは両手で受け取りながら――
「い、いえっ、私が前を見てなくてぶつかったせいです。それにハンカチは私と一緒でアルファード様に近づきたかったのですのね」
少し頬を赤らめながらモジモジした感じて言うと、目を大きく開けた。
そして、頬が赤くなった。
「新しいのを用意するよ」
「まぁ!なんてお優しい心なんですの。アルファード様はとても王族とは思えない、優しく思いやりのある方ですね」
とびきりの笑顔で、お礼を込めて言うと、ますます恥ずかしそうに頬が赤くなり、嬉しそうにいった。
「そんな事・・・言われた事がない」
ピンときた。
カレンはアルファード様を褒めずに厳しく接しているんだ。
やっぱりねぇ。
本当に好きなら感情豊かに、好き、と言うべきなのに、カレンの好きは、権力だもんね。アルファード様を好きなわけじゃない。
「あら?カレンは言ってくださらないのですか?」
「お互い厳しく育ってきたから、褒める事はあまりないな」
「ええ!?そんな冷たい人だったのですか!?こんなにも優しくて、いつも努力なさっているのにぃ、気づかないなんて・・・アルファード様が可哀想ですぅ」
「いや、カレンは冷たいというか…少し厳しいだけだ」
「まぁ…それって、“厳しい”っていうより、“思いやりがない”って言うのではありませんの?」
「…いや、カレンはずっとそばにいてくれた。私の立場も、理解してくれてるからこそ、厳しくしているんだ」
「そうですわねぇ、長く一緒にいると、良いところが見えなくなりますものね。でも、本当に大切な方なら、些細なことでも嬉しいですわぁ」
もう一押しだわ
「でも…アルファード様。誰よりも努力なさっているあなたを、ちゃんと見て、ちゃんと褒めてあげられる人が、そばに居てもいいと思いますの」
「カレンは・・・そんなことも言わないんですね・・・。アルファード様可哀想・・・。沢山努力してるのに・・・ちゃんとみて上げて欲しいなぁ」
「・・・私を見てくれる」
「そうですよ。私なら、あ、なんでも・・・ありませんわぁ。このハンカチはこのままでいいです。とてもいい思い出になりました。ごめんなさいね、お時間取らせちゃいましたね。それでは、失礼します」
私は、頭を下げさっさとその場を去った。
こういう時は長居は無用だ。
もう少し話したかった、という名残を残りた方がいいのよ。
あとは、もう簡単だった。
褒められらことも知らないなら、褒めてあげれば、堕ちてくれる。
毎日アルファード様の頑張っているところを、凄いですわぁ、と褒めた手紙を下駄箱に、入れてあげた。
そういう事もされた事無かったみたいで、子供のように無邪気に微笑んで嬉しそうだった。
そうしたら、私の下駄箱にお返しのお手紙が入るようになった。
お手紙から、アルファード様の優しさが伝わってきますわぁ、
とか、
カレンがいるから、お側に行けませんわぁ、
とか。




