07 逢瀬は暗闇の中で
それからの事。人目を忍んで、私はテレンスと会う約束をした。厳しい身分差があるのは、互いに口に出さないが事実だった。けれどそれすら超えて、彼は私に好意を寄せてくれている。
お互いのことをまだ深くは知らない。それでも、彼と一緒にいると心が弾む。自分が変わりつつあるのが嬉しかった。
日が沈み、人通りが途絶えた街角。そこで私は、石垣に寄りかかるテレンスの姿を見つけた。
「ルォシー。いい夜だね」
私に気づくと、テレンスは微笑んだ。澄んだ瞳が、夜闇に浮かび上がる。
「こんな遅くに呼び出して、ごめんなさい」
私は小声で謝った。身分違いの恋。周囲に知られたら、大変なことになる。この誤り癖はなかなか抜けないなぁ。
「君に会えるなら、陽が出ていたってかまいやしない」
おどけてテレンスは言って、私の手を取った。逞しくて温かい手。私はシンプルにどきっとする。彼の手、結構大きいんだ。
「最近仕事はどう?」
「誰かさんのおかげで針の仕事はばっちりよ。褒められるくらい」
「ははっ。君を愉快にさせるなんて、どんな奴だろう?」
私はテレンスと並んで歩き始めた。狭い路地を抜け、川沿いの小道へ。満月の光が水面を照らし出す。
「僕こそ、無理に付き合わせてすまない」
「無理なんてしてないよ。会えることがただただ嬉しいってば」
私は珍しくしゅんとしてる彼を小突いた。
「──君はいつも欲しい言葉をくれるな」
テレンスの瞳が、真剣な輝きを放つ。その眼差しに胸が高鳴る。……私たちは、同じ想いなのかもしれない。そんな思い上がりもちょっぴり。
川のせせらぎだけが、静寂を破る。私とテレンスは、そっと寄り添うように歩いた。いつもは賑やかな街も、この時間は休息しているみたいだ。
「ねえ、テレンス。貴方のお仕事って、どんなことをするの?」
私は唐突に尋ねた。テレンスのことをもっと知りたくて。けれど──。
「そ、それは……ちょっと言えないんだ。ごめん」
テレンスは目を伏せ、言葉を濁した。割とわかりやすく狼狽えた。どうやら、まだ私に明かせない秘密があるようだ。
「……そっか。いつか、教えてくれる?」
「うん。──いつか、必ず。君には絶対に」
ふと立ち止まる。
煌く星空の下、テレンスはそっと私の頬に手を添えた。触れ合う肌が熱を帯びる。私は思わず息を呑んだ。
好きになってはいけないのに──自分でもわからない。けれど私はまぶたを閉じた。頬にテレンスの吐息が触れる。
「ルォシー」
「テレンス──」
まるで引き寄せられるように、私たちの顔が近づいた。けれどギリギリのところで、テレンスは私を抱き寄せた。そのぬくもりに、私の鼓動は早鐘を打つ。この胸の高鳴りは、どうしようもなく恋というものなのかもしれない。
身分に差のある、ハッピーエンドなんてない、恋。
長い沈黙が、二人を包む。言葉はなくても、通じ合えると信じたかった。
やがてテレンスは、私をそっと離した。名残惜しそうに、微笑みながら。
「そろそろ帰らないと。君のことが心配になる人がいるだろう?」
テレジアのことを思って、私は小さく頷いた。別れ際、テレンスが耳元で囁く。
「……次に君が目を閉じたら、僕は我慢できる自信がない」
その言葉に、私の心は期待に胸を躍らせた。まだ謎めいたテレンス。だけど、彼の心は、私の心に触れようとしてくれている。
離れて、夜の冷たさを感じて、人のぬくもりを思い出す。
「あはは」
こうして私たちは、人目を盗んだ逢瀬に別れを告げた。これから私たちの恋は、どんな道を辿るのだろうか。希望と不安が入り混じる中、私はテレンスへの想いを胸に秘めた。
大丈夫、きっと素敵な恋になる。そう信じながら、私は満月に笑顔を向けるのだった。
「なったらいいな」
貴重なお時間を割いてお読みいただき誠にありがとうございます。
お気に召しましたら☆☆☆☆☆からご評価いただけますと幸甚です。
ブックマークも何卒よろしくお願い申し上げます。
ご意見・ご感想もいつでもお待ちしております。




