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泣いてすっきりしました

何か物音や声がして目が覚めた。

ぼんやりとした視界の中で、柔らかい灯りが部屋の一角を照らしているのが見えた。

いつの間にか日が暮れていたらしい。

何時もならカーテンが閉まっている時間なのに、今は開けられているから、夜の闇を感じる。

ソファに座ってそのまま泣いて、寝てしまった。

「そこに置いてくれたらいい。何かあったら呼ぶから下がっていい」

「かしこまりました。では失礼いたします」

兄様と召使いの声が、扉の外から聞こえる。

少しして、控えめに扉を叩く音がした。

「カレン?起きてるか?」

起きてるか、と聞くという事は泣き疲れて寝ているとバレているのだ。

「起きてるよ」

そう答えると、安堵のため息が聞こえた。

「入るぞ」

扉がゆっくりと開き、静かに閉じられる音がしたのを確認し、ゆっくりと体を起こした。

「起きたのか?」

ワゴンを引きながら中へ入ってきた。

「・・・うん」

泣き疲れて、そのままソファで寝てしまったから、体がだるくて重い。クッションの跡が頬に残っているだろうから、こんな姿を召使い達に見せるの恥ずかしい。

「顔パンパンだぞ」

苦笑いする兄様に、むっとしてふくれながら答える。

「そんな事、分かってるわ」

目が腫れているのも、鼻がつまっているのも、自分がよく分かっている。何度も泣いて、何度も枕を濡らした。

涙はもう出ないと思っていたのに、寝起きの目がまだじんわり熱いのは、体がまだ心の痛みに追いついていないからかもしれない。

「泣くのは皆知ってるんだ。どうせなら皆の前で泣けばよかったんだ。父上も母上も、すごく心配してたぞ。お腹空いただろ?サンドイッチ用意してもらったから、少し食べろよ」

ワゴンからサンドイッチか

優しく微笑みながら、兄様は私を見つめてくる。そのまなざしが温かくて、また涙がこぼれそうになった。

「・・・うん」

机に置いてあるサンドイッチに目を向けると、香ばしいパンの匂いがふわりと鼻に届いた。少しだけ食欲が戻ってきた気がした。

泣いて、少しだけスッキリしたのかもしれない。

小さく一口かじると、柔らかいパンと卵の優しい味が広がる。味なんて感じないと思っていたのに、不思議と心が少しほぐれた。

サンドイッチを食べ出すと、兄様は少し安心したように息を吐いた。

「母上が、カレンに新しい婚約者を探してあげたら、と父上に言ってた」

「え?嫌だよ。心配してくれるのは嬉しいけど、見たこともない人と婚約なんてしたくないよ」

「私にはそんな事言うんだな。だけど母上が『この人に決めたわ』って言って連れてきたら、カレンは断らないだろ?」

意地悪そうに笑って、兄様はわざとらしく眉を上げた。

痛いところをつくなって、思わず顔をそらす。

「だって、私の事を考えたら・・・」

「そう言うと思ったから、私から反対しておいた。こういう言い方が慰めになるかは分からないけど、アルファード様だけが男性じゃない。・・・良かったのかもしれないよ。王宮から、アルファード様から離れてみたら、色んな物が見えてくるかもしれない。変な意味じゃなくて、社交界で色んな男性と知り合ってもいいと思うよ」

「うーん。そう、かもね」

紅茶に手を伸ばして口に含むと、少し冷めかけていたけれど、甘さが喉に心地よかった。兄様の言葉に、確かにそうかも・・・と頷いた。

もう、アルファードのことは忘れなきゃいけない。

私ではない人を選んだのだから。

私は、私を選んでくれる人を見つけなければいけない。

そうしなきゃ、なんだか、自分が空っぽになってしまいそうで怖い。

「もしもの時は、私の友人を紹介しよう。実は何人かに、カレンを紹介して欲しいと頼まれているんだ。アルファード様と婚約していたから、皆無理だと諦めていたけど、これからはうるさく言われそうだな」

「あら、意外と私モテるかもね」

「そうかもな」

顔を見合わせて、ふっと笑い合った。

さっきまでの重たい気持ちが、少しだけ軽くなった気がした。

まるで暗い森の中で、遠くに小さな灯りを見つけたような、そんな感じ。

「それで、そのシルビアはどんな女性なんだ?」

「・・・あまり知らないの。シルビアは寮生活をしているから、私とは派閥が違うし、行事くらいでしか顔を合わせない」

「寮生活か。それならどうやって出会ったんだろうな?」

「アルファードが言うには、急にシルビアが大事に思えたって・・・言ってたわ。本当に些細な事に惹かれたんじゃないのかしら。私にないものを、シルビアが持っていて・・・アルファードは、そこを気に入ったのかもしれない」

静かにそう呟くと、また胸が痛んだ。

あの時の、あの表情。シルビアを見つめる目の、あの優しさを思い出してしまう。

「そうか。それなら、カレンの持っているものを好きになってくれる男性を見つけないとな」

「そうね・・・」

私の中にある何かを、まるごと受け入れてくれる人がいるなら。

今は想像もつかないけれど、いつか、出会えるのだろうか。

「さて、夕食はちゃんと顔を出せよ。今食べたから然程食べれないかもしれないが、それでも顔出すだけでも皆安心するからさ」

ぽんと私の頭を撫でて、兄様は優しく微笑みながら、部屋を出ていった。

その後ろ姿を見送りながら、私は胸の奥でそっと呟いた。

アルファードに負けないように、私も

本当の愛を見つけないとね。

そうじゃないとなんだか、悔しい。

でも、正直、学園で二人の顔を見るのは、やっぱり辛いだろうな。

そう思うと、また、胸が苦しくなった。


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