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シルビアについて

「あの態度はどうですの!? まだ、婚約者ではないんでしょ!? あ、カレン、お弁当はご馳走様でございます。これからもお願い致しますね。いつもながら美味しゅうございました」

怒りながらも、ちゃっかりと催促することは忘れない。

セリカは元々少しきつめの目をしている。私のために怒ってくれているのも分かっている。だけど、その釣り上がった目が、今日はひときわ鋭く感じて、少し怖い。

「まだよ。昨日、お父様が教えてくれたけど、在学中の2年間で王族としての相応しい礼儀作法を勉強してもらって、卒業後に正式に婚約するみたい。とりあえず今は、婚約者候補という形みたい」

「無理だわ、あの女には。基本的な挨拶もできないもの。社交界とか言うもんじゃなくて、朝の挨拶もまともにできてない。カレン、明日のデザートは桃のコンポートが食べたいわ」

お弁当箱を片付けながら、バッサリとステラが言い放った。

こちらも、催促することは忘れていない。

「わかったわ。でも、見てたのね」

「見てたというよりは、やっぱりね、って感じだね。シルビアはお父様の仕事の関係で、社交界で会うことが多いのよ。私も何度か挨拶したけど、完璧に無視された。というより、好き嫌いがはっきりしてる性格だな。自分に優しくしてくれる人には愛想いいし、そうじゃなかったら興味なし。確かに頭はいいけどね。それと、すごい食い意地が張ってて、食べ方が汚いのよ」

「そんなことないでしょ」

「いや、これがまた本当に・・・あまりの汚さに二度見するわ、いつも。足元にボロボロ食べかす落としながら、口いっぱい頬張るんだよ。あれは・・・ちょっと・・・。それを男子は可愛いって言うんだから、意味分かんなかった。確かに顔は可愛いし、男が好きそうな甘えた声を出すし、少しモテてるみたいだけど、その程度でアルファード様の婚約者は務まらないわ」

「噂では、私は可愛いから玉の輿に乗るのよ、とか言っていたみたいでしたから、まんまとアルファード様を捕まえたんでしょうね。でもそれなら、何か知りませんの? 2人の馴れ初めとか」

「もう、やめようよ。あまり人の悪口、聞きたくないし、関わりたくない。馴れ初めとか聞いても・・・なんか・・・嫌な気持ちになりそうだから・・・」

シルビアに言われた、

私が一番アルファードを知っている的な?

負け惜しみのつもりで教えようとしてた?

その言葉がずっと、胸の奥で反芻していた。

そんなつもり、毛頭なかった。

アルファードが好きな場所を教えてあげるつもりだった。

特に2人の秘密の場所でもない。

でも、外から見たら、そう見えたのかもしれない。

「・・・シルビアが選ばれたのよ・・・」

自分の嫌な考えを振り払うように、そっと首を振った。

胸の奥が、きゅっと締め付けられるように痛んだ。

乾いた空気の中で、自分だけが重たく沈んでいくような錯覚すらあった。

「ごめん・・・あまりにも2人が無神経すぎてさ。カレンはすごくアルファード様が好きだったのに、こんな簡単に他の女に心変わりするなんて酷いし、シルビアは、全然気品というものがないもの」

「そんなことないわよ。これから教育を受けるから、素敵になっていくわよ。私は、お父様がハリアー様と仲が良かったから、運が良かったのよ。ねえ、もうこの話やめよう。私はこれから好きな人を見つけるんだから、そっちの話しようよ」

無理に笑っているのは分かっていた。

でも、笑わないと、皆の心配の気持ちに寄りかかって、泣いてしまいそうだった。

「そう、ですわね。恋バナということですわね。今までアルファード様がおられたから、そういう話してませんでしたね。ここは、」

セリカが急に私の頭上を、ハッとした顔で見上げ、びっくりするくらいに目を見開いた。

「カレン、ここにいたのか」

背後から兄様の声が聞こえ、慌てて振り返る。

「兄様」

兄様と、見覚えのある2人の男性が一緒にいた。

私は慌てて立ち上がり、制服のスカートの皺を気にしながら、軽く会釈した。

「ご機嫌よう。オーリス様。ジムニー様」

私が微笑むと、2人は明らかに驚いていた。

「俺の名前を知ってるのか!?」オーリス様

「僕の名前を知ってたの!?」ジムニー様

「はい。屋敷に何度か遊びに来られてましたよね。ご挨拶はしておりませんでしたが、おふたりともとで礼儀正しい方だと見ておりました」

兄様が連れて来ていたのは、私も覚えている。

確かに、きちんと話をしたことはなかったけれど、名前は知っている。

そのときの記憶が、ぼんやりと蘇る。兄様の後ろでにこにこと笑っていた姿。

礼儀正しくて、けれど少し照れたような雰囲気が、今もそのままだ。

「へえ。良かったな」

ニヤニヤと兄様がからかうように笑うと、2人は顔を赤らめていた。

「兄様?」

「いや、この2人が」

「いや、もういい!」

「ソリオ、行こう!」

そう言うと、オーリス様とジムニー様は、無理やり兄様の腕を引っ張って連れて行ってしまった。

何だったんだろう?

「カレン!?あの2人を知ってるの!?」

「知っているんですの!?」

2人が私に詰め寄ってきた。

「う、うん。兄様の友達だから・・・。なんで?」

「なんで、て2人とも学園で凄い人気なのよ!」

セリカが力を込めて言う。

「そうですわよ!アルファード様ばかり見てたから全く興味なかったでしょう!?」

ステラも目を見開いて、真剣な表情でうなずいた。

「オーリス様はね、完璧な貴族男子なのよ!公爵家の嫡男で、顔は整ってて、落ち着いてるし、話す時も穏やかで大人っぽくて・・・あの眼差しだけで落ちる人、絶対いるわ。歩くだけで品があるの。まるで詩の一節みたいなのよ!」

セリカは手を胸元で組みながら、熱っぽく語った。

「ジムニー様も、ちょっとクールに見えるけど、実はすごく優しいのよ!この間、倒れた下級生を自分の上着で包んで保健室まで運んだって話、もう有名よ!それにあの目元・・・横顔、凄い美形!黙って立ってるだけでも絵になるし、それで侯爵家のご子息なんだから、モテないわけないの!」

ステラが勢いよく続けた。普段落ち着いた口調の彼女が、こんなに早口で話すのは珍しい。

「しかもあの2人、親友同士でよく一緒にいるから、並んで歩く姿がもう……目の保養なの。女の子達が廊下で、はぁ・・・ってため息つくぐらい!」

セリカが手を広げて、その光景をまるで見せるように言う。

「そうそう、しかも成績も優秀なのよ。オーリス様は文武両道で、ジムニー様は実技試験でいつも上位。先生達の信頼も厚いし、落としどころがないというか・・・」

「とにかく、隠れファンじゃなくて、堂々と『好きです!』って言う子も多いのよ!」

私は口を開けたまま、2人の勢いに圧倒されていた。

確かに2人とも綺麗な顔立ちはしていた。爵位もオーリス様は公爵で、ジムニー様は侯爵だから、人気があってもおかしくない。

「ふうん。そんなに人気なんだ」

「そうよ。いいなぁ、ソリオ様々だね」

「羨ましいですわ」

「そうかなぁ。ちなみに兄様は?」

何となく聞いてみたら、2人は微妙な顔をした。

「まあまあよ」

「そうですわね」

兄様、ちょっと残念な結果みたい。

聞かなきゃ良かったな。


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