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招待されたお茶会1

馬車の揺れが、とても気持ちを穏やかにさせてくれた。

窓の外に広がる景色をぼんやり眺めながら、頬杖をつく。普段の私なら、そんな行儀の悪い格好は決してしない。けれど今は、不思議とその怠さが心地よかった。

お尻に伝わる規則的な振動が、まるで脳を優しくかき混ぜるようで、重く沈む気持ちを少しずつ散らしてくれる。

窓の外には、広がる黄金色の麦畑や、小高い丘に点々とする家々、遠くに霞む森が流れるように後ろへ去っていった。時折吹き込む風が、馬車の重厚なカーテンを揺らし、ほんのり草の香りを運んでくる。

それすらも心を慰めてくれるようなのに、胸の奥に溜まる不安は晴れなかった。

今、私はオデッセイ様の屋敷へ向かっている。

お茶会は明日だが、一日がかりの道のりのため、朝早くに出発した。

夕刻に到着し、そのまま泊まらせてもらい、翌日の昼前にお茶会を済ませて、帰りは深夜に屋敷へ戻る予定だ。

本来なら自分の屋敷の馬車を使うはずだったのに、二日前、ゼットから

「迎えを出す」

と手紙が届いたのだ。

断りたかった。けれど、もう準備されてしまっていて断るには遅すぎた。

それを狙っていたのは、丸わかりだ。

狡い、と思いながらも、その強引さが今は楽に感じる自分もいた。

しかも、その手紙には

「当日、お茶会に顔を出す」

あの時の約束通り、わざわざ書いてくれていた。

だから、私は今こうしてエルディア王国の紋章を掲げた豪奢な馬車に揺られている。座り続けているせいでお尻は痛むけれど、重厚な装飾や柔らかな座席に身を沈めていると、ほんの少し誇らしい気持ちになるのも確かだった。

けれど、ゼットの筆跡で綴られた文面は、心をざわつかせずにはいられなかった。

「最後に会った日の帰り、俺が何度溜息をついたと思う?」

「明日会うまでに、俺の脳裏にカレンが何回浮かぶと思う?」

そんな聞いたことも無い甘ったるい言葉が幾つも並んでいた。

読んでいると顔が熱くなり、こそばゆさに思わず身を捩りたくなる。

恥ずかしい、やめてよ、

という気持ちと同時に、その何倍もの

「どうしよう!?」

という不安が胸を押し潰していた。

だって私は、アルファード、シルビア、そして王妃様の前で

「ゼットと婚約している」

と口にしてしまったのだ。

あの場では他に策がなく、思わず言ってしまった。けれど今になって冷静に考えれば、あんな嘘をあの面々の前で豪語してしまっては、もう後戻りできない。

両国は王妃様同士が姉妹の為親、縁が深い。

ゼノリア王国は暖かく、エルディア王国は寒い地方なのだ。

その為、作物などの品物が違う為、互いにとってなくてはならない貿易相手なのだ。

けれど、いつまでも王妃様の代が変われば、全く同じようにはいかない、と不安な声が少しずつあがっていた。

そこに、ゼットと私。

婚姻で結ばれれば、誰が見ても今までと同じように強固な絆となる。反対など起こるはずもなく、むしろ賛同しかないだろう。

国た為には喜ぶ事だ。

けれど、私は嬉しくなかった。

私が撒いた種であることは理解している。それでも、嘘で塗り固めた基盤の上に何の「絆」が築けるのだろう。

ゼットも、本心から喜んでくれるとは思えない。

もちろん、一緒になることを望んでくれるかもしれない。

けれど、それが真実の想いなのか、私には分からなかった。

ゼットはいつだって、私の気持ちを優先してくれた。その優しさが嬉しかった。

ある意味、アルファードとは正反対。

アルファードは常に自分の気持ちをぶつけてきた。それはそれで楽だったけれど、そこに私の気持ちがあったはずなのに、今は、よく分からなくなっている。

私は、もう一方通行の恋愛はしたくない。都合よく扱われるのも嫌だ。

なのに、私はまた、自分で自分を追い詰めてしまった。

だって、都合よく使いたくない、といいながら私はゼットを都合よく使ってしまった。

ああ、どうしたらいいの!?


「オデッセイ様!!私を助けて下さい!!私、嘘つきになってしまったんです!!」

屋敷に到着し、馬車から降りるなり、私は叫んでいた。

オデッセイ様の姿を見た途端、張り詰めていた感情が堰を切ったように溢れ出し、縋りついてしまったのだ。

長時間の馬車旅で、閉ざされた狭い空間に押し込められたせいで、不安は限界まで膨れ上がっていた。同乗していた召使いも、途中から私の言葉が支離滅裂で理解できないほどだったに違いない。

気づけば私は、涙で濡れた手でオデッセイ様の服をを鷲掴みにしていた。

「助けて下さい!!」

声が裏返り、自分でも驚くほど必死な響きになっていた。

オデッセイ様は呆気にとられ、しばし言葉を失っていた。

彼女の大きな瞳はさらに見開かれ、信じられないものを見るかのように私を凝視する。眉間には深い皺が刻まれ、その表情には困惑と警戒と、少しの苛立ちが入り混じっていた。

「……あんた、何しでかしたの?私、お茶会にあんたを誘ったのですのよ」

声色には動揺が滲んでいる。無理もない。まさか、到着したばかりの客人が泣きじゃくりながら縋ってくるなんて、誰が想像するだろう。

けれど、私だって、こんな姿を晒すことになるなんて思っていなかった。

「そうですよ!だから、積もる話があるんです!!お茶会とはそういうものでしょ!!」

必死に訴える私に、オデッセイ様はさらに目を丸くした。やがて、盛大なため息をひとつ。

「……そっちですの?」

呆れ混じりの声が返ってきて、私は頬を赤くした。

オデッセイ様は肩をすくめ、再び大きなため息をつく。

「……はいはい、聞いてあげますわ」

その言葉には、驚きと呆れがない交ぜになっていたけれど、結局は、受け止めてくれる優しさがあった。


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