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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

佐伯は空を飛べるらしい

作者: たま




「佐伯って、空飛べるってマジ?」



同じクラスの佐伯は、あんまり目立たない男だが、実は綺麗な色の目をしている。

アイスティーの色なのだ。


ある日の授業中、机にへばりついてふと見上げた先にあった佐伯の目が綺麗で、俺は見とれてしまった。氷の音が聞こえてきそうな、冷たいアイスティーの色だと思った。佐伯は俺の視線には気付かず黒板を見ていたから、俺はそれからチャイムが鳴るまで、その色に魅了されていた。


俺は、それからずっと、佐伯と話をしてみたかった。でも話題がなかった。そしたら、今日、クラスの女子たちが佐伯について話していたのを偶然聞いたのである。

佐伯は小学生のころ、空を飛んでいたのだと。

その女子は、佐伯と同じ小学校だったのだそうだ。

しめたと思った。放課後を待って、俺は佐伯に話しかけることにした。


こっちを振り向いた佐伯は、道路に飛び出したネコのような顔をしていた。

まん丸に開いた目は、やはり涼しいアイスティーの色だ。その目が、俺だけを映している。いい気分だった。



「誰に聞いたの?」


「岡崎さんが、今日女子で話してんの聞いたの」



佐伯は、あーそっか、と納得したように頷いている。ちょっと苦々しそうな顔をしているのは、同じ小学校の人以外にバレるのはまずいことだったのかもしれない。



「…あのさ、苅田。他の人には黙っててくれる?」


「言っちゃダメなやつなの?」


「うん。代わりに、今から空飛ばしてあげるから。いい?」



窺うようにして、こちらをアイスティーの目が見つめる。

俺は驚いた。別に言いふらす気は無かったのに、というかただ佐伯と話すネタにしたかっただけなのに、俺は今から空を飛べるらしい。

別に飛ばなくてもよかったのだが、断るのも変だし、飛ばないと話が終わってしまいそうなので俺はうなずいた。


佐伯に手を引かれ、教室の外のベランダに出る。

佐伯がベランダに上履きの足を乗せ、そしてふわりと浮き上がった。すると、手をつないでいる俺も、ふわりと浮き上がった。

風に下から優しく押し上げられるようにして、俺たちは自然に空へと浮かび上がっていく。


ぐんぐん空を上りながら、俺は佐伯だけを見ていた。

佐伯が俺を引っ張っていくから、俺は佐伯を下から見上げることになる。それはあの日、机の上から見上げて佐伯の目のうつくしさに気づいた日と、ちょうど同じ角度だった。


やっぱり綺麗である。


「きれいだな」とつい呟いてしまったら、佐伯がこっちを向いた。アイスティー色が三日月形になる。



「でしょ。天気いい日とか、すげー気持ちいいよ」



一拍置いてから、佐伯の言っているのは空のことだと気付いた。

それから俺は自分が今、空を飛んでいるのだということを自覚した。佐伯の髪が風にさらさらと揺らされていて、その後ろは全部そらいろである。空以外何もない。


俺は、空しか無いならいいかな、と思った。気持ちが大きくなっていたのかもしれない。今なら、そのまま伝えても許されるような気がした。その意味では、空を飛んで良かったと思った。



「ううん、綺麗なのは、佐伯の目の色のこと。俺、その色、すげー好き」



真っ直ぐに目を見て伝えると、俺はすごくすっきりした気持ちになった。そうか、俺はこれを佐伯に伝えたかったのかもしれない。

佐伯の目は、またくるりと丸くなった。

それから右へ左へ、そわそわと動くアイスティー。えーと、と佐伯が言う。そうして、



「……空飛んで、そんなこと言われたの、初めてだ」



――冷たいアイスティーに、ガムシロップが溶けた。


その甘い眼差しもやっぱり綺麗で、俺はまた見惚れてしまったのだった。



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