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13 縁で咲くのは

 宮殿に呼び出された私は、身の置き所のない思いでそこに立っていた。豪奢な装飾に目を奪われながらも、どうしてここにいるのか、その理由がわからない。後ろから襲われ、さるぐつわをされ、私は拉致されたのだ。

 

 あやしい沈黙の中、やがて威厳のある声が響き渡った。


「下民。そこにおるのだな」


 控える兵士によってさるぐつわがはぎとられる。


「は、はい……」


 おずおずと答える私を見下ろすのは、厳めしい顔立ちの初老の男性だった。

 

「我はこの国の左大臣なり。陛下をお前如きに合わせる訳にもいかぬ。故に我が言う。テレンス殿下との奇妙な関係はやめよ」

「──……」


 その言葉に、私の胸が突き刺されるようだった。


「皇太子とそなたでは、身分が違いすぎる。それに気づかぬか。気づいているのならば重罪だ」

「で、でも……」

「いいか、賤民の分際で殿下に近づくことは許されぬ。今首がつながっていることだけでも奇跡と思え」


 冷たい視線を向けられ、言葉に詰まる。確かに、私たちは身分違いの恋だ。けれど、お互いに惹かれ合っている。それがなぜいけないの。


 どうして?

 

「左大臣ッ!」


 私はぼうっとした。そこへ、テレンスが駆け込んできたのだ。上気した顔で、私の前に立ちはだかる。私はそこで遅れながらようやく気が付いた。


 テレンスはただの貴族じゃない。──皇族なのだと。


「殿下。私の言っていることは聞こえているでしょう」

「ですが、ルォシーを責めるのは筋違いです。全ては、俺が──」

「殿下。聞こえないのなら、娘の耳を切り差し上げましょうか」


 容赦無い仕打ちに、テレンスが顔を歪めた。私への咎めは、全てテレンスへとターゲットを変えたようだった。

 

「待って、テレンス……殿下。私はいいの……です。責任は私が──」

「ルォシー……」


 テレンスを庇おうとする私に、左大臣が鋭い声を投げかけた。


「ルォシー・リン! 皇太子を惑わすでない。身の程をわきまえよ」

「で、でも……」

「馬鹿め! どれだけ死にたいのか! 顔をズタズタにされたいか!」


 激昂する皇帝に、私は怯み、縮こまっていまった。私がこれ以上身勝手に動けば、後続であるテレンスを不利に追い込むだけだ。


「ルォシー、すまない。君を守れなくて……」

「……いえ、殿下は悪くございません、全ては私の様な下賤の民が」


 言うと、テレンスの瞳が開いて、痛切な表情になったのが見て取れた。


「だそうです『殿下』。ようやくこの下民も理解した様子で」

「──皇族の座なんてクソ食らえだ、俺は」

「まさか、下民の為に国を捨てる、なんてことはないでしょうな」


 彼は、国家と、私との間で引き裂かれているのだ。


「……俺は」

「私は路地裏で生まれた身です故、路地裏で死ぬ運命にあります」


 柄にもない、心にもないことを言った。


 そっと、私はテレンスの手を振り解いた。心の割れるが聞こえた気がした。


「ルォシー、待ってくれ」


 悲しそうなテレンスに、私は最敬礼で額を地面につける他なかった。


 こんな形で終わりたくなかった。叶わぬ恋だったとしても。


 でももう終わりだ。


 割れた心を拾わずに、彼は悲壮な声を少し漏らして、去っていった。


 愛する人が、遠ざかっていく。


 ──お願い、振り向いて。


 一縷の望みは、なんて自分勝手なのか。


 無言の懇願も虚しく、テレンスの姿が消えていった。残されたのは、過酷な現実と、儚い恋の欠片だけ。


 涙が頬を伝う。今ここで、私たちは引き裂かれようしているー。


「大好き、でした」


 掠れた声が、虚空に溶けていった──。

貴重なお時間を割いてお読みいただき誠にありがとうございます。

お気に召しましたら☆☆☆☆☆からご評価いただけますと幸甚です。

ブックマークも何卒よろしくお願い申し上げます。

ご意見・ご感想もいつでもお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新話まで読ませていただきました。 このまま、二人の中は引き裂かれたままなのでしょうか。更新を楽しみにしてます!
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