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アルファード目線

ぱくぱくと、嬉しそうに、美味しそうに料理を口に運ぶシルビアの姿は、なんというか……リスのようだった。

目を輝かせながら、ナイフとフォークを両手に構え、上品とは言いがたいテンポで、次々と料理を頬張っていく。

そのたびに両頬がふくらんで、まるでほお袋に詰めているかのようだった。けれど、無邪気で、

そう、どこまでも無邪気で、

見ていると、自然と頬がゆるむ。

王宮の大食堂には、静かな弦楽の調べが流れ、天井にはいくつもの黄金のシャンデリアが輝いていた。

夜の帳が下りる頃、窓の外には中庭の灯火が揺らめき、銀の食器に反射して光の粒が踊っていた。

シルビアは、そんな空間にまるで慣れていない。

フォークとスプーンの扱いもぎこちなく、料理を落とすこともしばしばだった。

特に、スープをすくったときには、器を傾けすぎてテーブルクロスに滴が垂れたほどで、さすがに目を丸くしてしまった。

思い出せば、カレンは、そういうことは一度もなかったな。

一口ごとに丁寧で、静かで、落ち着いていて。

まさに「王太子妃の婚約者」として申し分のない振る舞いだった。

作法は不慣れで、どこか抜けている。けれど、そこがいい。

素直で、飾らなくて、愛らしい。人の心を疑うことも、飾ることも知らないその目は、今も皿の上の肉料理に夢中だった。

「カレンはそんなこと、なかったよ」

つい、そんな言葉が口をついて出た。

するとシルビアは、はっと目を見開いて、ナプキンで口元を拭いながら姿勢を正した。

「申し訳ありません……。つい、美味しくて……口が小さいのに入れちゃうんですぅ」

にっこりと微笑むその顔は、反省しているというより、むしろ誇らしげに見えて。

思わず笑ってしまった。

「でも、僕の誕生日にはパートナーとして側にいてもらわなきゃいけないから、これから気をつけてね。ドレスを汚してしまっては大変だから」

「分かりましたわぁ」

またその笑顔だ。素直で、まっすぐで、今のこの雰囲気には全くそぐわない。

でも、なぜだろう。この子の言葉や笑顔には、まるで嘘がなく、私の気持ちを和らげる。

「そういえばシルビア。カレンには、教育という教育がなかった。君には、これから何人もの教育係がつくよ。素晴らしい女性になれる」

それは、正直な気持ちだった。

シルビアには可能性がある。育てる余地がある。いや、むしろ、いまからの彼女が楽しみだった。

だけど、彼女はふと表情を曇らせて、ほんの一瞬、目を伏せた。

「嬉しいですわあ……。でも、カレンと比べてしまうと……カレンが可哀想。だって、その程度だったということでしょうからねぇ」

言葉が詰まった。

そうか。そういう意味、か。

何年も前から教育を受け、最初は何十人もいた教育係が、次第に減り、最後にはたったひとりとなったカレン。

けれど、その教育係も「もう教育は必要ない」と言っていた。

それは完成された、という意味だったのか。

それとも、もう、教えるべきことがない、

変わらない、という諦めだったのかもしれない。

私の婚約者として、隙のない優雅な身のこなし作法も、上手く繕われたものだったのかもしれない。

「僕の目には、カレンの振る舞いは素晴らしく見えた。でも、それは……そう見えるように偽っていた、ということなのか……」

「きっと、そうですわ。ごめんなさいね、アルファード様ぁ。本当のカレンを暴いちゃいましたわ。かなり無理して辛かったのでしょうね。だから、婚約解消もすんなりしてくれたんですわ」

「……そうだね。カレンはそんなに無理していたのか。可哀想な事をしたね」

そのときだった。

「そうね、可哀想ね」

母上の低い声が響いた。

静かに、しかし冷ややかに。

立ち上がった母上は、シルクの裾をさらりと翻し、無言のまま部屋を後にした。

「王妃様も、同じこと思ってらっしゃったのね」

「そうだね。母上は、カレンのことを、全く相手にしていなかったから」

「まぁ、ますます可哀想ですねぇ」

「そうだね」

そう答えたものの、心の奥に小さなざわめきが残った。

今の母上の顔。

まるで、これまで見たこともないほど冷たく、そして、鋭かった。

母上は基本感情を顕にすることもなく、己の事にしか興味が無い。

けれど、今回は珍しく私の願いを聞いてくれ、母として私を信じてくれ動いてくれたのだ、と嬉しかった。

嬉しかった。

「今更ながらカレンが可哀想だと思ったのだろうな」

「好きでもない方と婚約していたんですもの、女性として理解していて見ていてわかったのでしょうねぇ。でもぉ、今は皆が幸せですわ。ね、アルファード様ぁ」

「そうだね、母上も私達の味方だし、カレンの本当の気持ちを知れば父上も理解してくれるだろうし、何よりもシルビアの事をすぐに気に入ってくれるよ」

「嬉しい。私、アルファード様の為に頑張りますわ」

可愛く首を傾げ笑ってくれるシルビアに、僕は小さく頷いた。


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